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47 sideエラ

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 エミリーの暴れる音と絶望と怒りが混じった声が後ろから聞こえてくる。

 その音を気にすることなく足を進める。

 門の前に立っていた保安官が合図を送ると、門番が扉を開けて外に出ると。


「話しは終わったのか?」

「えぇ」

 
 扉越しにエミリーの暴れる音と、声が聞こえるのを気にすることなく、私を心配そうに見るクリスに私は力なく頷く。


 私がエミリーと会ったと知ったら、マリベルはどう思うかしら。

 私にはマリベルに隠していることが沢山ある。


 今はただのエラだけど、本当の名前はエリザベス・レオン・グレアム。

 グレアム国皇帝の三番目の娘であり、第三皇女だ。

 名前を隠して遠い親戚であるクリスを護衛として、この国に留学と称して跡継ぎ争いから離脱してやって来た。


 国にいた時は兄妹達の間で、権力争いで蹴落としたりすることは当たり前だったのに、ドロドロとした汚い自分をマリベルに知られるのが怖いと思ってしまう。

 私のこんな黒い部分を知られたくないーー。

 そう思っていると強く握って白くなった手を、温かい手に包まれる。

 下がっていた顔を上げると、クリスが真っ直ぐと私の目を見て言った。

 
「帰ろう」


 公爵家の令息であり、剣の才能を持ち、高い地位を約束された男。

 高い地位とその才能、地位を鼻にかけない柔和な容姿から、クリスの留学を残念に思う帝国の令嬢は少なくない。

 それなのに、どうして私の留学について来て、一介の生徒として通う羽目になったのか。

 私はいまだにクリスが何を考え、ついて来たのか分からないでいる。

 聞いたら以前聞いた時と違って、はぐらかさずに教えてくれるかもしれない。だけど、私はクリスの本当の気持ちを聞くのが怖くて、聞けないでいる。


 今はこの心地良い関係でいたい。
 そう思ってしまう……。


「帰りましょう」


 いつまでも隠してはいられないと分かっている。
 いつかマリベルに本当のことを話す時がくる。その時までは……ただの"エラ"でいたい。

 そして、無理だと分かっていてもこの留学が永遠に続いて欲しいと思ってしまう。

 
 やっとマリベルの裁判が終わって、平和な学園生活が戻ってきたのだ。
 

 今はその平和な時間を楽しむことだけを考えようーー。
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