47 / 49
47 sideエラ
しおりを挟むエミリーの暴れる音と絶望と怒りが混じった声が後ろから聞こえてくる。
その音を気にすることなく足を進める。
門の前に立っていた保安官が合図を送ると、門番が扉を開けて外に出ると。
「話しは終わったのか?」
「えぇ」
扉越しにエミリーの暴れる音と、声が聞こえるのを気にすることなく、私を心配そうに見るクリスに私は力なく頷く。
私がエミリーと会ったと知ったら、マリベルはどう思うかしら。
私にはマリベルに隠していることが沢山ある。
今はただのエラだけど、本当の名前はエリザベス・レオン・グレアム。
グレアム国皇帝の三番目の娘であり、第三皇女だ。
名前を隠して遠い親戚であるクリスを護衛として、この国に留学と称して跡継ぎ争いから離脱してやって来た。
国にいた時は兄妹達の間で、権力争いで蹴落としたりすることは当たり前だったのに、ドロドロとした汚い自分をマリベルに知られるのが怖いと思ってしまう。
私のこんな黒い部分を知られたくないーー。
そう思っていると強く握って白くなった手を、温かい手に包まれる。
下がっていた顔を上げると、クリスが真っ直ぐと私の目を見て言った。
「帰ろう」
公爵家の令息であり、剣の才能を持ち、高い地位を約束された男。
高い地位とその才能、地位を鼻にかけない柔和な容姿から、クリスの留学を残念に思う帝国の令嬢は少なくない。
それなのに、どうして私の留学について来て、一介の生徒として通う羽目になったのか。
私はいまだにクリスが何を考え、ついて来たのか分からないでいる。
聞いたら以前聞いた時と違って、はぐらかさずに教えてくれるかもしれない。だけど、私はクリスの本当の気持ちを聞くのが怖くて、聞けないでいる。
今はこの心地良い関係でいたい。
そう思ってしまう……。
「帰りましょう」
いつまでも隠してはいられないと分かっている。
いつかマリベルに本当のことを話す時がくる。その時までは……ただの"エラ"でいたい。
そして、無理だと分かっていてもこの留学が永遠に続いて欲しいと思ってしまう。
やっとマリベルの裁判が終わって、平和な学園生活が戻ってきたのだ。
今はその平和な時間を楽しむことだけを考えようーー。
35
お気に入りに追加
3,264
あなたにおすすめの小説
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
【完結】婚約者が恋に落ちたので、私は・・・
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
ベアトリスは婚約者アルトゥールが恋に落ちる瞬間を見てしまった。
彼は恋心を隠したまま私と結婚するのかしら?
だからベアトリスは自ら身を引くことを決意した。
---
カスティーリャ国、アンゴラ国は過去、ヨーロッパに実在した国名ですが、この物語では名前だけ拝借しています。
12話で完結します。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
【完結】友人と言うけれど・・・
つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。
王命での婚約。
クルト・メイナード公爵子息が。
最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。
一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。
それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。
なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。
これは自分にも当てはまる?
王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。
そもそも、王女の結婚も王命だったのでは?
それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。
水面下で動く貴族達。
王家の影も動いているし・・・。
さてどうするべきか。
悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる