婚約者の幼馴染に階段から突き落とされたら夢から覚めました。今度は私が落とす番です

44 sideエラ

「あなたのメイドがどこに消えたのか、知りたくありませんか？」　　

「メイドの行方は探しているからいずれ見つかると聞きました」

「本当にそうかしら？」

「……どういう意味ですか？」


　私の意味深な言葉に、エミリーは困惑した顔をする。


　そんなエミリーの反応に、私は今までの出来事を思い出していた。


　主人であるエミリーの命令により、マリベルの研究室に忍び込んで薬を盗み、エミリーの逃亡、ステファン・ギャレットの拉致監禁に協力したメイド。


　エミリー達が見つかった宿には、エミリーとステファン・ギャレットの二人だけ。メイドの姿はどこにもなかった。


　メイドは保安官達に行方を捜索されているのにも関わらず、見つかるどころか今もなお、目撃証言もないまま、逃亡を続けている。


　逃亡を続けるメイドと、捕まったエミリー。


　逃亡したのなら捕まる前に遠くにメイドと逃げればいいものを、エミリーはどうして首都の平民街の宿で見つかったのか？

　それは、メイドの迎えを待っていたからーー。


　マリベルの研究室に泥棒が入ったのを知った私は、エミリーかステファン・ギャレットの仕業だろうと考えた。


　情報ギルドに調査を依頼すると、やはり盗みはエミリーの仕業だった。　


　情報ギルドを通じて、エミリーのメイドに接触した私は、メイドに「あなたは捕まることになる」と告げると、少し考えればわかるものを彼女は自分の罪を自覚して震えていた。

　それからは簡単だった。


『捕まりたくなかったら私に協力しなさい。そうすれば、この国から出るのを助けてあげる』


　私の言葉をメイドは泣きながら受け入れた。


　本当は彼女に裁判で証言をしてもらうつもりだった。

　主人にマリベルの研究室に盗みに入るように命令されたこと。そして、以前からマリベルを敵対視していたことを証言してもらうつもりだったのだけれど、ステファン・ギャレットがエミリーの下を訪れたことで計画が狂ってしまった。


　エミリーがステファン・ギャレットに睡眠薬を飲ませたと、メイドから知らせが入ったのは裁判前日のことだった。


「あなたがメイドに命じて、マリベルの研究室に忍び込ませて、薬を盗んだのも全て知っているわ」

「それは、裁判を見ていた人なら誰でも知っていることです」


　裁判を見ていた人だけではなくて、今回の事件は新聞にも載っていたから、多くの人が知っている。　　


　これだけじゃ弱いわねと、一つ踏み込んだ話をする。


「そうですね……。では、あなたは否定してることがありますよね？ステファン・ギャレットに自白剤を飲ませてはいないと」

「どうしてそれを……」


　エミリーの驚く姿に私は満足する。

　エミリーが驚くのも無理はない、エミリーがステファン・ギャレットに何を飲ませたのか、それは被害者保護のため、秘密にされている。

　そして、エミリーはステファン・ギャレットに薬は飲ませたが、それは自白剤ではないと否定しているのを知っているのは一部の人だけ。


「あなたはこう思ったはずです。惚れ薬を飲ましたはずなのに、どうして自白剤なの？と」

「どうしてあなたがそれを知っているのですか……？」


　どうして私が知っているか？なぜなら……。


「薬瓶の中身を自白剤に入れ替えて、あなたに渡せとメイドに言ったのは……、私ですもの」


　私は彼女に見せる最高の笑顔を浮かべて言った。