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 ステファンが去った部屋で、私とエラは運動をした後のような疲れきった顔をしていた。


 どうして話しをしただけなのに、こんなに疲れているんだろう……。錬金術の研究のために、三徹した時の疲れの方がまだマシだわ。

 手を頭のこめかみに添えて、グリグリと押してため息を吐いた。

 気怠げに背もたれにもたれて、エラは私を見て言った。


「これで良かったの?」

「これって?」

「裁判の証言よ。私が言い出したことだけど、彼と話したら不安になってきたわ。ここまできて優柔不断なのは、もはや病気ね」


 そう言って、エラは窓の外を見た。エラにつられて外を見ると、丁度ステファンの後ろ姿が見えた。

 気のせいか、その背中から暗い雰囲気が漂っているように見える。


 遠ざかっていく背中を私は遠い目でみた。


「ステファンにはステファンの正義があるのよ」

「婚約者だったマリベルを守れもしない正義を、正義なんて認めたくないわ」


 私のことを思っての言葉だと分かっているけれど、エラはステファンに厳しい。

 私は苦笑いをして言った。


「証言をしてくれるって言ったんだから、良かったじゃない」

「そうだけど……」


 エラの言葉が効いたのか、ステファンは証言をするのを承諾した。

 条件付きの承諾だったけれど、エラは不満らしい。


ーーー

「僕は……」

 
 私の目を真っ直ぐと見て言ったステファンは、何かを言うのを躊躇うように眉をひそめると、ふたたび黙ってしまった。

 しばらくの沈黙の後、ステファンは息を吸うと口を開いた。


「分かったよ……。証言はするけど時間をくれないか?」

「時間?どれぐらいの時間が必要なの?」

「一週間……、一週間でいいから時間が欲しい」

「もしかしてだけど、幼馴染と話そうなんて思っていないわよね?」


 ステファンの言葉に、エラは椅子に座り直しながら鋭い目でステファンを見た。


「そんなんじゃないよ。ただ……、心の整理をしたい」


 なんの心の整理をするのか疑問だけれど、承諾してくれただけ良い?のかしら。


 私は頭の中で日程を組みながら、ある答えを出した。


「五日……、五日しか待てないわ」


 証人喚問の請求はすぐに出来ないから、三日後の裁判で証人喚問の許可を取って、次の裁判の日に向けて弁護士と話しをすれば、十分に間に合うはずだ。


「証人喚問の請求をするから、認められたら弁護士を交えて話し合いをしましょう」

「分かったよ」

「しないと思うけど、エミリー様と話そうとか考えないでね。まぁ……、あなたがそんな裏切りをしないことを信じているわ」


 にっこりと笑顔でステファンに圧を掛ける。


 裁判がはじまっても、エミリー様からの謝罪の言葉はない。

 エミリー様に期待しても無駄だと思っているけれど、ステファンを信じでいいのか……。

 口に出た言葉と、心の言葉の矛盾を振り払うように、ステファンに手を振った。


「あぁ……。そんなことはしないよ」


 話しを終えて、ステファンはドアの取手に手を掛けながら言った。


「さっきの言葉に嘘はないと証明したいから」

「さっき?」


 さっきって何のこと?

 何の話をしているのか分からなくて首を傾げると、ステファンは「分からないならいい。日程が決まったらまた連絡して」と言って部屋から出て行った。


 それまで黙って聞いていたエラは、「最後まで気に食わない男だわ」とステファンが出ていったドアを睨みつけながら呟いた。


ーーー


 結局、ステファンは私に何を伝えたかったんだろう?嘘はないって証言をすること?嘘だったら困るのは確かだけど……。

 記憶を辿って答えを探していると、エラが肩を解すように伸びをした。

 エラがいなかったら、ステファンは証言してくれると言わなかったかもしれない。エラには助けられてばかりね……。


「エラがいてくれて助かったわ。ありがとう」


 感謝の言葉伝えると、エラは照れた顔をして笑った。


「お礼なんていらないわ。親友として当たり前のことをしただけよ」


 私はこの時、安心しきっていた。全てが上手くいく……、物事が自分の思い通りに進むとは限らないのに。それが、男女関係のもつれなら尚更だ。


 証人喚問が認められ、弁護士を交えてステファンと話しをした数日後の証人喚問の日。ステファンが裁判所に姿を現すことはなかったーー。





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