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しおりを挟むステファンは誰にでも優しい人だった。
優しい王子様の隣には幸せそうに笑うお姫様ーー。
私が何者でもなかった時、ステファンの隣にいればお姫様になれると思った。
だから私はステファンの『大人になったら結婚しよう』の手を取った。
違和感をいつから感じていたのか?
それは思い出せないほど昔のことなのか、それとも最近のことなのか。それさえも分からないぐらい、違和感は当たり前のものとなっていた。
繊細なフリルが施された淡い色のドレスに身を包む、可愛らしい女の子の隣には優しい婚約者。
ガラスの靴があれば完璧なお姫様になれるのに……。私はそんなことを夢見ていた。
だけど、ステファンのお姫様になろうとしたけど、私はお姫様にはなれなかった。
最初は本当にお姫様になれると思っていた。
でも……。大人になるにつれ、お姫様にはなれないと気付いてしまった。
王子様だと思っていたステファンは、婚約者を幼馴染から守れもしないし。私はキレイなドレスより、ローブを汚して錬金術に熱中する女の子になっていた。
婚約者にまとわり付く幼馴染を見ないフリをして。幼馴染の口から吐き出される毒を無視した。
その矢先に事件は起こった。
階段から突き落とされて目覚めると、怒りの他に思ったことがあった。
あぁ……。これでやっと私は解放されるんだわ。
お姫様になれるという幻想からーー。
「私もあなたも。この役を演じるには実力不足だったのよ」
役を演じるという言葉に、ステファンは不思議そうな顔をする。
私はお姫様という役を演じようとしたけれど、それは私の負担となり、私を苦しめた。
「何の話をしてるんだ?」
「これからは自分の人生を生きましょう、という話をしてるの。誰かから与えられた役ではなくて」
「君の人生に僕はもう必要ないのか……」
ショックを受けた顔をするステファンに、私は何も言わずに頷いた。
「そうか……」と力なく座るステファンに「私はこれで失礼するわね」と声を掛けて、ドアへと向かった。
ドアの取手に手を掛けようとすると、後ろから声を掛けられる。
「マリベル。そのドレスよく似合っているよ」
淡い色のドレスを脱ぎ捨てた私は、腰から裾にかけて金糸で美しい刺繍が施された、パープルのマーメイドドレスに身を包んでいた。
もうあの頃の可愛らしい女の子はいない。
「ありがとう。私もそう思うわ」
さようなら。私の初恋。
これからは自分の好きなドレスに身を包んで、自分という人生を生きていくわ。
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