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 目覚めは最悪だった。

 婚約者の幼馴染に階段から突き落とされる。
 というのが夢だったーーなんてことはなく。医務室で目覚めると、擦り傷と打撲痕が背中、腕にでき、全身が鈍痛に包まれていた。


 幸い落ちる時に頭を庇ったせいか、顔には怪我がなかった。

 けれど、腕と背中は悲惨なものだ。
 背中と腕は包帯に覆われている。


「打ちどころが悪くなくてよかったですね。打ちどころが悪かったら、命にも関わるところでした」


 治療をしてくれた先生に「ありがとうございました」とにこやかに返したが、心の中は穏やかではなかった。


 ステファンめ!何が「幼馴染のことは僕に任せて」よ!!

 任せた結果がこの仕打ちはあんまりだわ。

 婚約者が階段から突き落とされたのに、看病もお見舞いもしないなんてどういうこと?でも、目の前にいたらいたで、逆に具合が悪くなりそうだ。
 

 こんなことになるなら、意地を張らずさっさと婚約破棄すればよかった。


 私の心は今、ステファンとステファンの幼馴染をどうやって煮え食ってやろうか、沸々と怒りで燃えていた。


 往復ビンタなんてどうかしら?いや、ダメね。私の手が痛くなっちゃう。もう痛いのは懲り懲りだわ。


 言葉だけの謝罪だけでは許してやらない。もっと何か二人に打撃を与えられるいい方法があるはず。


 あれはダメ、これはダメと二人への復讐計画を考えていると、医務室に誰かが入ってくる。


「マリベル、大丈夫か?」

「あら?ジルベルト様。これが大丈夫そうに見えますか?」


 予想外の登場人物に驚きながら、私は包帯に覆われた手を上げて見せる。


 彼の名前はジルベルト・ミラー。普段は自分の研究室から滅多に出てこないが、若くして、この国の未来を担うと期待される天才錬金術師だ。

 そして、数少ない私の友人でもあった。

 私が婚約者の幼馴染に階段から突き落とされたと聞いて、駆けつけてくれたらしい。
 

「階段から突き落とされたと聞いた時は驚いたよ。意識はハッキリしているみたいで安心した」

「身体はこんな風ですけど、ステファンと婚約破棄して、ステファンとその幼馴染にどう復讐するか考えるくらいには元気です」

「婚約破棄するのか?」


 私の言葉にジルベルト様は驚いた顔をする。


「勿論です。まぁ、いずれはしようと思っていましたし。ハッキリしないステファンの姿に愛想が尽きてしまいました」


 私の言葉を聞いて、ジルベルト様は手を顎に添えて考え込んでいる。

 しばらく考え込んだ後、ジルベルト様は口を開いた。


「それならいい考えがある」


 そう言って、ジルベルト様はステファンとステファンの幼馴染への復讐計画案を提案した。












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