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1.浮気現場を見てしまった

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 学園の庭園は恋人達の逢瀬の場所となっていた。

 男女が庭園の生垣に隠れるように身を寄せ合っていても、見ないフリをするのが暗黙の了解だ。

 だけど、その男女が自分と親しい関係の人だったら?人は冷静にその姿を見ることが出来るだろうか?

 マチルダは庭園の生垣に隠れるように身体を寄せ合う男女を見つめていた。
 その男女は親密さを隠そうとせず、二人が特別な関係にあるのは明らかだ。その二人が普通の男女ならその関係は責められるものではない。

 その男女がマチルダの婚約者であるアレックスと、義妹であるアンナでなければ――。

 浮気現場を私が見ているとも知らない二人は、二人の世界に入っているのか私の存在に気付かない。

 婚約者であるアレックスがアンナの腰を抱き、顔を近付けると、アンナは恥ずかしげに顔を逸らし幸せそうな笑顔で笑っている。

 その二人の姿を見ても不思議と私の心は冷静で、婚約者と義妹の浮気現場を見ても傷ついてすらいない。

 むしろ、今後どうするか頭の中で計画を巡らして、こんな誰が見てるかも分からない、学園の庭園で浮気する二人の度胸に関心すらしていた。

 アレックスの浮気は今にはじまったことではない、パン屋の娘、未亡人、女生徒からアレックスは沢山の女性と浮気を繰り返してきた。

 何度注意しても「最後に選ぶのはマチルダだけだ」と言い訳にもなっていない言葉を繰り返すだけ。

 お父様にアレックスの女性関係のことを言っても、「結婚をすれば落ち着くさ。お前には我慢が足りない」と私を責めさえする。

 だから、私はこの状況に耐えることしか出来なった。

 でも……。いくらアレックスの女性関係に寛容なお父様でも、浮気相手が自分の義娘であり、私の義妹だったら黙っていないだろう。

 やっとアレックスと婚約破棄できる。

 今後のことを考えて、思わず笑顔を浮かべていると庭園から声が聞こえてきた。

「ここで何をしている」

 いきなりの第三者の登場に、アンナはアレックスの背中に隠れるように引っ付いている。

 ルーカス?どうして彼がここに?

 第三者の正体は私の幼馴染であるルーカスだった。
 ルーカスの登場に驚いていると、三人の話し声がこちらまで聞こえてくる。

「アレックスはこんなところで何をしている」
「アンナが虫に怖がっていたから慰めていただけだ」
「そうよ。虫に怯えていた私をアレックス様が助けてくれたの」
「僕には二人が随分と親しげな仲に見えたが、僕の目が間違っているのか?」
「……そんな訳ないだろう?俺とアンナはいずれ義兄と義妹になる関係だ。そのせいで親しげに見えたのかもしれない」

 ハハハッと笑うアレックスに、ルーカスは声を低くして言った。
 
「この場所は何と言われているか知っているだろう?マチルダと結婚するなら行動を慎むべきだ」
「俺とマチルダの関係に口を突っ込まないでくれ。これは俺とマチルダの問題だ」
「そうかな?僕がマチルダに君達が抱き合ってキスをしていたと言ったら、マチルダも黙っていないだろう」

 余裕そうにルーカスを馬鹿にするような声色で言ったアレックスは、ルーカスの言葉に顔色を変えた。

「なっ!?そんなに俺達の関係を邪魔したいのか!?俺は………………」

 三人はまだ話しているのに声がよく聞こえない。
 
 まだまだ終わりそうにない三人の会話が気になって足を進めると、こちらに気付いたアンナと目が合う。

 まずい……。隠れて聞こうと思っていたのに。

 進めていた足を引こうとすると……。

「お義姉様……」

 アンナの呟きを聞いて、アレックスとルーカスは同時に私の方を見た。

 二人の驚いた顔に気まずさを感じながら、もう隠れることができないと悟った私は口を開いた。

「こんにちは?」

 三人の視線を独り占めして出てきた言葉は気の利いた言葉ではなく、気の抜けた挨拶だった。

 
 
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