上 下
35 / 47

34 最後の優しさ

しおりを挟む
 エドワードの尋常ではない雰囲気に驚く。


「………らなぃ、僕達はまだ、終わってない!!!」


 叫ぶエドワードに私は身体をビクリと震わせると、そんな私をエドワードは虚な目で見て笑った。


「どうして、そんな酷い事が言える?何年も婚約者だった僕を簡単に捨てるだなんて!!シャーロットにとって僕は、簡単に捨てられる物なのか!!!」


 エドワードの叫びに周り人は足を止め、騒がしくなる。

「痴話喧嘩かしら?」「何が起こってるの?」「喧嘩なら他所でやってくれ」「治安隊を呼んだ方がいいんじゃないのか」

 
 エドワードは謹慎中なのに、治安隊を呼ばれてしまうと、外に出ているのがバレて大変な事になる。


 これ以上、騒ぎが大きくなるのは不味いわ。


「エドワード、止めて……」


 エドワードを止めようと声を掛けると、「止める?どうして僕が止めなきゃいけないんだ!」エドワードは騒ぎ続ける。


「その男は誰だ!僕とは会ってくれないのに、どうして男といるんだ!!」

 
 そう言って、エドワードは副所長を指差す。


「この人は仕事の上司よ」
 
「上司?僕にはああ言っておいて、自分は男と二人でいるのか?」


 私がいくら言おうと、私の話を聞こうとしないエドワードは、「浮気だ」と騒ぎ立てる。
  

 今まで静かに見ていた副所長は、周りに人が集まって来たのを見て、「シャーロット、ここは僕がなんとかしよう」と言った。


 副所長の言葉に、もうこれ以上は我慢出来ないと思った。周りの人に迷惑をかけて、上司である副所長に気を遣わせるなんて……。

 エドワードは超えてはいけない線を超えてしまった。


 「大丈夫です。私に任せて下さい」と副所長に言って、騒いでいるエドワードに近づく。


 エドワードの前に立つと、私は手をあげて、


バシッ


とエドワードの頬を叩いた。


「いい加減にして!人の話しを聞かないで、他人のせいにして、自分が何をしてるのか分かっているの?」   


 頬を叩かれたエドワードは呆然と私を見る。

 そのエドワードの目を真っ直ぐと見て、言葉を続ける。


「私達の婚約関係が終わったのは、他の誰のせいでもない、エドワードの浮気のせいよ」

「シャーロ……」


 私の言葉にエドワードは驚きと悲しみが混ざった顔をする。


「それなのに、貴方は私だけではなく、私の上司にも迷惑をかけるつもり?謹慎中なのに、こんな風に騒いで、周りの人にどれほどの迷惑をかけると思っているの?」


 私がエドワードを愛せていたら、愛に飢えた貴方を愛せていたらどうなっていただろうか。

 ありもしないタラレバを想像した事もあったけれど、それは遠い過去の話だ。


 黙って私の話しを聞いているエドワードに、「早く帰って……貴方のお父様には黙っているから」と言う。


 こんな騒ぎを起こして、エドワードのお父様の耳に入ってしまうかもしれないけれど、私が出来る最後のエドワードへの優しさだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

その方は婚約者ではありませんよ、お姉様

夜桜
恋愛
マリサは、姉のニーナに婚約者を取られてしまった。 しかし、本当は婚約者ではなく……?

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

あるべきところに収まっただけです

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくしヘンリエッタは領地から王都に出てきたばかりの伯爵家の娘です。 婚約者のピエール様になかなか会えないと思ったら、別の女と浮気をしていました。 ショックのあまり、前世の記憶を思い出し、ここが乙女ゲームに似た世界でわたくしが攻略対象の妹だとわかりました。 しかも王太子が公爵令嬢に婚約破棄を行ったせいで、罰を兄と伯爵家にかぶせられたのです。 こんな理不尽許せない。 わたくしが父母と伯爵家を守って見せます! カクヨム(以下敬称略)、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多いため、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

処理中です...