上 下
229 / 260

快進撃

しおりを挟む
俺は心の声を読んだことはスルーして、朝食を食べた。周囲の人(なぜか女性だけ)からの羨望の眼差しを全身に浴びながら。視線は痛いほど突き刺さる。めちゃくちゃ食いにくい。

俺が誰かの食べかけのパンを食べると、その度に、口をつけた女性が顔を赤らめる。
っていうかそんなに間接キスが恥ずかしいなら、普通にパンをくれれば良かったのに。
その時だった――
「ん? あれ?」
俺はあることに気づいた。この国に入ってから薄々思っていたけど、たった今確信に変わった。
「アリシア。お前なんか昨日より胸がデカくなってないか?」
なろうの国に入る前までは、もっとすっきりしていた。なのに、この国に入った瞬間に少し胸の膨らみが大きくなっていた。最初は気のせいだと思っていたけど、たった今確信した。
この国では、日を追うごとに、回を追うごとに胸がデカくなるのだ(女性限定)。
「当然でしょ! ここはなろうの国よ。っていうかそんなにじろじろ見られると恥ずかしいんだけど」
と言いつつ、全然胸を隠さないアリシア。見ろってか? 見ろってことか?
「ん? アルも、ウレンも、みんな胸がデカくなっている! どうなってんだ、この国? なんで胸がデカくなるんだよ?」
「それはなろうの国では、巨乳の女性しか存在できないからなんだからねっ!」
「どういうこと? なろう系小説の中だと巨乳しか許されないってこと?」
「そうなんだからねっ!」
マジかっ! そんな世界があったなんて知らなかった。俺の心は熱くたぎった。

俺は食いかけパンを食い終わると、
「パンだけじゃ足りないな……」
ご飯と卵をもらってきた。そして、卵を割って卵かけご飯にした。
「お兄ちゃん。それなんていう料理?」
と、興味津々のもえ。
「ん? ああこれ。これは卵かけご飯って言ってね、卵をかけたご飯なんだ」
俺は説明してあげた。
「すっごおおおおおおい! お兄ちゃんは天才なんだからねっ!」
「そ、そうか。そんなに褒められると悪い気はしないな」
「一口もらってもいい?」
「ああ」
もえは俺の箸を使って、一口食べた(もちろん間接キス)。
「おいっしいいいいいい! お兄ちゃんすごおおい!」
「そ、そうか?」
と言いつつ、ヨイショされてちょっと嬉しい。

「私にも何か教えて!」
目を輝かせてアリシア。
「なら、アリシアにはこれだ」
俺はアリシアにご飯をよそってあげた。
「これなんていうの?」
「これはねふりかけご飯っていうんだよ。ご飯の上にふりかけをかけるんだ!」
俺はバカっぽい説明をした。でも、しょうがないよな。こういうしかない。
「すっごおおおおい! それにおいしいいい!」
なんか俺のこと小馬鹿にしてないか? と、思いつつも、
「うんうん。たくさん食べてね」

「私にも! 私にも何かくれ!」
と、アル。
「はい! どうぞ!」
「これはなんていうんだ?」
「それはコーラっていう飲み物なんだ。どこでも売っているおいしい飲み物だよ」
「うまい! うまいぞ! これ!」
そりゃそうだろ。っていうかこいつらコーラもふりかけご飯も知っているだろ。
周りサゲ主人公アゲってやつか?

「「「ケンってすごく博識なのね! すっごいわ!」」」
でも女の子に寄ってたかってもみくちゃに褒めちぎられるのは、悪くない気分だ。
「ケン! あなた天才よ! 天才で秀才よ! いや、あなたは賢者よ! いやむしろ、あなたはアークウィザードよ! いやむしろむしろ、あなたはアカシックレコーダーよ!」
なげーよ。っていうかそれなら最初からアカシックレコーダーって言ってよ。
っていうかアカシックレコーダーって何? お前の方が頭いいんじゃね?

俺は皆の衆に向かって、
「苦しゅうない。苦しゅうないぞ! だけど、俺の快進撃ももうそろそろ終わりだ。もう全部褒めてもらった。もう充分だ」
その時だった――
「ちょーっと待ったー!」
ホテルレストランの店主っぽい人(当然美女)が出てきた。
「私こんなおいしい料理を食べたのは初めてです!」
美人コックは卵かけご飯を食べながら、両目に涙を浮かべている。
(なんでこの人、勤務中に俺の作ったご飯食ってんだよ……)
次々と頬を切る涙は、テーブルの上に小さな湖を生み出した。卵かけご飯を食いながら、こんなに号泣している人を見たのは初めてだ。なんかシュールだ。
「卵かけご飯がですか? そんなんで喜んでくれて嬉しいです」
「この料理をぜひこの国の伝統料理にさせてください!」
「え? いや、いいけど、ただ卵をご飯にかけただけですよ?」
「この国にはこんなおいしい食べ物などありませんでした」
(大丈夫か? この国)
「ぜひこの卵かけご飯のアイデア料を支払わせてください!」
「え? お金くれるの? いくら?」
「999999999999999999999(99垓)マニーでいかがでしょうか?」
「何そのぶっとんだ金額? それだと大陸中の国が買えちゃいますよ……どうせ冗談でしょ?」
美人コックは真顔になった。
「いやだって、言っちゃ悪いけどこの店に、そんな大金あるように見えないんですけど……」
美人コックは真顔のまま、瞬きもせずに俺の顔を見る。
「いやいやいや、ここがなろうの世界だからって流石にそれはないでしょう……(笑) 俺の快進撃もこの辺でおしまいですよ?」
美人コックは真顔のまま、かじりつくように俺の目を見る。つーかなんでなんも言わないんだ?
「え……? マジでくれんの?」

そして、そこから俺の快進撃は続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【R18】異世界転生したら投獄されたけど美少女を絶頂テイムしてハーレム作って無双!最強勇者に!国に戻れとかもう遅いこのまま俺は魔王になる!

金国佐門
ファンタジー
 憧れのマドンナを守るために車にひかれて死んだ主人公天原翔は異世界召喚に巻き添こまれて転生した。  神っぽいサムシングはお詫びとして好きなスキルをくれると言う。  未使用のまま終わってしまった愚息で無双できるよう不死身でエロスな能力を得た翔だが。 「なんと破廉恥な!」  鑑定の結果、クソの役にも立たない上に女性に害が出かねないと王の命令により幽閉されてしまった。  だが幽閉先に何も知らずに男勝りのお転婆ボクっ娘女騎士がやってきて……。  魅力Sランク性的魅了Sクラス性技Sクラスによる攻めで哀れ連続アクメに堕ちる女騎士。  性行為時スキル奪取の能力で騎士のスキルを手に入れた翔は壁を破壊して空へと去っていくのだった。  そして様々な美少女を喰らい(性的な意味で)勇者となった翔の元に王から「戻ってきて力を貸してくれと」懇願の手紙が。  今更言われてももう遅い。知らんがな!  このままもらった領土広げてって――。 「俺、魔王になりまーす」  喰えば喰うほどに強くなる!(性的な意味で) 強くなりたくば喰らえッッ!! *:性的な意味で。  美少女達を連続絶頂テイムしてレベルアップ!  どんどん強くなっていく主人公! 無双! 最強!  どんどん増えていく美少女ヒロインたち。 エロス! アダルト!  R18なシーンあり!  男のロマンと売れ筋爆盛りでお贈りするノンストレスご都合主義ライトファンタジー英雄譚!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...