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絵の城
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俺は不慣れな剣を構え、
「真正面から不意打ちしてやる!」
まっすぐに黒マントに向かって斬撃を放った。空気を滑る斬撃はレーザービームのように飛ぶ。定規でまっすぐ引いたような直線攻撃は、黒マントにぐんぐん近づいていく。剣圧が大気を揺らしながら、突き進む。
そして、黒マントの数メートル手前で急に直角に曲がった。
「なんだとである!」
直角に曲がった斬撃はコの字型に更に二回折れ曲がる。ありえない方向に一人でに方向転換したのだ。
斬撃はさらに激しく進み、正確に黒マントの背後を捉えた。正面から放たれた攻撃が不意打ちになる。
そして、黒マントは、一切背後を見ることなく、絵画剣でそれを弾いた。空中で切り裂かれた斬撃はその身を散らして消えた。
「なーんちゃってである。そんな攻撃は俺には効かない」
黒マントは絵画剣を振り上げる。そして、
「人間の魚拓をとってやる」
黒マントは剣をそのまま振り下ろした。絵でできた可愛らしい剣から発生しているとは思えないほど濃密な攻撃が空を滑る。
「もちろんお前の血でなっ!」
斬撃はそんなに強い威力ではなかった。俺はその攻撃をかわした。
だが次の瞬間、俺の体から大量の赤い液体が空中に向かって吹き出した。鮮血は火炎のように燃え広がる。青い空に向かって、マダラに血飛沫を打ち上げる。霧状になった血液は空気中で光を反射しながら虹を作る。血で描かれた虹は、赤色だけで構成された虹のようだった。
「ケンっ!」
瞬間、アリシアがこちらに近寄ってくる。
「そんな! どうして一人だけで戦おうとしたのっ? 早く水を操るパワーワード能力で出血を抑えて!」
「くっ!」
俺は口から吐息のようなものを漏らしてみせた。
そして、俺の体表に赤い液体がまとわりつく。皮膚の上を赤色の波が覆い尽くす。
「ケン! あなたはパワーワード使い。致命傷を受けたぐらいじゃ死なないわ。それに喉も無事だからパワーワードで逆転できる。だけど、ここは私に任せて休んでいて」
「いや、それはダメだ!」
俺はぴしゃりと言った。
「どうしてよっ! もしかしてあの黒マントの正体を知っているの?」
俺は何も答えられなかった。
「ともかく、あなたはじっとしていて! 萌にゃん! ケンを任せたわ!」
「わかっただにゅ」
そして、アリシアは歩きながら空気中に炎の剣を精製。
「炎よ。濡れろ!」
アリシアは自身の周囲の物を燃やし始めた。草も木も空気も血も発火を始めた。火種なんて周囲にない。だが、森羅万象が独りでに燃え始めた。周囲に焼け焦げるような火炎の匂いが広がる。草は萎れ、木からはパチパチと弾けるような音が聞こえる。
あまりの熱気で陽炎が発生する。超熱で歪んだ空気は景色をひっくり返す。空が地面に、地面が空の位置まで曲がる。湾曲した透明なベールは、もうこれ以上曲がらないくらい激しく歪む。
「くそっ! こんなはずじゃ」
黒マントは危険を察知して、慌てて城の奥に引っ込む。
「死ね!」
アリシアは周囲の火炎を全て剣の切っ先に収束。
そして、剣から炎でできた津波を解き放った。炎と火炎と紅蓮が一つに溶けて、混ざり合う。液体になった炎は、地面の草を舐めながら大地を這い進む。濁流はまるで溶けた溶岩。ドロドロとうねりながら獲物を追い詰める。そして、火炎でできた津波は絵でできた城に触れた。
城の足元から発火。そして、火は紙を貪り求める。火と絵本の相性は最高。絵本でできた城は無残に炎に包まれた。
それをみて、俺は、
「パワーワード発動!」
空気中に僅かに残った水分と地面にぶちまけられた赤い液体を、城の頭からかけた。
「ちょ! ちょっと!」
水と絵本の相性も同じように最高。だが水と炎の相性は最悪だ。紙でできた城の頭から、地面に向かって水が広がっていく。まるで習字用の半紙に水をかけたみたいだ。
「ケン! 何しているのっ?」
今、上から水が、下から炎が登っている。つまり攻撃を相殺しているのだ。
「あの城の中には、人質がいるんだ! ハイデルキアの騎士姫様も囚われている」
「な、なんでそんなこと知っているにゅ?」
「今朝の手紙以外にも“騎士殺し”討伐の依頼が来ていたんだよ! 騎士殺しは騎士をさらって城に閉じ込めているんだ!」
そして、火の手は鎮火した。絵できた城は、見るも無残な形となった。あちこちが黒く変色し、崩れかかっている。城からはジュージューと音がたつ。まるで城が悲鳴をあげているみたいだ。
それからアリシアにしこたま怒られた。
「なんであんたはいつも大事なことを言わないのよ!」、「そもそもあなたが一人で突っ込んで行ったのが」、「もし黒マントの攻撃が」、「あなたねー」、「だいたいねー」
怪我の治療をすませると、
「よし! 怪我も治ったし、そろそろ行こう!」
「ダーメよ! 今日は帰りましょう! また後日改めてここに来ればいいわ!」
「ダメだダメだダメだ! それはダメだ! 今すぐいくんだ!」
俺は大慌てで制止した。
「はああ? なんでよー?」
「だって中には囚われている人たちがいるんだぞ! なあ! 萌はどう思う?」
俺とアリシアは萌の意見を求めた。俺とアリシアの視線というプレッシャーが萌の顔にブッかかる。
「うーん。萌はケンちゃんに賛成でちゅ!」
「なら仕方がないわね! だけど、ヤバイと感じたらすぐに逃げるわよ!」
そして、俺たちは絵でできた城の中に入っていった。
(なんとか作戦がうまくいきそうだな)
俺は心の中でつぶやいた。
城の中に入ると、
「うわー! スッゲー!」
俺は幼稚園児のような感想を言った。
「うおー! やっベー!」
アリシアも幼稚園児のような感想を言い放つ。
「こ、これは! 暴力の中に内包されている現代の諸問題への逆メタモルフォーゼ! 稚拙な絵が逆に、メッセージ性を引き立てて飾っている。これは逆にすごい!」
萌は語尾にでちゅをつけるのを忘れるほど興奮している。
城の内部は、まるで、いや“まるで”なんてつける必要がない。城の内部は絵だ。絵でできた城の中に俺たちが侵入したというより、絵画の世界に踏み込んだと言った方が正しいだろう。
絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、全部絵でできている。壁も天井も床も何もかもが子供の落書きのような絵だ。
俺は玄関の横のダイニングへ行った。
「おい! これみてみろよ!」
アリシアと萌が駆けよってくる。
「え? これって絵でできているの?」
「食べられるんでちゅか?」
「さあな」
テーブルの上に給仕されていたのは、絵だった。ステーキの絵、水の絵、バターの絵、パンの絵、シチューの絵。
俺はステーキの絵が載っている絵でできた皿を手に取った。
「すごいな。ちゃんとステーキの匂いがする」
「ケン食べてみて!」
「ケンちゃん食べるにゅら!」
『なんで俺が?』と思いつつ、そばにあった絵でできたフォークとナイフを取った。そして、意を決してステーキに突き刺す。すると、一枚のペラペラの紙の上に描いてあるステーキに深々と突き刺さった。
「すげえ。ちゃんと刺さる」
物理法則なんて完全に無視だな。明らかに、一枚の紙が皿に乗っているだけなのに、ナイフは絵にぶっすりとブッ刺さる。
ナイフを持ち上げてみると、ナイフは貫通していない。まるでブラックホールに吸い込まれたみたいだ。俺はもう一度それを皿に戻してさらに深く突き刺す。すると今度は快音とともに貫通した。見た目は紙だが質量は普通のステーキなのだろう。貫通した絵からは肉汁がこぼれ落ちる。
俺はナイフとフォークを巧み操り、ステーキを切り分けた。ただペラペラの紙を一枚切っているだけなのに、ナイフにはしっかりと抵抗が伝わる。絵は重量を放ちながらその身を皿の上に横たえる。
まるで本当に肉を切っているみたいだ。
紙を切り分けると、切断面からは油の香りと肉汁。
「いただきます」
俺は一切れ口の中に放り込んでみた。肉の破片は口の中で熱気と存在感を放つ。紙切れを口の中に入れただけとは思えない。しっかりとステーキの味がする。
「うん! うまい!」
俺はそのまま顔を皿に突っ込んで、犬食いした。
「あー! また犬食いしてるー」
その様子を見て、アリシアはシチューを手に取った。
「いただきます」
アリシアが、そばにあったスプーンの絵でシチューの絵に触れると、なんとただの紙からシチューがこぼれた。
「うわっ! すごい」
一枚の紙からは出るわ出るわ。シチューが湧いてくる。紙の上をスプーンでこすっているだけにしか見えないが、スプーンは次々溢れるシチューでいっぱいだ。
アリシアはそれを口の中に放り込んだ。
「うん! ホワイトシチュー! マイルド!」
ホクホク顔でシチューを次々と口の中に突っ込む。
萌はそばにあったパンの絵に手をやると、
「いただきでちゅ!」
紙切れを歯で食いちぎった。はたから見ると、ただバカが紙を食っているようにしか見えないが、
「普通のパンと同じ味でちゅ!」
萌はもきゅもきゅ言わせながらパンを食った。
しばらく絵で描かれた食事を堪能すると、水差しから絵でできた水を飲んだ。
絵で描かれた空のコップに水差しを近づけると、空のコップの絵に水が自動的に書き足された。
あとはその絵を口元に近づけて、通常のコップのように飲むだけ。それで、どこからともなく水が口の中に発生した。
「なんだか気味が悪いなこの場所。ん?」
その時、俺たちを見つめる視線に気づいた。何者かが、絵で描かれた壁からこちらの様子を伺っている。
俺は紙ステーキを頬張りながら、
「アリシア。萌。呑気に飯を食っている場合じゃないぞ!」
「その言葉そっくりそのままあなたに返してあげるわ!」
「俺たち遊んでいる場足なんかじゃない!」
「その言葉そっくりそのままケンちゃんに返してあげるでちゅ!」
俺は持っていた絵コップを投げた。絵コップはひらひらと桜の花びらのように宙を舞うと、地面にぶつかった。
ガチャーン。
食器が割れるような音が、絵から発生した。コップの絵は割れたコップの絵になった。コップが衝撃によって割れたということなのだろう。
「おい! お前! 何者だ? 敵だな?」
視線の主は、ゆっくりとこちらに身を乗り出す。
「真正面から不意打ちしてやる!」
まっすぐに黒マントに向かって斬撃を放った。空気を滑る斬撃はレーザービームのように飛ぶ。定規でまっすぐ引いたような直線攻撃は、黒マントにぐんぐん近づいていく。剣圧が大気を揺らしながら、突き進む。
そして、黒マントの数メートル手前で急に直角に曲がった。
「なんだとである!」
直角に曲がった斬撃はコの字型に更に二回折れ曲がる。ありえない方向に一人でに方向転換したのだ。
斬撃はさらに激しく進み、正確に黒マントの背後を捉えた。正面から放たれた攻撃が不意打ちになる。
そして、黒マントは、一切背後を見ることなく、絵画剣でそれを弾いた。空中で切り裂かれた斬撃はその身を散らして消えた。
「なーんちゃってである。そんな攻撃は俺には効かない」
黒マントは絵画剣を振り上げる。そして、
「人間の魚拓をとってやる」
黒マントは剣をそのまま振り下ろした。絵でできた可愛らしい剣から発生しているとは思えないほど濃密な攻撃が空を滑る。
「もちろんお前の血でなっ!」
斬撃はそんなに強い威力ではなかった。俺はその攻撃をかわした。
だが次の瞬間、俺の体から大量の赤い液体が空中に向かって吹き出した。鮮血は火炎のように燃え広がる。青い空に向かって、マダラに血飛沫を打ち上げる。霧状になった血液は空気中で光を反射しながら虹を作る。血で描かれた虹は、赤色だけで構成された虹のようだった。
「ケンっ!」
瞬間、アリシアがこちらに近寄ってくる。
「そんな! どうして一人だけで戦おうとしたのっ? 早く水を操るパワーワード能力で出血を抑えて!」
「くっ!」
俺は口から吐息のようなものを漏らしてみせた。
そして、俺の体表に赤い液体がまとわりつく。皮膚の上を赤色の波が覆い尽くす。
「ケン! あなたはパワーワード使い。致命傷を受けたぐらいじゃ死なないわ。それに喉も無事だからパワーワードで逆転できる。だけど、ここは私に任せて休んでいて」
「いや、それはダメだ!」
俺はぴしゃりと言った。
「どうしてよっ! もしかしてあの黒マントの正体を知っているの?」
俺は何も答えられなかった。
「ともかく、あなたはじっとしていて! 萌にゃん! ケンを任せたわ!」
「わかっただにゅ」
そして、アリシアは歩きながら空気中に炎の剣を精製。
「炎よ。濡れろ!」
アリシアは自身の周囲の物を燃やし始めた。草も木も空気も血も発火を始めた。火種なんて周囲にない。だが、森羅万象が独りでに燃え始めた。周囲に焼け焦げるような火炎の匂いが広がる。草は萎れ、木からはパチパチと弾けるような音が聞こえる。
あまりの熱気で陽炎が発生する。超熱で歪んだ空気は景色をひっくり返す。空が地面に、地面が空の位置まで曲がる。湾曲した透明なベールは、もうこれ以上曲がらないくらい激しく歪む。
「くそっ! こんなはずじゃ」
黒マントは危険を察知して、慌てて城の奥に引っ込む。
「死ね!」
アリシアは周囲の火炎を全て剣の切っ先に収束。
そして、剣から炎でできた津波を解き放った。炎と火炎と紅蓮が一つに溶けて、混ざり合う。液体になった炎は、地面の草を舐めながら大地を這い進む。濁流はまるで溶けた溶岩。ドロドロとうねりながら獲物を追い詰める。そして、火炎でできた津波は絵でできた城に触れた。
城の足元から発火。そして、火は紙を貪り求める。火と絵本の相性は最高。絵本でできた城は無残に炎に包まれた。
それをみて、俺は、
「パワーワード発動!」
空気中に僅かに残った水分と地面にぶちまけられた赤い液体を、城の頭からかけた。
「ちょ! ちょっと!」
水と絵本の相性も同じように最高。だが水と炎の相性は最悪だ。紙でできた城の頭から、地面に向かって水が広がっていく。まるで習字用の半紙に水をかけたみたいだ。
「ケン! 何しているのっ?」
今、上から水が、下から炎が登っている。つまり攻撃を相殺しているのだ。
「あの城の中には、人質がいるんだ! ハイデルキアの騎士姫様も囚われている」
「な、なんでそんなこと知っているにゅ?」
「今朝の手紙以外にも“騎士殺し”討伐の依頼が来ていたんだよ! 騎士殺しは騎士をさらって城に閉じ込めているんだ!」
そして、火の手は鎮火した。絵できた城は、見るも無残な形となった。あちこちが黒く変色し、崩れかかっている。城からはジュージューと音がたつ。まるで城が悲鳴をあげているみたいだ。
それからアリシアにしこたま怒られた。
「なんであんたはいつも大事なことを言わないのよ!」、「そもそもあなたが一人で突っ込んで行ったのが」、「もし黒マントの攻撃が」、「あなたねー」、「だいたいねー」
怪我の治療をすませると、
「よし! 怪我も治ったし、そろそろ行こう!」
「ダーメよ! 今日は帰りましょう! また後日改めてここに来ればいいわ!」
「ダメだダメだダメだ! それはダメだ! 今すぐいくんだ!」
俺は大慌てで制止した。
「はああ? なんでよー?」
「だって中には囚われている人たちがいるんだぞ! なあ! 萌はどう思う?」
俺とアリシアは萌の意見を求めた。俺とアリシアの視線というプレッシャーが萌の顔にブッかかる。
「うーん。萌はケンちゃんに賛成でちゅ!」
「なら仕方がないわね! だけど、ヤバイと感じたらすぐに逃げるわよ!」
そして、俺たちは絵でできた城の中に入っていった。
(なんとか作戦がうまくいきそうだな)
俺は心の中でつぶやいた。
城の中に入ると、
「うわー! スッゲー!」
俺は幼稚園児のような感想を言った。
「うおー! やっベー!」
アリシアも幼稚園児のような感想を言い放つ。
「こ、これは! 暴力の中に内包されている現代の諸問題への逆メタモルフォーゼ! 稚拙な絵が逆に、メッセージ性を引き立てて飾っている。これは逆にすごい!」
萌は語尾にでちゅをつけるのを忘れるほど興奮している。
城の内部は、まるで、いや“まるで”なんてつける必要がない。城の内部は絵だ。絵でできた城の中に俺たちが侵入したというより、絵画の世界に踏み込んだと言った方が正しいだろう。
絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、絵、全部絵でできている。壁も天井も床も何もかもが子供の落書きのような絵だ。
俺は玄関の横のダイニングへ行った。
「おい! これみてみろよ!」
アリシアと萌が駆けよってくる。
「え? これって絵でできているの?」
「食べられるんでちゅか?」
「さあな」
テーブルの上に給仕されていたのは、絵だった。ステーキの絵、水の絵、バターの絵、パンの絵、シチューの絵。
俺はステーキの絵が載っている絵でできた皿を手に取った。
「すごいな。ちゃんとステーキの匂いがする」
「ケン食べてみて!」
「ケンちゃん食べるにゅら!」
『なんで俺が?』と思いつつ、そばにあった絵でできたフォークとナイフを取った。そして、意を決してステーキに突き刺す。すると、一枚のペラペラの紙の上に描いてあるステーキに深々と突き刺さった。
「すげえ。ちゃんと刺さる」
物理法則なんて完全に無視だな。明らかに、一枚の紙が皿に乗っているだけなのに、ナイフは絵にぶっすりとブッ刺さる。
ナイフを持ち上げてみると、ナイフは貫通していない。まるでブラックホールに吸い込まれたみたいだ。俺はもう一度それを皿に戻してさらに深く突き刺す。すると今度は快音とともに貫通した。見た目は紙だが質量は普通のステーキなのだろう。貫通した絵からは肉汁がこぼれ落ちる。
俺はナイフとフォークを巧み操り、ステーキを切り分けた。ただペラペラの紙を一枚切っているだけなのに、ナイフにはしっかりと抵抗が伝わる。絵は重量を放ちながらその身を皿の上に横たえる。
まるで本当に肉を切っているみたいだ。
紙を切り分けると、切断面からは油の香りと肉汁。
「いただきます」
俺は一切れ口の中に放り込んでみた。肉の破片は口の中で熱気と存在感を放つ。紙切れを口の中に入れただけとは思えない。しっかりとステーキの味がする。
「うん! うまい!」
俺はそのまま顔を皿に突っ込んで、犬食いした。
「あー! また犬食いしてるー」
その様子を見て、アリシアはシチューを手に取った。
「いただきます」
アリシアが、そばにあったスプーンの絵でシチューの絵に触れると、なんとただの紙からシチューがこぼれた。
「うわっ! すごい」
一枚の紙からは出るわ出るわ。シチューが湧いてくる。紙の上をスプーンでこすっているだけにしか見えないが、スプーンは次々溢れるシチューでいっぱいだ。
アリシアはそれを口の中に放り込んだ。
「うん! ホワイトシチュー! マイルド!」
ホクホク顔でシチューを次々と口の中に突っ込む。
萌はそばにあったパンの絵に手をやると、
「いただきでちゅ!」
紙切れを歯で食いちぎった。はたから見ると、ただバカが紙を食っているようにしか見えないが、
「普通のパンと同じ味でちゅ!」
萌はもきゅもきゅ言わせながらパンを食った。
しばらく絵で描かれた食事を堪能すると、水差しから絵でできた水を飲んだ。
絵で描かれた空のコップに水差しを近づけると、空のコップの絵に水が自動的に書き足された。
あとはその絵を口元に近づけて、通常のコップのように飲むだけ。それで、どこからともなく水が口の中に発生した。
「なんだか気味が悪いなこの場所。ん?」
その時、俺たちを見つめる視線に気づいた。何者かが、絵で描かれた壁からこちらの様子を伺っている。
俺は紙ステーキを頬張りながら、
「アリシア。萌。呑気に飯を食っている場合じゃないぞ!」
「その言葉そっくりそのままあなたに返してあげるわ!」
「俺たち遊んでいる場足なんかじゃない!」
「その言葉そっくりそのままケンちゃんに返してあげるでちゅ!」
俺は持っていた絵コップを投げた。絵コップはひらひらと桜の花びらのように宙を舞うと、地面にぶつかった。
ガチャーン。
食器が割れるような音が、絵から発生した。コップの絵は割れたコップの絵になった。コップが衝撃によって割れたということなのだろう。
「おい! お前! 何者だ? 敵だな?」
視線の主は、ゆっくりとこちらに身を乗り出す。
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