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神隠し
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俺の顔面に伝わる圧力は脳にまで達した。
炸裂する衝撃は俺の顔に新しい傷を生み出した。
それと同時に俺の心に見えない傷も刻み込まれた様な気がした。
「お前のせいだ! お前の勝手な判断がアンジェリカを殺したんだ!」
「やめなよ! タイラー! リーダーは私でしょ。なら私が責められるべきよ!」
「よせ。アリシア。人狼討伐ができると判断したのは俺だ」
「アリシアはケンのことを庇うのか。ならお前も同じだな。俺はお前らのことを認めないからな」
「好きにしろ」
「お前らなんてもう俺の友達じゃない」
タイラーは一人で勝手に街の方に歩き出した。
少し遅れてから、
「アリシア。街に戻ろう」
「うん。お家に帰ったらまたみんなで仲良くできるよ」
「そうだといいな」
そして、険悪な雰囲気のまま俺たちは帰路に着いた。
帰る間俺とアリシアは一言も喋らなかった。
氷の様に冷たい沈黙が液体になって肌にまとわりついてくる。
粘つく沈黙は容赦なく俺の躯体を締め付けた。重たい空気がさらに黒く、重くなっていく。
「私、友達を失ったの初めて」
アリシアが沈黙のベールを切り裂いた。
「そうか」
「今まで友達なんて一人もいなかったから」
「そうだな」
「友達を失うのってこんなに辛いんだね」
「ああ」
「誰かと仲良くなるのって大変よね。覚悟がないといけない」
「うん」
「誰かと親密になるということは、同時にその人を失う苦痛も背負わないといけない。ねえケン?」
「なんだ?」
「普通の人の人生は友達を作って、別れての繰り返しなんでしょ?」
「そうだ。今の人間は友達なんて大事にしない。平気で傷つけるし、用がなくなったらそれっきりだ」
「私もいつかそうなっちゃうのかな? 友達がいなくても平気になっちゃうのかな?」
「かもな」
「ケンは私と一生の友達でいてくれる?」
「ああ。俺に帰る場所なんてないだろ?」
「そうだったわね。異世界から来たのよね」
「この世界に来る前は、俺にも友達がいたのかな?」
「ねえ、ケン」
「アリシア!」
「あなたに言わないといけないことがあるの」
「アリシア!」
「実はね--」
「アリシア! 俺たちの家が燃えている!」
街に着くと俺たちの家がある方向から火の手が上がっている。
轟々と燃える爆炎は空に向かって黒い轍を作り上げる。
「話は後だ! いくぞ!」
椅子でできた家の前に着くと、もうそこに家なんてなかった。
俺たちの帰るべき場所には煙を上げながら焦げる炎の塊だけがあった。
その炎の前には、メリッサがいた。
「おい! メリッサ! 何があった?」
メリッサは俺の顔を見ると、血の気が引いた顔からさらに血の気が引いた。
「こ、殺さないでください!」
「何? 俺が友達のことを殺すわけがないだろ!」
「メリッサ氏から離れるでござる!」
ジャックが俺のことを突き飛ばした。
「ジャック? おい、みんなどこにいる? ロイは? タラは? タイラーは?」
「何を言っているでござるか!
ロイもタラもタイラーも死んだでござる。
お主が殺したんでござろう!」
ジャックが嘘をついている様には見えなかった。
「まさか」
俺は下を向いて俯いた。そうすれば、辛い現実を見なくて済むから。
「ジャック。聞いて、ロイたちを殺して家を焼いたのは、ケンじゃないわ。
ケンの姿に変身した狼人間よ」
「狼人間でござるか?」
「ええ。『怪我をした! 俺の家まで運んでくれ』とでも言って私たちの家の場所をつきとめたはずよ。ケンは右目に大きな怪我をしていなかった?」
「していたでござる。ケンは家に着くと、突然ロイ達を殺し、家に火をつけたでござる」
「それはさっき私たちと戦った狼男よ」
俺は燃え盛る自分の家を見た。
それはまるで地獄を切り取ってこの世界に運んできたみたいだった。
これより酷い光景なんて俺は見たことがない。
必死でみんなで作った家。異世界から来た俺の唯一の帰る場所。
それはもうなくなっていた。
友達も家も何もかもを失った。
俺の瞳からはたくさんの水がこぼれた。
俺は能力でその水を操って押し戻そうとした。
だけど失敗した。押し戻しても押し戻しても、次から次へと溢れてきて止まらない。
そして、アリシアが俺の元へと近寄ってきた。
「アリシア。お前は俺の一生の友達だ。俺が絶対にお前だけは守る。ずっと一緒にいてくれ」
アリシアは俺のそばに来て、俺の頭を優しく撫でてくれた、いつか俺が彼女にそうした様に。
「俺のことを慰めてくれるのか?」
「ええ」
「ありがとう」
俺は泣きながら言った。俺はボヤつく視界の中心にアリシアの顔を捉えた。
彼女の蜂蜜色の瞳は炎を反射してより一層綺麗に輝いている。
「お礼なんていいのよ。だって私たちは--」
その瞬間、突然俺の目の前にいたアリシアが消えた。
神隠しにでもあったかの様に、一瞬で姿を消してしまった。
「アリシア?」
返事はない。
「アリシアっ?」
俺の声は虚しく空に響いていく。
「どこへ行ったんだ?」
俺の孤独な声は俺をより一層矮小に見せた。
「どこにもいかないって言ったじゃないか?」
孤独な夜は俺の心に入り込んできて、黒い絵の具で塗りたくる。俺の心の中から希望で抜け落ちていく。
「アリシア。俺を一人にしないでくれ!」
俺は突如一人になった。そして、そこから四年経ってもアリシアを見つけることはできなかった。
炸裂する衝撃は俺の顔に新しい傷を生み出した。
それと同時に俺の心に見えない傷も刻み込まれた様な気がした。
「お前のせいだ! お前の勝手な判断がアンジェリカを殺したんだ!」
「やめなよ! タイラー! リーダーは私でしょ。なら私が責められるべきよ!」
「よせ。アリシア。人狼討伐ができると判断したのは俺だ」
「アリシアはケンのことを庇うのか。ならお前も同じだな。俺はお前らのことを認めないからな」
「好きにしろ」
「お前らなんてもう俺の友達じゃない」
タイラーは一人で勝手に街の方に歩き出した。
少し遅れてから、
「アリシア。街に戻ろう」
「うん。お家に帰ったらまたみんなで仲良くできるよ」
「そうだといいな」
そして、険悪な雰囲気のまま俺たちは帰路に着いた。
帰る間俺とアリシアは一言も喋らなかった。
氷の様に冷たい沈黙が液体になって肌にまとわりついてくる。
粘つく沈黙は容赦なく俺の躯体を締め付けた。重たい空気がさらに黒く、重くなっていく。
「私、友達を失ったの初めて」
アリシアが沈黙のベールを切り裂いた。
「そうか」
「今まで友達なんて一人もいなかったから」
「そうだな」
「友達を失うのってこんなに辛いんだね」
「ああ」
「誰かと仲良くなるのって大変よね。覚悟がないといけない」
「うん」
「誰かと親密になるということは、同時にその人を失う苦痛も背負わないといけない。ねえケン?」
「なんだ?」
「普通の人の人生は友達を作って、別れての繰り返しなんでしょ?」
「そうだ。今の人間は友達なんて大事にしない。平気で傷つけるし、用がなくなったらそれっきりだ」
「私もいつかそうなっちゃうのかな? 友達がいなくても平気になっちゃうのかな?」
「かもな」
「ケンは私と一生の友達でいてくれる?」
「ああ。俺に帰る場所なんてないだろ?」
「そうだったわね。異世界から来たのよね」
「この世界に来る前は、俺にも友達がいたのかな?」
「ねえ、ケン」
「アリシア!」
「あなたに言わないといけないことがあるの」
「アリシア!」
「実はね--」
「アリシア! 俺たちの家が燃えている!」
街に着くと俺たちの家がある方向から火の手が上がっている。
轟々と燃える爆炎は空に向かって黒い轍を作り上げる。
「話は後だ! いくぞ!」
椅子でできた家の前に着くと、もうそこに家なんてなかった。
俺たちの帰るべき場所には煙を上げながら焦げる炎の塊だけがあった。
その炎の前には、メリッサがいた。
「おい! メリッサ! 何があった?」
メリッサは俺の顔を見ると、血の気が引いた顔からさらに血の気が引いた。
「こ、殺さないでください!」
「何? 俺が友達のことを殺すわけがないだろ!」
「メリッサ氏から離れるでござる!」
ジャックが俺のことを突き飛ばした。
「ジャック? おい、みんなどこにいる? ロイは? タラは? タイラーは?」
「何を言っているでござるか!
ロイもタラもタイラーも死んだでござる。
お主が殺したんでござろう!」
ジャックが嘘をついている様には見えなかった。
「まさか」
俺は下を向いて俯いた。そうすれば、辛い現実を見なくて済むから。
「ジャック。聞いて、ロイたちを殺して家を焼いたのは、ケンじゃないわ。
ケンの姿に変身した狼人間よ」
「狼人間でござるか?」
「ええ。『怪我をした! 俺の家まで運んでくれ』とでも言って私たちの家の場所をつきとめたはずよ。ケンは右目に大きな怪我をしていなかった?」
「していたでござる。ケンは家に着くと、突然ロイ達を殺し、家に火をつけたでござる」
「それはさっき私たちと戦った狼男よ」
俺は燃え盛る自分の家を見た。
それはまるで地獄を切り取ってこの世界に運んできたみたいだった。
これより酷い光景なんて俺は見たことがない。
必死でみんなで作った家。異世界から来た俺の唯一の帰る場所。
それはもうなくなっていた。
友達も家も何もかもを失った。
俺の瞳からはたくさんの水がこぼれた。
俺は能力でその水を操って押し戻そうとした。
だけど失敗した。押し戻しても押し戻しても、次から次へと溢れてきて止まらない。
そして、アリシアが俺の元へと近寄ってきた。
「アリシア。お前は俺の一生の友達だ。俺が絶対にお前だけは守る。ずっと一緒にいてくれ」
アリシアは俺のそばに来て、俺の頭を優しく撫でてくれた、いつか俺が彼女にそうした様に。
「俺のことを慰めてくれるのか?」
「ええ」
「ありがとう」
俺は泣きながら言った。俺はボヤつく視界の中心にアリシアの顔を捉えた。
彼女の蜂蜜色の瞳は炎を反射してより一層綺麗に輝いている。
「お礼なんていいのよ。だって私たちは--」
その瞬間、突然俺の目の前にいたアリシアが消えた。
神隠しにでもあったかの様に、一瞬で姿を消してしまった。
「アリシア?」
返事はない。
「アリシアっ?」
俺の声は虚しく空に響いていく。
「どこへ行ったんだ?」
俺の孤独な声は俺をより一層矮小に見せた。
「どこにもいかないって言ったじゃないか?」
孤独な夜は俺の心に入り込んできて、黒い絵の具で塗りたくる。俺の心の中から希望で抜け落ちていく。
「アリシア。俺を一人にしないでくれ!」
俺は突如一人になった。そして、そこから四年経ってもアリシアを見つけることはできなかった。
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