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地獄の中の幸福
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歓喜の声より先に、緊張感を伴った疑問が喉を割いた。まだ戦いは終わっていない。ゆっくりと確かに、おぞましい真実に向かっていく。
そして、
『十二パーセント』
王様の病の進行度をアナウンスが示した。その数値は、少年の数値と合わせて百になるようなものだった。
「どういうことだ? 俺の攻撃が当たった瞬間に、あんたの病気が進行して、俺の病気が後退した」
黒髪の少年が私を装備する直前、彼は黒い剣を装備解除しようとした。だけど、それはなぜか失敗していた。
王様が空中に自分の装備しているものを映し出した時、『末期ガンを装備しています』という表示があった。
黒髪の少年と王様が同じ装備能力を使っていたから二人は同一人物なのだと思っていた。だが、実際はもっと単純なトリックなのではないか?
「私はその黒髪の少年の未来の姿ではない」
王様の声は嘘ではない。真実を話している人間の声だ。
黒髪の少年は王様の方を向いて、
「お前の能力なんだな? お前が末期ガンを装備しているんだな? お前が本当の末期ガンの患者なんだな? お前が能力を使って俺に末期ガンをなすりつけたんだな? 答えろっ!」
私たちの間に一つまみの風が流れる。透明で爽やかな風は私の体を優しく撫でていく。
「その通りだ」
聞きたくない、耳を覆いたくなるような真実が私たちの小さい心臓を握り潰したような気がした。
「お前(黒髪の少年)はガンでもなんでもない。健康そのものだった。お前に能力を使って不幸をなすりつけたのはこのわしだ」
「そんな、なら俺の今までの人生は一体なんだったんだ?」
差別され、親に捨てられ、世界の全てを恨んでいた。それは全て一人の人間による悪意だったのだ。本当は幸せに生きるはずだった。本当は真っ当に生きるはずだった。もし、王様に目をつけられたのが他の子供だったら? もし王様がガンでなかったら? そう考えずにはいられないのだろう。
私は彼の手を取った。
「しっかりして。今、あなたが装備しているのは何?」
彼は何も答えない。
「あなたが装備しているのは私よ。もう末期ガンではないわ。まだ諦めちゃダメよ!」
「何を言っている?」
「王様の能力は“武器を媒体にして自分の病気をやり取りする能力”よ。そして、病気を移された側の人間にも似たような能力が宿る。あなたはこれから私という武器を使って病気を王様に移し替えす」
彼は右手で持っていた黒い剣を再び放り投げる。剣は弧を描いて飛んでいく。私は体をまっすぐに王様の方に向けた。剣を構える。
「ホームレスごときに何ができる?」
「この国からホームレスを失くすことができる」
私は体に残った全てのエネルギーを剣に注ぎ込んだ。轟音が空気を切りながら剣の周囲に纏わり付く。まるで台風の中心に剣が存在しているようだ。今度は黒髪の少年が私の右手にそっと手を重ねる。勇気に勇気が重ねられてその色をより濃くする。
王様も巨大な剣を構える。そして、体の周囲に装備している全ての武器を召喚した。まるでこの世の森羅万象を全て武器に変えたみたいだ。圧倒するほどの存在感は巨大な惑星そのものを目の当たりにしているようだ。その光景は、私の脳に惑星そのものと敵対しているような感覚を植え付ける。私と少年以外のこの世の全てを敵に回したような気がした。
触れれば壊れるほどの緊張感が張り詰める。まるで王様と私たちの間に透明な立方体の塊が存在しているようだ。重たくて質量がない物体は私たちの衝突を拒もうとしているようだった。
銀の剣から電撃が燃え上がる。燃え盛る雷の炎は、生きているようだ。電撃は加速度的に大きく強くなる。そして、いきなり玉座の天井が一片も残らずに全て吹き飛んだ。大きく開けた天蓋から私の剣に轟雷が落ちた。この世界に存在する全ての電流を奪い去って装備しているみたいだ。剣は電撃の湯気のようなものを空に向かって立ち昇らせる。剣から生み出される高熱が空を沸騰させている。電撃が大地を真っ二つに砕く。空に雷雲が現れて、太陽の顔を隠す。まるで太陽が私に怯えているようだ。
さらに上昇する熱は惑星全体の温度を上げる。大気が焼き切れて、大地が鳴いている。私たちは大きく剣を振りかぶる。惑星の自転が止まり、時が停止して凍りつく。全ての分子はその動きを止めた。物理法則と自然現象がねじ曲げられた。そして、私たちは剣を振り切った。
世界の命運を決める最後の勝負は一瞬でついた。ただ、一瞬閃光のようなものが光った後、王様の装備した数億もの武器は一瞬で原子にまで分解された。それはまるで、朝日が昇る瞬間によく似ていた。
『百パーセント』
アナウンスが王様の病気の進行具合を指し示す。
『零パーセント。“末期ガン”が装備解除されました』
アナウンスが黒髪の少年の病気が完治したことを示す。人間の運命は残酷だ。私たちはほとんど全ての現状を運に委ねて生きている。そして、当然その中で不幸にも不運にもぶち当たる。私たち弱い人間にそれらを弾き返し、前に進むことなどできない。だから私たちはそれを運命と呼ぶ。
そうすれば、諦められるような気がするから。だけど、本当は誰だって諦めたくない。諦めたい人などいない。
だからこそ私は言いたい。運命は変えられる。諦めなくてもいいんだ。
諦めなければ必ず運命が変わるわけではない。だけど、諦めないことでしか運命は変えられない。
戦いが終わったことにより、私たちの運命は大きく変わった。地獄の底を渡り歩くような人生は、その顔色を少しだけ変えた。もう苦しくない。もう辛くない。もう幸せになっていいんだ。
手の中に握りしめていたのは、困難を乗り越えた後の達成感と多幸感だった。これを握りしめることができるのは、諦めなかった人間だけだ。
今までの辛かった思い出が走馬灯のように脳の中を駆け巡る。報われなかった努力、不運、不幸、裏切り、悲しみ、悔恨、苛立ち、それらすべては、今の私にとってすごくどうでもいいことになった。
代わりに頭の中に、幸せな思い出だけを敷き詰めた。初めて誰かに助けられた日、ホームレスでなくなった瞬間、報われた努力、自分の力で書き換えた運命、母親の愛情、幸せな出来事だけが私の心を満たす。もどかしいほどの何かが胸の底から沸き立つ。体が震えるほどの感情は、熱を持って目頭から溢れた。もうこれ以上幸せになんかなれっこない。それくらい幸せだと感じた。
そして、
『十二パーセント』
王様の病の進行度をアナウンスが示した。その数値は、少年の数値と合わせて百になるようなものだった。
「どういうことだ? 俺の攻撃が当たった瞬間に、あんたの病気が進行して、俺の病気が後退した」
黒髪の少年が私を装備する直前、彼は黒い剣を装備解除しようとした。だけど、それはなぜか失敗していた。
王様が空中に自分の装備しているものを映し出した時、『末期ガンを装備しています』という表示があった。
黒髪の少年と王様が同じ装備能力を使っていたから二人は同一人物なのだと思っていた。だが、実際はもっと単純なトリックなのではないか?
「私はその黒髪の少年の未来の姿ではない」
王様の声は嘘ではない。真実を話している人間の声だ。
黒髪の少年は王様の方を向いて、
「お前の能力なんだな? お前が末期ガンを装備しているんだな? お前が本当の末期ガンの患者なんだな? お前が能力を使って俺に末期ガンをなすりつけたんだな? 答えろっ!」
私たちの間に一つまみの風が流れる。透明で爽やかな風は私の体を優しく撫でていく。
「その通りだ」
聞きたくない、耳を覆いたくなるような真実が私たちの小さい心臓を握り潰したような気がした。
「お前(黒髪の少年)はガンでもなんでもない。健康そのものだった。お前に能力を使って不幸をなすりつけたのはこのわしだ」
「そんな、なら俺の今までの人生は一体なんだったんだ?」
差別され、親に捨てられ、世界の全てを恨んでいた。それは全て一人の人間による悪意だったのだ。本当は幸せに生きるはずだった。本当は真っ当に生きるはずだった。もし、王様に目をつけられたのが他の子供だったら? もし王様がガンでなかったら? そう考えずにはいられないのだろう。
私は彼の手を取った。
「しっかりして。今、あなたが装備しているのは何?」
彼は何も答えない。
「あなたが装備しているのは私よ。もう末期ガンではないわ。まだ諦めちゃダメよ!」
「何を言っている?」
「王様の能力は“武器を媒体にして自分の病気をやり取りする能力”よ。そして、病気を移された側の人間にも似たような能力が宿る。あなたはこれから私という武器を使って病気を王様に移し替えす」
彼は右手で持っていた黒い剣を再び放り投げる。剣は弧を描いて飛んでいく。私は体をまっすぐに王様の方に向けた。剣を構える。
「ホームレスごときに何ができる?」
「この国からホームレスを失くすことができる」
私は体に残った全てのエネルギーを剣に注ぎ込んだ。轟音が空気を切りながら剣の周囲に纏わり付く。まるで台風の中心に剣が存在しているようだ。今度は黒髪の少年が私の右手にそっと手を重ねる。勇気に勇気が重ねられてその色をより濃くする。
王様も巨大な剣を構える。そして、体の周囲に装備している全ての武器を召喚した。まるでこの世の森羅万象を全て武器に変えたみたいだ。圧倒するほどの存在感は巨大な惑星そのものを目の当たりにしているようだ。その光景は、私の脳に惑星そのものと敵対しているような感覚を植え付ける。私と少年以外のこの世の全てを敵に回したような気がした。
触れれば壊れるほどの緊張感が張り詰める。まるで王様と私たちの間に透明な立方体の塊が存在しているようだ。重たくて質量がない物体は私たちの衝突を拒もうとしているようだった。
銀の剣から電撃が燃え上がる。燃え盛る雷の炎は、生きているようだ。電撃は加速度的に大きく強くなる。そして、いきなり玉座の天井が一片も残らずに全て吹き飛んだ。大きく開けた天蓋から私の剣に轟雷が落ちた。この世界に存在する全ての電流を奪い去って装備しているみたいだ。剣は電撃の湯気のようなものを空に向かって立ち昇らせる。剣から生み出される高熱が空を沸騰させている。電撃が大地を真っ二つに砕く。空に雷雲が現れて、太陽の顔を隠す。まるで太陽が私に怯えているようだ。
さらに上昇する熱は惑星全体の温度を上げる。大気が焼き切れて、大地が鳴いている。私たちは大きく剣を振りかぶる。惑星の自転が止まり、時が停止して凍りつく。全ての分子はその動きを止めた。物理法則と自然現象がねじ曲げられた。そして、私たちは剣を振り切った。
世界の命運を決める最後の勝負は一瞬でついた。ただ、一瞬閃光のようなものが光った後、王様の装備した数億もの武器は一瞬で原子にまで分解された。それはまるで、朝日が昇る瞬間によく似ていた。
『百パーセント』
アナウンスが王様の病気の進行具合を指し示す。
『零パーセント。“末期ガン”が装備解除されました』
アナウンスが黒髪の少年の病気が完治したことを示す。人間の運命は残酷だ。私たちはほとんど全ての現状を運に委ねて生きている。そして、当然その中で不幸にも不運にもぶち当たる。私たち弱い人間にそれらを弾き返し、前に進むことなどできない。だから私たちはそれを運命と呼ぶ。
そうすれば、諦められるような気がするから。だけど、本当は誰だって諦めたくない。諦めたい人などいない。
だからこそ私は言いたい。運命は変えられる。諦めなくてもいいんだ。
諦めなければ必ず運命が変わるわけではない。だけど、諦めないことでしか運命は変えられない。
戦いが終わったことにより、私たちの運命は大きく変わった。地獄の底を渡り歩くような人生は、その顔色を少しだけ変えた。もう苦しくない。もう辛くない。もう幸せになっていいんだ。
手の中に握りしめていたのは、困難を乗り越えた後の達成感と多幸感だった。これを握りしめることができるのは、諦めなかった人間だけだ。
今までの辛かった思い出が走馬灯のように脳の中を駆け巡る。報われなかった努力、不運、不幸、裏切り、悲しみ、悔恨、苛立ち、それらすべては、今の私にとってすごくどうでもいいことになった。
代わりに頭の中に、幸せな思い出だけを敷き詰めた。初めて誰かに助けられた日、ホームレスでなくなった瞬間、報われた努力、自分の力で書き換えた運命、母親の愛情、幸せな出来事だけが私の心を満たす。もどかしいほどの何かが胸の底から沸き立つ。体が震えるほどの感情は、熱を持って目頭から溢れた。もうこれ以上幸せになんかなれっこない。それくらい幸せだと感じた。
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