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カル大統領

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第七話 カル大統領

アルゼン王国の国王が深く頭を下げる。一国の王が頭を下げるなどあり得ない? いや、あり得るのだ。
国王はもはや行政でも戦闘でも役に立たないただの飾り。言わば、置き物なのだ。

本物のブレインは目立たず、ひっそりと、裏で全てを操るのだ。

「カル大統領、私の――」
大統領は国王の頭を蹴りあげた。
「ぐあっ!」
「黙れっ! 国王ごときが俺様に話しかけるな! 殺されたいのか?」
「ひ、ひいいっ!」

政治とは……支配のことを言うのだ。

[アルゼン王国の入り口]


アルゼン王国に着くと、そこはボロ王国と違って華やかな街並みだった。
複雑に入り組んだ街は迷路のよう。
赤レンガのテンプレのような中世街だ。

あちこちに異種族や魔族がごく普通に歩いている。
魔法を使っている人もいる。炎を起こしたり、風を生み出したりしている。

「ふむ。これが異世界転移の醍醐味だな。おっといかん……宣戦布告に来たのだった」
総理は本来の目的を思い出す。だがこの国のトップ、大統領はどこにいるのだ?

その時だった――
ドシン!
何かにぶつかった。

「おっと失礼!」
見ると、魔法で宙に浮くかごにぶつかってしまったようだ。
するとカゴの中から赤ん坊が顔を出した。おしゃぶりを咥えている。
まだ乳児だろう。
「ん? 赤ん坊が一人?」

そして、なんと
「キュポン(おしゃぶりを外す音) おじさん……見かけない顔でちゅね」
赤ん坊が喋りかけて来た。

「な! 喋れるのか?」
「当たり前でちゅ」
「そ、そうか。なあ君、大統領は普段どこにいるのかな?」
「ホワイトハウスにいるでちゅ」

白銀総司の脳内にはナノマシンが埋め込まれている。本来ホワイトハウスというものは地球にしかない。だが、ナノマシンによって、異世界特有の物体は、自動的に地球にある最も似ているものに翻訳される。

「ホワイトハウスはどこにあるのかな?」
「あっち」
「どうもありがとう」

総理は異世界の街並みを闊歩する。総理の靴音だけが、街の喧騒に溶けていく。

総理はホワイトハウスにたどり着いた。

赤煉瓦の石畳の上に、純白の城が鎮座している。まさに、国のトップがいるにふさわしい場所だ。

白い門の前には二人の衛兵が武器を持って立ち塞がっている。
通ろうとする総理に、
「止まれ!」
「わしはボロ王国の総理だ。通してくれ」
衛兵たちは、顔を見合わせ、
「ボロ王国? 聞いたことがないな、お前知っているか?」
「ボロ王国は、この辺りで一番小さい国だ。アルゼン王国に税金を納める以外脳がないクズ国だよ」

「さっさと通してくれるか?」
「ダメだ! お前らみたいな弱小国通すはずがないだろ!」
「総理だかなんだか知らないけど、とっとと帰らないと痛い目見るぞ!」
衛兵は手にした直剣で総理に切り掛かった。


[10分後]
衛兵はよほど怖い目に遭ったのか縮み上がりながら――
「どうぞお通りください(震え声)」
「弱小国の総理だが通っても構わんのだな?」
衛兵は深々と頭を下げながら、
「弱小国だなんてとんでもありません。先ほどは申し訳ありませんでした」

総理はホワイトハウスの中へ正面から不法侵入する。
すると、当然武装したシークレットサービスが飛び出てくる。

「なんだこの老人?」
「こ、こいつテロリストか?」
「たった一人で乗り込んできたのか?」
「大統領に知らせろっ!」
「早く取り押さえろっ!」


「わしはテロリストじゃない……総理だ」

そして、シークレットサービスは全滅した。

「大統領はどこにいるのかな?」
「に、二階のブルールームだ」

そして、階段を登る。寧静ねいせいな建物に靴音が響く。
総理は扉に豪華な青色の装飾が施された部屋の前に来た。

ギイイイイイイ……

扉を開けて中に入ると、そこには中年の女性がいた。

こちらに背を向けて、金髪をなびかせている。

「あなたがこの国の大統領でいらっしゃいますか?」

女性はこちらを振り返る。そして、手に何か抱えながら総理の方に歩いてくる。

総理は、
「驚いたな……」

女性は抱えていた子供を地面に下ろす。

先ほどの宙に浮くかごに乗った赤ん坊だ。

赤ん坊は……いやアルゼン王国大統領は、おしゃぶりを外して、
「俺に何か用があるって?」
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