上 下
545 / 832

48.ショタっ娘とスローライフ(3)

しおりを挟む
「そうかそうか。とても大切なウサ……ちゃんなんだね」

 ミオの話を受けて、優しく落ち着いた声色で返す親父の言葉が、途中でつっかえたのには、れっきとした理由がある。

 まぁ単純に、五十路を五年も超え、還暦も近づいてきた男が、「ウサちゃん」と呼ぶ事に若干のためらいが生じた結果、あえて呼び名を途切れさせたのだろうが、親父も大概シャイだねぇ。

 俺たちの帰省中、ショタっ娘のミオと一緒に遊ぶなら、たくさんのかわいいモノと触れ合う事になるんだけど、親父はこんな調子でついて来れるんだろうか。

「義弘。牛乳もあるから、ミオちゃんと二人で飲んでいいからね」

 お袋はそう言いながら、各々のモーニングプレートに料理を盛り付けた後、その傍らに、新鮮な牛乳で満たされ、ロゴマーク以外の見た目が真っ白になった、ガラス瓶を並べ置く。

「牛乳いいの? これ、いつも親父たちが頼んで飲んでるやつだろ?」

「わたしたちは、パックで買ってきたのがあるから。あなたたちが家にいる間くらいは、いいものを飲ませてあげたいのよ」

「そうそう。特にミオくんは育ち盛りだからな」

 決して、スーパーやコンビニなどで売られている紙パックの牛乳が、味や品質で劣ると言うつもりはない。そこは、瓶詰めの牛乳を譲ってくれたお袋たちも同じことだろう。

 ただ、親父たちが契約している宅配牛乳は、市販されているものとは〝売り〟が違う。極力生乳に近いのはもちろんとして、栄養分も豊富な製品を毎日、自宅まで届けてくれるサービスの契約であるため、決して安くはないのである。

 そんな宅配牛乳を、小さな頃から毎日飲んで育ってきた俺の身長は、およそ百七十四センチ。全てが牛乳のおかげとは言わないが、成長の一助となったのは疑う余地がない。

 俺が大学進学のために実家を離れても、親父たちは、ずっと牛乳を頼み続けていたんだなぁ。

「ありがとう。じゃあミオ、遠慮なく牛乳をもらっちゃおうか」

「うん。お祖父ちゃんお祖母ちゃん、ありがとね」

「いいのよ、お礼なんて」

 お袋は水臭いと言わんばかりに、目尻まなじりを下げて笑みを作り、右手の甲を上下にパタパタさせて、まだ少し遠慮がちなミオを気遣ってくれた。

「念のために聞くけど、ミオくん。給食で出される牛乳を飲んで、お腹が痛くなったりはしなかったかい?」

 おそらく初めて見るのであろう、ポリエチレン製のキャップが取り付けられた牛乳瓶を、いろんな角度から物珍しそうに眺めていたミオは、親父からの質問を聞き終えるや、ピタリと動きを止めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚
ファンタジー
旧題:型録通販から始まる、追放された侯爵令嬢のスローライフ 第15回ファンタジー小説大賞【ユニーク異世界ライフ賞】受賞作です。 8月下旬に第一巻が発売されます。 300年前に世界を救った勇者達がいた。 その勇者達の血筋は、三百年経った今も受け継がれている。 勇者の血筋の一つ『アーレスト侯爵家』に生まれたクリスティン・アーレストは、ある日突然、家を追い出されてしまう。 「はぁ……あの継母の差し金ですよね……どうしましょうか」 侯爵家を放逐された時に、父から譲り受けた一つの指輪。 それは、クリスティンの中に眠っていた力を目覚めさせた。 「これは……型録通販? 勇者の力?」 クリスティンは、異世界からさまざまなアイテムをお取り寄せできる『型録通販』スキルを駆使して、大商人への道を歩み始める。 一方同じ頃、新たに召喚された勇者は、窮地に陥っていた。 「米が食いたい」 「チョコレート食べたい」 「スマホのバッテリーが切れそう」 「銃(チャカ)の弾が足りない」 果たして勇者達は、クリスティンと出会うことができるのか? ・毎週水曜日と土曜日の更新ですが、それ以外にも不定期に更新しますのでご了承ください。  

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?

早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。 物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。 度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。 「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」 そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。 全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……

離婚しようですって?

宮野 楓
恋愛
十年、結婚生活を続けてきた二人。ある時から旦那が浮気をしている事を知っていた。だが知らぬふりで夫婦として過ごしてきたが、ある日、旦那は告げた。「離婚しよう」

『転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル~時代・技術考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
ファンタジー
【祝!93,000累計pt ローマは1日にして成らず・千里の道も一歩から】 歴史好き、という以外にこれと言って取り柄のない、どこにでもいるサラリーマンの沢森武は、休暇中の地元で事故にあい戦国時代に転生してしまう。しかし、まったくのマイナー武将で、もちろん某歴史ゲームには登場しない。おそらく地元民で歴史好きですら??かもしれない、地方の国人領主のそのまた配下の長男として。ひょっとしてすでに詰んでる?ぶっちゃけ有名どころなら歴史的資料も多くて・・・よくあるタイムスリップ・転生ものでもなんとか役に立ちそうなもんだが、知らない。まじで知らない。超マイナー武将に転生した元アラフィフおっさんの生き残りをかけた第二の人生が始まる。 カクヨム様・小説家になろう様・アルファポリス様にて掲載中 ちなみにオフィシャルは https://www.kyouinobushige.online/ 途中から作ったので間が300話くらい開いているいびつなサイト;;w

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...