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無理やりな情事

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◇◆◇◆



 翌日の夜、本当にクロードからドレスが送られてきた。しかも、五着も。
「…………」
 訓練と食事を済ませて寮に戻った時、寮母替わりの元王宮侍女――とはいえ、今は侍女を引退した老婆だが――から受け取ったときはその量に驚愕したものだ。
 たった一日でよくもまぁこんなに、と。
 しかもサイズもぴったりで、胸が大きいガーネットには既製品はほとんど身体に合わないのだが、明らかにこの体型に合わせて作られたとしか思えない。それくらい、窮屈さを感じなかった。
「あれから背も伸びたのに、クロードの観察眼はすごい……」
 昨日の再会を除いて、最後に会ったのは十四歳の頃だ。あれから五年で背も胸も成長した。つまり昨日一日一緒にいただけで、彼はガーネットのサイズ感を正確に把握したことになる。
 さすがはリーゼリック王国が誇る王直轄騎士団の団長の目だ、と感服する。
 ここで残念なのは、男が女を口説くときドレスを贈ることがある、という知識がガーネットになかったことだったが、それも今の彼女が知るわけなかった。
 子供の頃からクロードはモテていたので、きっと今までの経験もあるのだろう、とガーネットは有難くドレスを受け取り、ほとんど中身のないクローゼットへと納めた。
 これは今度の休み、さっそくこのドレスを着て街にでも行ってみよう、とワクワクしていたとき、不意に聞こえたドアのノック音に意識がそれた。
「はい」
 返事をしてドアを開けると、そこには王宮の侍女が立っていた。
「ステラ殿下に何かありましたか?」
 咄嗟に頭に浮かんだのはステラの顔だが、違うのだという。
「ジルフォード殿下がお呼びです」
「騎士長殿が?」
 なんだろうか、と考え、すぐに身支度を整えることにした。
 騎士服のまま部屋を出ようとすると、侍女に引き留められる。
「これにお召替えを」
 差し出されたのは大きな箱だった。
「……これは?」
「ジルフォード殿下より、贈り物です」
 言われて受け取り、箱の蓋を開けてみると、濃い紺色の夜着が入っていた。素材も上質だと、見ただけでわかる。
「これを着て、お部屋に来るようにと」
「…………?」
 正気で言っているのか、とまじまじと侍女を見つめてしまう。
 これは夜着だ。こんな姿で王宮内を歩けるはずが……、否、この寮内の廊下だって歩けない。
 一応女なのだ。
 それくらいの恥じらいはあった。
「それを着たら、これを羽織るように、との仰せです」
 言いながら、侍女は片腕に垂らしていたスカーフのようなものも手渡してくる。
 広げてみると、身体全体を覆うほど大きなショールだった。
「本当にそんな命令を?」
「命令ではありません。嫌なのであれば、来なくてもいいとの仰せです」
「…………」
 これは困った。
 行かなくてもいい、は、行かなければならないとイコールではあるのだが、いかんせん、これはどういう意図なのだろうかと考え込んでしまう。
「その、用件は?」
「うかがっておりません。それでは、わたくしはこれで」
 恭しく頭を下げた後、侍女は薄暗い廊下を出口の方へ向かって歩き出してしまった。引き留めるよりも前に、彼女は暗闇の中へと消えてしまう。
「…………」
 ガーネットは受け取った夜着とショールを見下ろし、ドアを閉めた。
 簡素なベッドの上にそれらを広げ、赤い瞳で見下ろし、腕を組む。
「どういうこと……?」
 騎士団として何か用があるのであれば、制服を身に着けるべきだ。だが、王太子としての何かしらの命であれば、コレを着ていくべきである。
行かない、という選択肢はまずない。そんなことをすれば、お咎めがあることは確実だからだ。頭を抱えたくなるが、とりあえず、と夜着に手を伸ばす。それは部屋の蝋燭の明かりで、キラキラと輝いて見えた。
「……こんなもの、袖を通すのも恐れ多い」
 いくらなんでも、素直にこれを着ていくべきではないだろう。そう判断し、ガーネットは広げた夜着を綺麗に畳んで箱へと戻した。
「これをお返しするついでに、用件も聞けばいいか」
 自分を納得させるべく、独り言を零し、ガーネットは箱とショールを手に部屋を後にした。
 王宮内のジルフォードの部屋の前で、ガーネットはそのドアを叩く。
「ガーネット・マイアス。参りました」
 そう声を掛け、中から声がするのを待つ。だが、意外にもそのドアは内側から開けられた。
 びっくりして一瞬後ずさる。
 それから目の前に立つ、ジルフォードを見上げた。
 彼は普段着ている制服の上着だけを脱いだラフな格好をしていた。第二ボタンまで開いた胸元から逞しい筋肉が見え、思わず目を反らす。
「……どうした」
 短く問われ、あれ? と内心首を傾げる。
「騎士長……いえ、殿下がお呼びとのことで参りましたが、違いましたか?」
 侍女が伝え間違えたのだろうか、と手に持つ大きな箱を見つめていると、ジルフォードが小さく息を吐いた。
「俺が呼んだ。俺は、その格好はなんだと言っている」
 じろりと睨まれているのだろう、肌がチクチクと痛む。
「その夜着を着てこいという言伝を聞かなかったか」
「いえ、そのように聞き及んでおります」
「ならばなぜ、それで来た」
 それ、とはガーネットの騎士服のことだろう。
「こんな上等なもの、恐れ多く、お返ししようと……」
「返すだけなら、一度着てからでも良いだろう」
「いえ、袖を通すなど……!」
 すっとぼけているわけではなく、本気で焦るガーネットを前に、ジルフォードは大きな手で自分の顔を覆い、気持ちドアに頭を押し付けたまま、動かずにいる。
「まぁいい。入れ」
「はっ、失礼いたします」
 大きな箱は彼に奪い取るようではあるが返せたので、ホッとしながら室内に足を踏み入れ、ドアを閉めてから腕を後ろで組み、その前にピンと背を伸ばして立つ。
「……何をしている。こっちに来い」
 こっち、とは彼が座る上等なソファだ。そこに座れと命じられれば、ガーネットは従う他ない。
「失礼いたします」
 大人しくソファに腰を下ろすが、浅く座った。いつでも立ち上がれるように。
「楽にしろ」
「はっ」
 そうは言われても、それはあくまで目上の者が目下の者に緊張するな、という配慮で口にしたに過ぎない。本当に楽な姿勢を取るわけにはいかず、ガーネットは頑ななまでにその姿勢を維持する。
 しばらく、ガーネットは向かい側に座るジルフォードの鋭い眼光の餌食となっていた。無言のまま睨まれ、背筋に冷たいものが走る。
(何だろう……)
 やはり夜着で来た方が正解だったのだろうか、と自らの判断を後悔していると、ジルフォードの座るソファに無造作に置かれていた書類を差し出された。
「お前が俺の命を呑めば許してやったが……。これはなんだ」
 書類には、リーゼリック王国の印が押されている。それを見て、ガーネットは唇を引き結んだ。
 紙を受け取り、その書面に目を通せば、予想通りのことが書かれていた。
「――ご報告が遅れ、申し訳ありません」
 それはアレクセイからジルフォード宛に送られた、ガーネットの除隊要請の書類だった。
 業を煮やしたアレクセイが送りつけてきたのだろう。
(昨日、ちゃんと自分で言うって伝えたのに……)
 まさかアレクセイがこんな暴挙に出るとは思わず、頭の中でアレクセイを叱責するが、もはや仕方がない。すぐに腹をくくり、ガーネットはその場で立ち上がると、ジルフォードに頭を下げた。
「ジルフォード殿下におかれましては、私の除隊のお許しを頂きたいと思っております」
「理由は」
 鋭い声音に、びくりと身体が震えてしまう。今の彼は、まるで鬼軍曹だ。身体全体から、殺気にも似た恐ろしい空気をまき散らしており、常に冷静沈着を心掛けるガーネットであっても、その圧力に屈しそうになる。
「あの男。クロードと言ったか。あの男に求婚でもされたか」
 他国に嫁ぐ、というのであれば、辞めるのも仕方がない。だが、それ以前に何故ジルフォードがガーネットの幼馴染の名を知っているのだろうか。ガーネットは思わず顔を上げてしまい、慌てて下げ直した。
「ドレスを贈られたそうじゃないか」
 冷たい言葉の端々に、棘がある。
 肌に突き刺さるその言葉に、震えあがりそうになった。
「あ、あれは……」
 言い訳を考えながらも、ドレスを贈られたのを何故知っているのか、と疑問が沸き上がる。この王宮では、外から何かが届くと中を確認するが、それは王族への贈り物だけであって、一個人のものを一々確認しないはずだ。
 何も言えないまま唇を震わせているガーネットに、ジルフォードは非情なまでに冷たい声で言い放った。
「結論から言う。お前の除隊は認めない」
「ッ……!」
 ガーネット本人からではなく、アレクセイから書類で除隊の報せを受け、彼の逆鱗に触れてしまった。
 これにはガーネットは更に慌て、ソファの前から横に素早く移動すると、片膝を立てて最も低く身体を折って頭を下げた。
「申し訳ございません。どうか、お許しください……!」
 土下座する勢いで謝罪するが、肌を刺す彼の怒気はまだ治まらない。むしろ、更に怒りを買ってしまったようだ。
「そこまでしてリーゼリックに行きたいか」
 もう、喉が震えて声も上げられなかった。
 みっともなくガタガタと震えだした身体を、精神力だけで抑えようとしたが、上手くいかない。
 どうしよう、どうすれば、と頭をフル回転させるが、何の策も浮かばない。
 こんなとき、自分の交渉力のなさを悔いた。
 これはもう、心から謝り続ける他ない、と立てていた足を床につけ、平伏す。
「――どうか、お許しください」
 やっと出せた声はか細く、無様にも震えていた。
 しばしの間、沈黙が流れた。
 その沈黙が、ガーネットの恐怖心を掻き立てる。
 だが誠心誠意、心から謝罪すれば、きっとジルフォードはわかってくれるはず、と信じ、ガーネットはその姿勢のまま動かなかった。
 どれくらいそうしていたか、ゆっくりとジルフォードが立ち上がり、目の前に立つのを気配で感じる。
(靴を舐めろ、ということ……?)
 沈黙は続いているので、目の前にある革靴を見つめながら思った。王太子の怒りがそれで治まるのであれば安いものだが、もしも違った場合、この場で斬り捨てられてしまうかもしれない。
 そんな恐怖から、ガーネットは指一本すら動かせなかった。
「お前は、どこへもやらない……!」
 やっと聞こえた声は、振り絞るような苦し気な叫びだった。ギリッ、と歯ぎしりの音が聞こえ、容赦ない力で腕を掴まれて引き上げられる。
 痛い、と声を上げることもできず、肩に担がれ、そのまま部屋続きのドアを蹴破った彼に投げ飛ばされる。
 衝撃を覚悟したが、その痩躯は柔らかい寝台で受け止められ、スプリングがギシギシと泣くにとどまった。
 仰向けに倒れ込んだガーネットの上に、覆いかぶさるようにしてジルフォードに見下ろされ、咄嗟に身体を小さく丸めようとして、彼の身体によって遮られた。
「あ……」
 真っ赤な瞳を見開き、ガーネットは鋭い眼光に肉食獣に喰われる寸前のウサギの如く身を震わせる。
 いつだったか、彼のような体躯に拘束されたら逃げられないだろう。そんなことを想像したことがあるが、その想像は間違っていなかった。
 抵抗どころか、指一本も動かないのだから。
「俺の許しが得たければ、言う通りにしろ」
 言いながら、彼の大きな手が、ガーネットの首元にかかり、次に制服のボタンを乱暴に寛げていく。上着を奪い取った彼は、今度はその下に着たシャツを捲りあげた。
 彼の前に露わとなった胸には、大きな胸を潰すための布で硬く覆われていたが、ジルフォードは腕力だけで引き千切った。
「やっ……!」
 その拍子に弾力のある胸がブルンッ、と彼の前に露わとなり、声が出てしまう。その豊満な胸の片方を大きな手が乱暴に握り、もう片方の胸の粒に、彼は歯を立てた。
「痛……!」
 まだ柔らかかったところを、カリカリと歯で刺激されると、徐々にぷっくりと立ち上がる。そんな自分の身体の変化に、ガーネットは着いていけなかった。
 今から何をされるのかすぐに想像できたが、一体なんのために、と身体が委縮する。
 恐怖に支配されたガーネットだったが、次に襲ってきた刺激に、目を見開き、背をのけ反らせていた。
「あっ!」
 開花寸前の花の蕾の如く立ち上がった胸のそれを、強く吸われたのだ。
 背中にビリリ、と刺激が走り、下腹部が熱くなる。
 ちゅうちゅうと吸われ、初めての感覚に頭の中が真っ白になる。
 ガーネットの反応に気をよくしたのか、もう片方も同じように吸われる。
「やっ……! んんっ!」
 甘く濡れそうになる声を、唇を噛んで耐えると、胸から顔を上げたジルフォードの大きな手が頬を撫でてくる。
「声を我慢するな」
 先ほどの冷たい声ではなく、どこか甘ったるく優しい熱っぽい声で命じられる。
 再び胸に顔を寄せた彼は、大きな胸を大きな手で鷲掴みにして中央に寄せると、ふたつの粒を同時に吸い上げてくる。
「あっ、あぁっ!」
 同時に攻められ、ガーネットは身をよじりながらも甘い声を上げてしまった。
「お前はこれを吸われるのが好きなんだな」
 ちゅぽん、という水音を立てて、胸の粒が彼の唇から勢いよく解放される。
「ぁん……ッ!」
 快楽を拾い始め、甘い声で鳴いた自分の声が信じられず、見開いた赤い瞳に涙がにじむ。
 股の間が明らかに濡れ始めたのを感じ、ガーネットはまだ服を着たままの下肢を擦り合わせ、ジルフォードの下で身悶える。
 彼にこんなことをされるなんて、そしてそれに反応しているだなんて、騎士として自分を常に律してきたというのになんてことだろう。
 自分の痴態にこのまま消え去ってしまいたいとさえ思った。
 ジルフォードはそれから時間をかけ、ふたつの粒を交互に何度も吸い上げ、ガーネットの息が上がるまで繰り返す。
 やっと解放されたときにはガーネットの胸は赤く腫れ上がり、唾液でしとどに濡れていた。
「あ、あぁ……」
 胸を上下させ、ガーネットは涙目で胸に顔を埋めるジルフォードを見つめる。
 怒りは治まったのだろうか、とこの行為が終わることを期待したが、彼の大きな手が、閉じられたガーネットの下肢へと伸びた。
「やっ!」
 ウエストの隙間から下穿きの中へと手が差し込まれ、指先が濡れた場所を擽る。
「濡れているな」
 言わないで、と悲鳴が上がりそうになるが、それよりも早く彼の手が下着の中へと滑り込み、ぐちゅり、と音を立てて指の腹で敏感なところをつつかれた。
「あぅ!」
 胸への刺激でそこは潤いを持ち、彼の指をすんなりと受け入れてしまう。
「これは邪魔だな」
 言いながら、下穿きを下着ごと奪われた。
 少し身を起こした彼の前に、濡れた場所が露わになる。
「おやめください……ッ!」
 閉じた両足の太ももを、彼の大きな手に無理矢理開かされる。抗ったつもりだが、力では敵わなかった。
 だらしなく蜜を零す蜜壺を隠すようにして両手を伸ばしたが、あっさりと片手で手首をつかまれ頭の上でまとめ上げられてしまう。
「恥じるな。いやらしくて、俺好みだ」
「っ!」
 言いながら彼は、硬く閉ざされた蜜壺へと片手をすべらせ、入り口に指を挿れてくる。
 痛みはなかった。
 だが、彼の節くれだった指が一本入り口を擦るだけで、圧迫感に息がつまりそうになる。
「せまいな」
 ぐりぐり、と指が動き、中の具合を確かめられる。そしてガーネットの緊張を解くためか、そこが気に入ったのか、大きな胸に唇を寄せると、また胸の粒に吸いつかれた。
「んっ! んんっ!」
 そこへの愛撫に慣れてきた身体は、吸われる度に甘く疼きだす。
 蜜壺の潤いを借りて指が深いところまで侵入してくる。この頃にはもう、圧迫感は感じなかった。
 押し広げられ、内壁を擦られ、徐々に拾い集め始めた快楽に、もっと奥にほしいとでも言うかの如く、そこが彼の指を咥え込み、腰が揺れてしまう。
「……気持ちいいのか?」
 淫らなその動きに、ジルフォードが小さな声で熱っぽく尋ねてくる。
 その瞬間、快楽に落ちかけていたガーネットの思考がはっきりとした。
「ち、違……!」
 指を挿れられたままではまともに抵抗などできないが、言葉でだけでも否定する。
「――素直になればこれでやめたんだがな」
「え? あ、うっ!」
 ずるりと内壁から指を引き抜くと、いきなり、指を三本で中を突き上げられた。この衝撃に、ガーネットのしなやかな背が弓なりに反り、中をキュッと締め付ける。
 ジルフォードは薄い背中に腕を差し込むと、ピンッと立った胸の粒を舌先で転がしながらガーネットの蜜壺を的確に攻め立てていく。
 両手は解放されたが、その腕はだらんとシーツ上に落ちていた。上と下の性感帯を同時に刺激され、その快感に思考ごと絡めとられ、抵抗することを忘れていたのだ。
 三本の指が、ばらばらに中をかき乱し、指の先が内壁を擦る。その都度、蜜壺は甘い蜜を吐き出した。
 生理的な涙を流しながら、ガーネットは蝋燭の炎に照らされた煌びやかな天蓋を見上げている。
 淫猥な水音が耳を苛むが、それと同時に、胸を刺激しながらも甘く吐かれるジルフォードの熱い吐息に身体が弛緩した。
 憧れてやまないこの男も、ガーネットの身体を弄ることで興奮しているのだ。彼の香りが汗の匂いと共に鼻孔を擽り、どんな高級なアロマキャンドルよりも心地いい香りなのではないか、と大きく息を吸う。
「……ガーネット」
 吐息交じりに名を呼ばれ、浮き上がっていた背を寝台に降ろされる。息がかかるほど近くに、端正な彼の顔があった。彼の顔が、徐々に近づいてくる。下肢に指を挿れたまま、静かに唇を塞がれた。
 最初は触れ合うだけだったが、角度を変える度に深くなっていく。
(これが、キス……)
 口腔内に彼の分厚い舌が侵入し、奥に引っ込んでいたガーネットのそれを絡めとる。
 その体躯には似合わず、とても丁寧に舌を愛撫され、彼の唾液と彼女のそれが、口の中を満たしていく。
 それをコクリ、と喉を鳴らして飲み込むと、唇が離れていった。銀色の糸がふたりを結び、そしてぷつりと途切れる。
 そのまま見つめ合っていると、今度は汗で張り付いた前髪に口づけられた。
「んっ……」
 こんな些細な触れ合いにも、ガーネットの身体は快楽を拾おうと震える。
「綺麗だな、ガーネット。お前のその瞳は、どんな宝石よりも美しい」
 ガーネットの赤い瞳は、涙に濡れてキラキラと輝いていた。その名が示す宝石よりも煌びやかで艶めかしい。
 一糸まとわぬ姿で寝台に横たわる彼女の白い身体はところどころピンク色に染まり、ジルフォードの目を楽しませた。
 騎士団の中でも矜持も能力も高い彼女が、ジルフォードの愛撫で震える姿は、彼の嗜虐心を煽った。女性が少ない騎士団でもとりわけ周囲から高嶺の花だと謂われる孤高な彼女を、己が組み敷いているのだ。
 もっと乱して、彼女のすべてを手に入れたいという支配力も勝り、ジルフォードはしなやかな長い足を大きく開かせ、彼女の身体を折り曲げる。
「あ……」
 下穿きを身に着けたまま、ジルフォードはガーネットの濡れそぼった下肢に、己の欲を押し付けた。
 ガーネットは小さく声を上げ、潤む瞳でジルフォードの金色の瞳を見つめている。
「除隊を諦めるというのであれば、これ以上はしない。――どうする」
 気持ちがないまま彼女の乙女を奪うことを、ジルフォード自身、あまり良いことだとは思っていない。そしてこんな卑怯なやり方で彼女を手に入れようとしている自分にも吐き気がしそうだった。
 だが、こんな手段を取ったとしても、ガーネットを手放したくなかったのである。
 彼女のことだ。
 きっと、諦めると。そう言うと思っていた。
 だが、ガーネットは違った。
 彼にそう言われ、快楽で落ちかけた思考が、クリアになったのだ。
「いや、です……。私は……。私は、諦めたくない……」
 その瞬間、ガーネットは大粒の涙を零していた。それは屈辱に耐える女騎士のようでもあり、夢を捨てられない頑ななまでの野心を露わにしているようでもある。
「……そうか」
 ガーネットは決して譲らない。
 何があっても、たとえ、自らの身体が穢されようとも、その意志を貫こうとする。
 ジルフォードはそんな彼女の思いを打ち壊すため、素早く自分の下穿きをくつろげると、太く大きな欲望を彼女の溶かされた下肢へと押し付けた。
「あ……」
 押し付けられる熱いそれがなんなのか、ガーネットは気づき、そして目を見開く。その瞬間、ガーネットの喉は悲鳴を迸らせた。
「いやあぁぁぁあああああ!」
 いきなり腰を打ち付けられ、根本まで男のモノを呑み込まされる。内壁を広げられる痛みと、破瓜の痛みで、ガーネットは大きくのけ反り、そして息をつめた。つながった場所から、わずかに血が流れ落ちる。
 目の前がチカチカと光り、身体の奥まで押し込まれた熱棒の質量感に、頭の中が掻き回される。
 長い銀髪が、彼女が頭を左右に振ることでパサパサと音を立て、蝋燭の火の明かりによってキラキラと光る。
 その姿を真上から見下ろしていたジルフォードは、激しく腰を打ち付け、更に追い詰められていく。
 身体の奥を蹂躙する水音に涙が溢れた。
「いやっ……! やめ……ッ!」
 中を突かれる度、彼女は涙を振り零す。
「泣くな」
 涙でかすれた視界には、漆黒の髪と黄金の瞳の大きな体躯の青年が映し出されている。
「おやめ、くださ……ッ! あぁぁぁっ」
 ジルフォードの熱棒がガーネットの身体の奥、自分でも触れたことがない場所を何度も突き上げ、その度、身体が歓喜に打ち震えた。
 やめてほしいのか、それとももっと奥を抉ってほしいのか、もはやガーネットにはわからない。
 ただ、気持ちがいいと思った。
 初めてなのに、全身が敏感に快楽を拾い集めていて、子宮がきゅんと震えている。
 嫌だと言わないと、もっと深いところに堕とされ、二度と戻ってこられないような気がして、ガーネットはいやだと譫言のように繰り返した。
「いや……! いやぁ……ッ!」
 その度、ジルフォードの腰が激しくガーネットを揺さぶる。
 激しい律動の中、強い力で熱棒に奥を抉られ、熱い迸りが一番奥で弾けた。そのまま押し付けるようにして、一滴も残らず中へと彼の精が注がれる。
「一滴も零すな」
 耳元で、吐息交じりに命じられる。
 その甘い声に、ガーネットの身体がぶるりと震え、ビクンと跳ね上がった。
「あ、あぁっ!」
 初めての絶頂で、ジルフォードの逞しい身体に縋るように抱き着いてしまう。胸を上下させて荒くなった息を整えようとして、ワイシャツ越しに見える彼の胸板に仔猫のように額を擦りつけていた。
 まだ身体の奥にジルフォードの熱棒を咥え込んだまま、彼がゆっくりと覆いかぶさってくる。
 顔の横に突いた彼の腕が体重を支えているのか、重さはない。ジルフォードの下で瞼を閉じ、絶頂の余韻に浸っていると、また腰が打ち付けられた。
「あんっ!」
 彼の精の潤いのせいか、先ほどよりも滑りよくガーネットの中を行き来する。
 そしてガーネットのそこは、もっとと強請るようにキュッと彼を締め付けた。
「溺れろ、ガーネット。今日は、お前が音を上げるまで、お前を抱く」
 耳元で囁かれた言葉通り、ガーネットは幾度となく身体の深い場所に彼の精を受け止めさせられた。
 優しく、時には激しく。
 もう無理だと泣きじゃくっても、彼はガーネットを穿ち、その度に優しく口づけを落とす。
 ガーネットがやっと解放されたのは、朝焼けで部屋が照らされ、最後の絶頂と同時に失神して意識を手放した後だった。


 目を覚ました時、ガーネットは返したはずの夜着を着せられ、ジルフォードの寝台の上で寝かされていた。
「あ……!」
 はっとして飛び起き、周囲を見回す。広い寝室に彼はおらず、ホッとしたのも束の間、どろりとしたものが股の間から零れる感覚にびくりと身体を震わせた。
 上等な毛布を持ち上げ、剥き出しになっていた足の付け根を確認してみると、白濁の液が目に飛び込んできて、咄嗟にシーツを剥いで身に纏う。
(――どうしてあんなことを……? 私を抱いて、何になる……?)
 不思議と処女を奪われた、という思いは抱かなかった。
 ただ、何故と。
(――あぁ……そうか……)
 あれはきっと彼なりの拷問だ。
 アレクセイからの書面を見て、謀反を疑われたのだろう。
 彼はガーネットが騎士団で得た情報をリーゼリック王国に漏洩するかもしれない、と思い、それであんなことをしたのだろう。
 同盟国だとはいえ、きっかけさえあれば戦の火種となる。
 戦乱の時代が終わってまだ数十年しか経っておらず、国王はその戦乱の時代を経験している。
「私、信用されていないのか……」
 そう思うと悲しくなってくる。
 まだ騎士になって五年程度だが、それなりに働いてきたと思っていた。だが、それは間違いだったのだろう。
 たかが五年。
 それがいきなりリーゼリック王国王太子経由で除隊しようとすれば、不審にも思うというものだ。
(でも……)
 こちらにも理由がある。
 それを王太子である彼に言うのは、それこそ不敬というものだ。
 女だから出世ができない。だから出世が望める場所へ行く。
 ただそれだけだが、無意味に逆鱗に触れに行くことはない。
 自分の身体を抱きしめながら、ガーネットは小さく蹲る。
 胸の奥が冷たくて、空洞が開いたようにそこに凍えた風が吹き抜けていくようだ。
 息苦しくて大きく息を吸ったとき、部屋の扉が不意に開いた。
 ハッとして顔を上げ、反射的に臨戦態勢を取る。
「さすがは騎士だ。動きが早いな」
「騎士長……殿……」
 ドアの前には、ジルフォードが立っていた。侵入者が誰なのかわかり、それと同時に身体から力が抜けて、その場にへたり込む。
「身体はどうだ。どこか異変はあるか」
 あんな風に酷く組み敷いておきながら、身体を気遣ってくれる。
 許してくれた、ということだろうか。
「…………」
 金色の瞳が、じっとガーネットを見つめた。その視線が昨夜の彼の熱っぽいモノと重なり、身体の奥がずくん、と疼く。
 ジルフォードはシャワーでも浴びていたのだろう。服装は昨夜と同じだが、短い髪がわずかに濡れている。
 水も滴るいい男、というのは、彼のような男のことを言うのかもしれない。そんなどうでもいいことに思考を飛ばしかけ、ハッとして寝台を降りた。
「も、申し訳ありません。私はこれで失礼します……ッ!」
 いつまで王太子の寝台の上にへたり込んでいるのだ、と心の中で己を叱咤し、夜着姿なのも忘れてその場で敬礼する。
「んっ!」
 ぴんと背を伸ばしたとき、また彼を受け入れた場所からドロリとしたものが滴り、声が出てしまった。
「ガーネット。こっちに来い」
「あ、その……」
 こんな姿で歩けない。
 中に注がれた彼の残滓が滴って、床を汚してしまう。
(――避妊してくださらなかった……。つまり、その程度の女……ということか……)
 世の中には適当な女を孕ませてそのまま捨てる男もいるのだという。
 また胸がツキン、と痛んだ。
 きっと彼はガーネットが妊娠してしまっても構わないのだろう。
(貴族名簿に名を連ねているとはいえ……私は平民同然……)
 きっと子ができたとしても、彼はそれを我が子だとは認めないはずだ。責任を取れ、と庇い建てしてくれる両親もいない。
 だがもし庇い建てされたところで、下膳の身である女との間にできた子など、王家に迎えれてもらえるわけがない。もし新しい命が芽生えたとしても、その子は彼にとって「いらない子」だ。
 それでも子種を注いだということは、避妊する必要がない、ということだろう。
(……私のような女が……大切に扱われるわけないか……)
 薄気味悪い銀色の髪と赤い瞳。
 こんな色を持っていて、それでも抱いてもらえただけでも、有難いのかもしれない。
 つい、自嘲気味な笑みを浮かべてしまった。
 それをどう思ったのか、ジルフォードが口を開いた。
「――俺が憎いか」
「い、いえ!」
 そうじゃない、と咄嗟に返事をすると、ジルフォードが彼女へと歩み寄っていく。
 手を伸ばせば届く距離で彼は足を止め、ガーネットを感情の見えない金色の瞳で見下ろした。
 そして、フッと笑う。
「昨日はここにたくさん注いだからな。溢れ出してるのか」
 伸ばされた手が、ガーネットの腹を撫で、布越しに触れられた温もりに、ぴくん、と腹の奥が痙攣する。
「っ……」
 チリッと焼けるような疼きに声が零れそうになり、下唇を噛みしめる。
「き、騎士長殿こそ、私が信用できませんか……?」
「なに?」
「私はこの国を去るつもりですが、この国に不利になるようなことはしません!」
「――何の話だ」
 訝しげに眉根を寄せたジルフォードに、ガーネットはもう一度頭を下げた。
「お願いします。除隊を! 私の除隊をお許しください……!」
「まだ言うか」
「なぜ……認めてくださらないのですか……?」
「わからないのか?」
 逆に問われ、自分で気づけ、ということなのだと受け取り、唇を引き結んだ。
「……アレクセイの言った通り、とんだ鈍感娘だな……」
 独り言のような呟きに、ガーネットの全身から一気に血の気が引いていく。
 騎士として失格だ、と言われているようで、今まで培った自信や矜持に、ピシリ、とヒビが入る音が心の奥で木霊する。
 真っ青になったガーネットの顔を覗き込むようにして、ジルフォードが身を屈めた。
「どうした」
 その声は心配しているのか、不安そうな色を纏っている。
「――いえ」
「やはり初めての身体には負担だったか」
 言いながら、ジルフォードは直立不動で立ち尽くすガーネットの脇の下に手を添えると、グイッと持ち上げた。
「きゃっ!?」
 女のような――否、女なのだが、いきなりの浮遊感に甲高い悲鳴を上げてしまい、彼の太い腕を両手で掴む。
 だが、そんなことをしなくても、彼の大きな手は、確実にガーネットの体重を支えており、安定感があった。
「お前は軽いな」
 彼が歩き出したときには、ガーネットは彼の太い右腕に抱き上げられ、移動していた。
「きっ、騎士長殿! 降ろしてくださいっ! 自分で歩けます」
「中から溢れ出していてまともに歩けないくせに何を言う」
 それに、と、同じ高さになった彼の双眸がガーネットを睨みつけた。
「それは俺の役職名だ。名前で呼べ」
「な、名前、ですか……?」
 たしかに、彼は今、業務時間外だ。騎士長としてではなく、王太子として接するのが正しいだろう。
「ジルフォード殿下。お戯れはおやめください」
「…………」
 言い直したのに、彼はどこか不機嫌そうだ。けれど、「今はそれでいいか」と小さく呟く。
 ガーネットを腕に抱えたまま寝室を出ると、執務室の反対側にあるドアへと彼は手を伸ばした。
 がちゃり、と開いたドアの奥は、王太子が使うにしては小さめの浴室となっている。
「お待ちください! 私が殿下の浴室に入るのは恐れ多く……!」
「ならばどうすればお前は大人しくなるんだ」
「自分でなんとかしますから……!」
「――わかった」
 言い置いてから、彼はガーネットを執務室のソファへと座らせた。
「――そこで自分で掻きだしてみろ」
「え!?」
「しっかりできているか、俺が見ておいてやる」
 残酷な言葉に、心の奥がまたツキンと冷えた。
(あぁ……)
 これは拷問じゃない。
 ただの性欲処理だ――。
 除隊を申し出た女騎士を辱めて、楽しんでいるのだろう。
「っ……」
「泣くな」
 優しい声で慰められる。
 だがこれも、ただの幻聴だ。
 足を閉じたまま、自分の股へと手を伸ばす。
 自分で触れたこともない場所を、朝陽の陽が射す明るい部屋でジルフォードが見ている。
「んっ、んん……」
 人差し指を挿れてみると、そこはぐちゅ、と水音を立てた。
「ひっ、う……」
 内壁のヒダを擦ると、とうとう涙が零れる。
 泣いてはいけない。
 そう自分に言い聞かせても、ジルフォードに淫らな姿を見られていると思うと切なくて。
 こんな屈辱的で残酷な命令を、王族の言葉だからと受け入れているなんてどうかしている。
「――もっとよく見えるように足を開け」
「んっ……」
 淫らな命令に、従ってしまう。
「あぁ、美味そうに咥えているな」
「っ……!」
 局部は彼に丸見えで、まるで自慰を見られているような羞恥心で死んでしまいたくなる。
「ちゃんと掻き出せ。中で指を折って、全部出してみろ」
 まるで麻薬かなにかのように、彼の声がガーネットの思考を奪っていく。
 言われた通り指を動かしながら、ガーネットは訴えた。
「ソファ……が……」
「なに?」
「ソファが、汚れてしまいます……」
 中のモノを外に出してしまったら、確実にソファを汚してしまう。
 この夜着は恐ろしく丈が短い。
 彼の前に晒された秘部を隠すことすらできないのだ。
 仮に布の上に出したモノが受け止められたとしても、たくさん注がれた白濁の液が受け止めきれるとも思えなかった。
「なら浴室に行くか?」
 それはダメだと、ガーネットは頭を激しく左右に振った。
「王族の――殿下の湯殿を穢すなど……」
「だからそれは役職名だ。俺の名を呼んでみろ」
 熱の籠った優しく甘い声音で囁かれる。
 そんな声を出さないでほしい。
「ジル、フォード……さまぁ……」
 もう許してと、涙を流しながら訴えた。
 だが、聞き入れられることはなかった。
「――……美味そうだな」
 そう言って、ガーネットの指が挿ったままのところに、彼が口をつける。
「ひっ!」
 彼に見つめられていることで、白濁の液と愛液が混ざったそれを、彼が吸い上げていく。
「だめ!!」
 じゅっじゅっ、と淫猥な水音が執務室に木霊する。
 嫌だとジルフォードの肩を掴んだが、どんなに押しても彼はびくともしなかった。
 何か彼がこの行為をやめてくれるきっかけになるような言葉を考えたが、口から出たのは思ったままの言葉だった。
「殿下の……お口が……汚れ……っ!」
「気にするな」
「いやぁ……!」
 ジュッ、と強く蜜壺を吸われ、嫌々と頭を左右に振って、やめてと訴える。
 そこを吸われると、神経が焼き切れそうだった。
「だめ……、だめぇ!」
「可愛く啼かれると、また抱きたくなるな」
 正直、こんな場所を舐めれて吸われるくらいなら、抱かれた方がまだマシだった。
 だが、体力的にはガーネットの方が限界だった。昨晩、それこそ気を失うまで貪られたのだ。
 泣いて叫んでも無駄で、何度も絶頂を迎えさせられ、彼の大量の子種を中にこれでもかと注がれた。
 それなのにまだできるというのか、とガーネットは涙ながらに尋ねる。
「――入り口がひくひくしてるな。お前も欲しいんだろう」
 違う、と訴える前に、彼は下肢を寛げてソファで足を開くガーネットの中へと熱棒を突き立てた。
「あぁぁぁ!!」
 何度も擦られて快楽を拾った場所は、もっと奥に欲しいと内壁をひくつかせる。
 意識してのものではなかった。
「もう……むり……ッ!」
 作り替えられていく。
 ジルフォードに、意味もないこの交わりに、身体が簡単に変化してしまう。
「で、んか……ッ! も、もう……っ」
 自身の指とジルフォードの熱棒で擦れる場所が、絶頂へとガーネットを追いやる。
 もう限界、と思った時、ジルフォードは腰を激しく揺さぶって、せっかく昨夜の分を掻き出した場所に精を吐き出す。
「やぁぁぁ……んっ!」
 ガクガクと震えた後、ガーネットも達した。
 そしてガクリ、と倒れると、そのまま意識を手放していた。
「……やりすぎた、か……」
 ぐったりと項垂れ、気を失った彼女の身体を横抱きにして、ジルフォードは寝室へと戻った。
 寝台に痩躯を横たえると広がった銀色の髪と、今は閉ざされた髪と同じ色の睫毛が縁取るその美貌に、ジルフォードは熱い吐息を零す。
「まるで、女神のようだ……」
 ひとり呟いて、らしくもない独り言に赤面する。
 ちらりと寝室の窓から見える景色は、まだ白み始めたばかりだ。あと少しは眠らせてやれるだろう、とジルフォードは彼女の隣に身体を横たえる。
「こんな少女が、騎士団最強だとはな……」
 腕力よりも俊敏さを活かした剣術。力では敵わない相手であっても、相手の力を使って逆に攻める彼女の戦闘スタイルは、この国では珍しい。彼女が女神であるならば、それは戦の女神ワルキューレだ。
 その女神を組み敷いたとなれば、彼女の恋人である人間たちの嫉妬の対象となるだろう。
「それもまた、一興だな……」
 彼女が泣いて叫んでどんなに乞おうが、絶対に離さない。他の人間になど、くれてなるものか。
 やっと見つけたのだ。
 心から惹かれる女性を。
 かつて父王から強制的に当てがわれた、八人の婚約者たちには感じなかった、愛おしさを。
 ジルフォードは己の中にある醜い感情に蓋をするように、寝台の上で安らかに眠るガーネットを抱き寄せ、瞼を閉じた。
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