25 / 43
第一章 人喰いの少年
二十四話 幸せな願い
しおりを挟む「主様、勝手に出ていかないでください」
屋敷に戻るや早々、補佐官が憤慨したように吐き捨てた。変わらずの無表情で苛立ったように言葉を発した彼に、リレイヌは謝罪を一つ。先の件を彼に伝える。
メニーを追いかけ外に出たら黒い塊と遭遇した。それはメニーとパティを飲み込もうとしていた。それの正体は集められた玩具だった。
報告を受けた補佐官ことイーズは、無言でなにかを考える仕草をとると、暫く沈黙。少しして、「オルウェルから聞いた話なのですが」と口を開いた。
「なんでも、最近近場の町や村で玩具がなくなる事案が発生しているそうですよ。玩具なので子供が無くしてしまったんだろうと自己解決はしているようですが、それにしてもその喪失はかなり多いのだとか……」
「なんでオルウェルがそんなこと知ってるの?」
「街人から聞いたんでしょう。あれはいやにコミュ力がありますからね」
へー、とコトザ。話を逸らすなと、リレイヌは彼の背を一度叩いた。
「しかし、玩具の喪失か……」
不可解といえば不可解な事件である。
リレイヌはちらりと背後のメニーを見て、それから視線をイーズへ。「そっちの件をオルラッドに頼んでくれないか?」と一言告げ、屋敷へあがる。
「あと、ビビを呼んでくれ。仕事があると……」
「げえっ」
パティがあからさまに反応した。ひどく困ったような、不快そうな顔で「主様、ボクはちょっと野暮用が……」とこの場から去ろうとする彼を、リレイヌはむんずと捕獲する。
「パティ」
「は、はい」
「喜べ。ビビとの合同任務だ」
「ひ、ひえっ」
パティはこの世の終わりだとでも言いたげな顔で青ざめた。
◇◇◇◇◇◇
人喰いの病を患った子供。
街に増える謎の死体。
突如現れた玩具の塊。
とんとんとん。
机を指先で叩き、リレイヌは考える。
関係なさそうで繋がるそれら。
恐らく出処はメニーを作り出した研究所。
そこさえ叩けばこの騒動は幕を閉じる。
しかし、果たしてそれで良いのか……。
一人の小さな命。それを見捨てるのかと思う一方、今更だろと自身を嘲笑う自分もいた。
リレイヌは世界最高神。それに相応しい動きを彼女は見せる。そこに慈悲があるかと言われれば、それはどうかわからない。強いて言うならば捉え方の問題。相手方の思い込み次第で良くも悪くもなるだろう。
「……悩んでるね、珍しく」
静かな室内。
その場にいるコトザが、イーズにより出された紅茶を飲みながら楽しげに笑う。愉快そうに笑う。
その笑みを不愉快だと言いたげに見つめたリレイヌは、彼と同じように紅茶を一口。小さな息を吐き、瞼を下ろす。
「……子は死ぬしかないようだな」
「助けるつもりなんて端からないくせに」
知ってるんだよと、彼は言う。
「君が誰よりも残酷なこと。利用出来なければすぐに切り捨てること。知ってるんだよ、僕」
「……」
「でも僕、君のそういうところ凄く好きだけどなぁ。ほら、何も考えてない脳天気な人間より遥かに愛着わくじゃない。君はずっと考えてるからね。どうすれば良くできるか、どうすれば存続させられるか、どうすれば死ぬ事ができるのか……」
ことりと、カップが机上に置かれる。
小さく目を伏せたコトザは、どこか悲しげな顔だ。
「僕は好きだよ、君のこと」
だから止めない。止めることなんて出来やしない。
だって苦しんでるのは彼女だから。ずっと、誰も、救えない存在。それが彼女だから。
「……いつか願いが叶ったら、また頭を撫でて笑ってね?」
それが僕の、小さな幸せ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる