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第三章
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しおりを挟むそんな彼らの、和やかとも言える会話が繰り広げられている時、ジルとアランは氷漬けになった街の者達を前、困り顔になっていた。その傍らには、鎌を取り戻し有頂天のハンドマンと、アランの喚び出した新たな召喚獣が存在している。
新しく見るそれは、火に包まれた生き物だった。見た目はクジラに近く、しかし大きさはそこまでない。人の頭一個分の大きさ、言い表すならばそれくらいだろう。
傷一つない、赤い尾鰭を足がわりに立っているクジラの姿に、なんとも言えぬ感覚に陥りつつ、ジルは考える。
「さすがに、いきなり氷を溶かされてショック死されたらたまったもんじゃないよなー。ここは慎重に、かつ冷静に事を進めなければ……医療系わっかんねーよ! 誰かプロ呼んできて! プロ! お医者さーん!」
騒がしいのは相変わらず。いつも通り、若干ふざけたことを叫ぶ少年に、その傍らに立つ少女は笑みを浮かべる。
「あら、大丈夫よジル様」
何が大丈夫だというのか。
振り返るジルに、彼女は言った。
「万が一ショック死したとしても、強い電撃を流してあげれば生き返るかもしれないわ」
「あー、電撃ね。なるほど」
「私、雷属性の魔術は得意なの。落雷くらいなら起こせるから安心してちょうだいな」
「まさかの自然災害」
そんな、もはや攻撃ともいえる治療を受ける方は、たまったものではなかろう。
少年は心の中で手を合わせる。安心してくれ。骨は拾う。
「……そういえば、魔術? あれってそんなレアじゃないの? オルラッドも使えるみたいだし」
「ミーリャちゃん──呪術師に比べればレア度は劣るけれど、それでもその存在は少ないわ。なんといっても、自然を操る術だもの。早々使える人がいたら面白くないし、世界の均衡も崩れる」
世界の均衡、と言われてまずオルラッドのことが一番に浮かんだのは、あの尋常ではない力を目の当たりにしたからかどうか……。青ざめるジルに何かを察したのか、アランは苦笑。「彼はレア中のレアよね」なんて言ってみせる。
「……なんだろ、無課金でレアカード引いた気分に、今俺はなってしまった」
それはそれで嬉しいことなのだろうがレアすぎこわい。考えるなジルよ。これ以上は雑魚の心身には負担となる。
思考を切り替えるべく一度、深く頷き、少年は改めてと言うように前方を見据える。
「とりあえずアランちゃんの案でいってみよう。まあファンタジー物語だしなんとかなる可能性も微レ存。俺はアランちゃんを信じる」
「嬉しいわ、ジル様。私がんばる」
両手を合わせほんのりと頬を染め、少女は笑みと共にそう言った。それから、彼らの体を温めてくれているクジラに向かって声をかける。
「さ、やっちゃって。目的はあくまで氷を溶かすだけだから、いつもみたいに骨まで焼いちゃだめよ?」
クジラは一度、アランを一瞥したかと思えば、そのまま大股(と表現していいのか定かではないが)で前方へ。氷漬けになった人々を軽く見回し頷いたかと思えば、どこから取り出したのか、真っ黒なサングラスを装着(クジラ専用と書かれている)。葉巻を取り出し、己の身に纏う炎で先端に火をつける。
「いや待って! 俺はどこからつっこむべきなの!?」
なぜか一服しだしたクジラの様子に、声を荒らげて頭を抱える。それを咎めるように、アランがこっそりとジルに一歩近づきながらこう告げた。
「この子、強い力使うと乾涸びちゃうの。許してあげて」
なぜクジラに炎を纏わせたんだ……。
考えるジルの視界、早々と葉巻を吸い終えたクジラが、短くなったそれを口にくわえたまま両手をあげる。そのまま力強く鳴いた彼(?)は、その両手より凄まじい勢いで燃え盛る炎を出現させ、部屋の氷を消失させていた。
「……これ、骨残ってる?」
そんな疑問がついつい浮かぶ。前方で乾涸びたクジラが悲しくも倒れ伏すのを視界、ジルは現実を逃避するようにそっと額を抑えていた。
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