騙された私も愚かでした

鈴蘭

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メリーの言い訳(ハロルド視点)

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 「ハロルド小侯爵。この手紙を書いたのは、間違いなくメリーだろう。伯爵家の内情を理解し、小侯爵の事も知っている。この様な事をする者は、他に思い当たらない。恐らくだがキャロラインとの婚約が正式に決まってから…いや、それ以前からだろうか?入念に計画を練っていたのだろうな」
 「何を言っているのですか、旦那様。私はその様な事は、しておりません。その手紙は、間違いなくキャロライン様が書いたのです」
 計画だと?何の計画なのだ?甲高いメリーの声が、煩わしくて仕方が無い。
 伯爵は、何が言いたいのだ。
 「黙りなさい!お前は、筆跡さえ真似れば良いと思っていたのか。キャロラインの封蝋印を使えば、私達も簡単に騙せると、本気で思っていたのか!」
 「伯爵、何を言っている?私には、キャロラインの封蝋印を、メリーが使ったと言っている様に聞こえたぞ」
 馬鹿な…貴族の封蝋印を他者に渡すなど、自分で自分の首を絞める様な行いだろう。
 伯爵は、何故そんなあり得もしない事を言うのだ?
 「侯爵。キャロラインなら、嫁いで直ぐに手紙をくれていた筈なのです。それなのに、こちらから手紙を出す迄、一切音沙が汰無かった。キャロラインの封蝋印が押された手紙が届いた時は、やっと来たかと思った程でしたが、私達両親宛ての物しかありませんでした。あの子が幼い頃から仕えて来た侍女達を、嫁いだ途端気に掛けなくなるのも、おかしいと思ったのです。筆跡は、確かに娘の物の様に見えました。ですが、何度読み返しても、他人が書いたとしか思えなかったのです」
 「しかし…貴族の封蝋印を他者が使う等、あり得ないだろう。封蝋印を偽造したのか?」
 「いいえ。封蝋印は間違いなく、キャロラインの物でした。だから、余計に違和感を感じていたのです」
 「旦那様!キャロライン様は、輿入れで大変だったのです。心労で、熱を出されてしまって…それで、手紙を書けなかったのです。熱が下がってから、私の目の前で手紙を書かれていました。本当です」
 「メリー!私達が、愛する娘から受け取った手紙の内容に、違和感を持たない様な愚かな親だと思っていたのか!懐妊した等と言う馬鹿げた話も、信じる筈が無いだろう!どう言う事なのか真実を知る為に、何度もキャロラインへ面会をしたいと手紙を書いたのだ。それなのに、体調を理由に断る返事しか来ない。どう考えたって、納得等出来る筈がないだろう」
 「それは…キャロライン様からの指示で…身籠っていて、体調が悪くて…」
 「身籠っていて…か。都合の良い言い訳だな、まさか暴力を受けているとは、想像もしていなかったが…嫌な予感がしたので、小侯爵にも何度も手紙を出していたのに、返事は来なかった。彼への手紙も、お前が隠したのではないのか」
 「そんな事は、していません。私が受け取っていたのは、キャロライン様へのお手紙だけです」
 「まぁいい。上手く騙せていると思っていたのかもしれないが、娘に会えない私達が、大人しくしている筈が無いだろう。不躾だとは承知で、侯爵に問い合わせるとは、考えなかったのか?まさか嫁いだその日から、この様な事態になっていたとは思わなかった…もっと早く行動するべきだったのだ。キャロラインから最初の手紙を受け取った時に、侯爵邸へ押しかけていたなら…キャロラインは…こんな苦しまずに済んだかもしれないのに…」
 伯爵は、悔しそうに唇を噛みしめていた。
 彼が言っている事が事実ならば、メリーはキャロラインを騙り、私達を騙し続けていた事になる。
 それに…伯爵から私へ宛てられた手紙は、何処へ行ったのだ?
 この屋敷には、誰一人信頼出来る者は、居なかったのか…
 とても信じ難い事だが、目の前に付きつけられて行く現実が、それを裏付けていった。
 「使用人の中に、ハロルドへの手紙を、無断でメリーへ渡していた者がいたのだな。これは侯爵家の失態だが、今迄この様な事は起きていない。誘導した誰かが居たのだろうと、推測出来る。洗い浚い、調べる必要があるな」 
 父上の言葉を聞いて、私達はメリーに視線を向けた。
 「ち、違います。私は、何もしていません。ハロルド様への手紙も知りません。その手紙だって、キャロライン様が書いた物です。信じてください」
 瞳を潤ませて上目遣いに懇願して来る様は、傍から見たのなら、私達が悪者なのだろうと思われるだろうな。
 「ならば答えよ、メリー!この手紙をキャロラインが書いたと言うのなら、護衛騎士との恋慕とは、どう言う事だ。随分と仲睦まじくしている事が書かれているが、信頼されているお前なら、当然知っているのだろう」
 「そ、それは…口止めされているので、言えません」
 「ならば、お前が名指しでキャロラインの思い人だと言っていた護衛が、どの様な人物なのかシエルの人となりを言ってみなさい。私達は知っている、当然だがキャロラインも知っている事だ。お前がキャロラインから聞いていたのなら、隠す必要性は何処にもあるまい」
 「も、勿論知っております」
 「では、口を閉じる意味は無いだろう、答えなさい」
 「え?…そ…それは…」
 「シエル…。帯同予定だった護衛騎士だな。私も知っている、遠慮する必要は無い、答えろメリー」
 父上迄、キャロラインとの関係を知っていたのか?
 どうして…何故平然としていられるのだ。
 二人の剣幕に押されて、メリーはごもごもと語りだした。
 「華奢な方ですが、剣の腕は確かで………でも、女癖の悪い方です!何時もキャロライン様の寝室迄入って行ってました…そう!一晩中護衛だと言って、傍におりましたわ!同じベッドに入っているのを、見たのです。絶対に他言無用だと、キャロライン様に口止めされていたので、私は心苦しくて何度も注意をしたのですが…あっ、言っちゃった」
 メリーは隠す気等無いのだろう、業とらしく口元に手を当てる仕草迄、芝居がかっている様にみえる。
 私はこんなのを、キャロラインの筆頭侍女にと、父上を説き伏せて迄…
 「それだけか?」
 「え?」
 「それだけかと、聞いている」
 「え…えっと……そう!か…寡黙な人なのです。でも、キャロライン様と居る時は、肩を抱き寄せて求愛の言葉を何度も呟いていました。私にも、キャロライン様を頼むと、輿入れの時に託されたのです」
 「お前は、何も分かってはいないのだな」
 「分かっていないのは、旦那様です。あの護衛は、私が伯爵家へ来た時から、ずっとキャロライン様しか見ていませんでした」
 「本当に、呼吸をする様に嘘を付く子なのね。女性にだらしないと言いながら、キャロラインしか見ていないだなんて。その場凌ぎの言い訳にしても、お粗末過ぎですわ。話す事でもありませんから、私達も黙秘していましたけれど、シエルとキャロラインが恋慕になる事はありませんわ。まして懐妊だなんて、天地が逆になってもあり得ません」
 「何故ですか、伯爵夫人?護衛騎士と、寝室を共にしていたのなら………」
 私は、先程も彼がキャロラインの寝室に入って行く姿を見ていた。
 伯爵夫妻は夫である私を前にしながらも、それを止めもしないで当たり前の様にしていた。
 父上までも…
 何故皆、当たり前の様に受け止めている?
 気にしている私が、おかしいのか?
 「キャロラインと護衛騎士の間に出来た子では無いのなら、誰の子を身籠っているのですか?まさか、その話しも嘘なのですか?」
 「ハロルド、お前は頭がおかしくなっているな。何故あの状態のキャロラインを見て、身籠っていられると思うのだ?それに、あの護衛騎士の事は、事前に知らされていたであろう。まさかとは思うが、書類を見ていないのか?」
 知らされていた?
 書類?
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