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伯爵夫妻の怒り(ハロルド視点)
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私が歩き出すと、皆無言で歩き出し、キャロラインが寝ている客間の前に来た。
「先にお伝えしたい事がございます。キャロラインは、メリーと侯爵家の使用人から執拗な暴力を受けて、昏睡状態になってしまいました。顔は、酷く腫れ上がっております。この客間の奥にある寝室で、医師達から治療を受けておりますが、呼吸も荒く非常に危険な状態です」
「それは本当なのか?侯爵邸の使用人が…」
伯爵夫妻は、父上の言葉を最後まで聞かずに、寝室へと入って行った。
「メリーは、お前が引き入れたメイドだろう。まさか…」
「申し訳ありません。屋敷の使用人迄も、信用できない状況なのです」
私と父上は、隣の客室から、寝室の様子を伺う事にした。
昏睡状態のキャロラインを見て、伯爵夫妻は愕然としていたが、伯爵夫人がベッドへ近寄って行った。
「キャロライン…どうして、何があったと言うの?顔が分からない程こんなに腫れあがって、酷い姿になる迄、暴力を受けていたなんて…恐ろしかったでしょう、痛かったでしょう。貴方がこんな酷い目に合っていたと言うのに、私達は何もしてあげずにいたなんて…ごめんなさい。可哀想なキャロライン…キャロライン。お願いよ、目を開けて頂戴。貴方は、私達の宝なの…」
伯爵夫人は、嗚咽を漏らしながら、キャロラインに縋り付いていた。
「伯爵夫人。こうなってしまったのは、私の責任でもあります。メリーからの暴力を知った時に、侯爵家の体裁等気にせず、直ぐお知らせするべきでした。今は医師として最善を尽くす事を、お許し下さい。その後でどの様な厳罰が下ろうと、全て受け入れます」
伯爵は、キャロラインの腫れた顔にそっと触れて「すまなかった」と、一言だけ呟いたまま暫く沈黙していた。
そして伯爵夫人が落ち着いた頃合いを見て、夫妻は客室に戻って来たのだ。
キャロラインの思い人である護衛騎士が、私に鋭い視線を向けている。
愛する人の無残な姿を見たのだから、当然だろう。
私は彼に切られても文句は言えないのだろうが、人の婚約者に手を出しておいて、侯爵邸に付いて来る等図々しい奴だと思っていた。
このまま切り掛かって来ると言うのなら、重罪人になる覚悟の上なのだろう。
彼もまた、キャロラインを失って迄、生きている価値を見出せないのだと思った。
そんな彼を、伯爵が手を挙げて静止した。
「子供の頃から風邪一つひいた事もなかったのに、体調不良等と言い訳をするのは、おかしいと思っていたのだ。顔は腫れていると言うのに、身体は痩せ細って。暴力を受けていただけでは無いだろう。君は何故、こんな姿になる迄キャロラインを放置していたのだ」
「弁解のしようもございません」
私は殴られる事を覚悟していたのだが、伯爵は悔しさを滲ませる様な声で、問うて来るだけだった。
「伯爵様。皆でキャロライン様と、ハロルド様を偽っていたのです。大変申し訳ございません、私が止めるべきでした。お詫びの言葉もございません、どうか厳罰に処してください」
侍女長が。床に頭を擦り付ける様に、謝罪の言葉を述べている。
メイド長は呆然と立ち尽くし、言葉を失ったままだ。
今後どのような厳罰が下るのかを考えて、恐ろしくなったのだろう、身体が小刻みに震えていた。
伯爵夫人は、とても低くゆっくりとした口調で、尋ねて来た。
「キャロラインの手はあかぎれだらけで、労働者の様でした。暴力を受けていただけではなく、キャロラインに何をさせていたのですか。メリーの姿がありませんが、彼女は何処にいるのです。此処は、本当にキャロラインの部屋なのでしょうか。何も無く、殺風景過ぎではありませんか。嫁入り道具に持たせた家具やドレス、宝石箱は何処なのです。クローゼットの中に、何も入っていないのは、何故なのかしら。いくらキャロラインが望んだ事と言っても、こんな奥の薄暗い部屋に寝かされているのは納得いきません。キャロラインの、本当の部屋を見せて頂戴」
「ハロルド。伯爵夫人の言う通り、何故こんな隅の薄暗い部屋に、キャロラインを寝かせている。労働者の手とは、どう言う事なのだ。彼女の輿入れ道具はどうした、続き部屋に揃えて置いていただろう。メリーは何をやっている、きちんと説明しなさい」
「………申し訳ありません。この部屋に連れて来たのは、医者に診せる為だと聞きました。キャロラインが使用人用の部屋を与えられ、下女達と同じ労働をさせている事を、私は今日迄知りませんでした。暴力を受けていた事も、知らなかったのです」
「知らないだと?同じ屋敷に住んでいながら、そんな理由がまかり通ると思っているのか!君は、私達の一人しか居ない娘を、何だと思っているのだ」
伯爵は、私の襟首を掴み、怒りを露わにした。
「申し開きもございません。全ては、私の責任です」
私は、婚約してから今日までの事を、包み隠さず正直に伝えた。
「先にお伝えしたい事がございます。キャロラインは、メリーと侯爵家の使用人から執拗な暴力を受けて、昏睡状態になってしまいました。顔は、酷く腫れ上がっております。この客間の奥にある寝室で、医師達から治療を受けておりますが、呼吸も荒く非常に危険な状態です」
「それは本当なのか?侯爵邸の使用人が…」
伯爵夫妻は、父上の言葉を最後まで聞かずに、寝室へと入って行った。
「メリーは、お前が引き入れたメイドだろう。まさか…」
「申し訳ありません。屋敷の使用人迄も、信用できない状況なのです」
私と父上は、隣の客室から、寝室の様子を伺う事にした。
昏睡状態のキャロラインを見て、伯爵夫妻は愕然としていたが、伯爵夫人がベッドへ近寄って行った。
「キャロライン…どうして、何があったと言うの?顔が分からない程こんなに腫れあがって、酷い姿になる迄、暴力を受けていたなんて…恐ろしかったでしょう、痛かったでしょう。貴方がこんな酷い目に合っていたと言うのに、私達は何もしてあげずにいたなんて…ごめんなさい。可哀想なキャロライン…キャロライン。お願いよ、目を開けて頂戴。貴方は、私達の宝なの…」
伯爵夫人は、嗚咽を漏らしながら、キャロラインに縋り付いていた。
「伯爵夫人。こうなってしまったのは、私の責任でもあります。メリーからの暴力を知った時に、侯爵家の体裁等気にせず、直ぐお知らせするべきでした。今は医師として最善を尽くす事を、お許し下さい。その後でどの様な厳罰が下ろうと、全て受け入れます」
伯爵は、キャロラインの腫れた顔にそっと触れて「すまなかった」と、一言だけ呟いたまま暫く沈黙していた。
そして伯爵夫人が落ち着いた頃合いを見て、夫妻は客室に戻って来たのだ。
キャロラインの思い人である護衛騎士が、私に鋭い視線を向けている。
愛する人の無残な姿を見たのだから、当然だろう。
私は彼に切られても文句は言えないのだろうが、人の婚約者に手を出しておいて、侯爵邸に付いて来る等図々しい奴だと思っていた。
このまま切り掛かって来ると言うのなら、重罪人になる覚悟の上なのだろう。
彼もまた、キャロラインを失って迄、生きている価値を見出せないのだと思った。
そんな彼を、伯爵が手を挙げて静止した。
「子供の頃から風邪一つひいた事もなかったのに、体調不良等と言い訳をするのは、おかしいと思っていたのだ。顔は腫れていると言うのに、身体は痩せ細って。暴力を受けていただけでは無いだろう。君は何故、こんな姿になる迄キャロラインを放置していたのだ」
「弁解のしようもございません」
私は殴られる事を覚悟していたのだが、伯爵は悔しさを滲ませる様な声で、問うて来るだけだった。
「伯爵様。皆でキャロライン様と、ハロルド様を偽っていたのです。大変申し訳ございません、私が止めるべきでした。お詫びの言葉もございません、どうか厳罰に処してください」
侍女長が。床に頭を擦り付ける様に、謝罪の言葉を述べている。
メイド長は呆然と立ち尽くし、言葉を失ったままだ。
今後どのような厳罰が下るのかを考えて、恐ろしくなったのだろう、身体が小刻みに震えていた。
伯爵夫人は、とても低くゆっくりとした口調で、尋ねて来た。
「キャロラインの手はあかぎれだらけで、労働者の様でした。暴力を受けていただけではなく、キャロラインに何をさせていたのですか。メリーの姿がありませんが、彼女は何処にいるのです。此処は、本当にキャロラインの部屋なのでしょうか。何も無く、殺風景過ぎではありませんか。嫁入り道具に持たせた家具やドレス、宝石箱は何処なのです。クローゼットの中に、何も入っていないのは、何故なのかしら。いくらキャロラインが望んだ事と言っても、こんな奥の薄暗い部屋に寝かされているのは納得いきません。キャロラインの、本当の部屋を見せて頂戴」
「ハロルド。伯爵夫人の言う通り、何故こんな隅の薄暗い部屋に、キャロラインを寝かせている。労働者の手とは、どう言う事なのだ。彼女の輿入れ道具はどうした、続き部屋に揃えて置いていただろう。メリーは何をやっている、きちんと説明しなさい」
「………申し訳ありません。この部屋に連れて来たのは、医者に診せる為だと聞きました。キャロラインが使用人用の部屋を与えられ、下女達と同じ労働をさせている事を、私は今日迄知りませんでした。暴力を受けていた事も、知らなかったのです」
「知らないだと?同じ屋敷に住んでいながら、そんな理由がまかり通ると思っているのか!君は、私達の一人しか居ない娘を、何だと思っているのだ」
伯爵は、私の襟首を掴み、怒りを露わにした。
「申し開きもございません。全ては、私の責任です」
私は、婚約してから今日までの事を、包み隠さず正直に伝えた。
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