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大きな誤解(ハロルド視点)
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私は覚悟を決め、伯爵夫妻を出迎えた。
「申し訳ございません。こんな形でお呼びだてする予定では、ありませんでした」
深く頭を垂れ謝罪をしたが、伯爵夫妻はかなり動揺している様だった。
「キャロラインに会わせて下さい。あの子が昏睡状態だなんて、一体何があったのですか」
「そうですよ。風邪一つ引いた事も無かったのに…」
「ご案内致します」
私は真っ直ぐ、キャロラインの休んでいる客間へと向かった。
「ハロルド。夫婦の寝室は、こっちでは無いだろう。一体私達を、何処へ連れて行く気なのだ。この先は、今は使われていない部屋しか無い筈だが…」
「申し訳ありません。キャロラインの意思で、部屋は別に用意させたのです」
「キャロラインの意思とは、一体どう言う事なのでしょう。娘が懐妊したと言う手紙が届いたのですが、話がさっぱり分からないのです。それに…」
「キャロラインが、懐妊していただなんて…だから、一年だったのか?」
私は伯爵夫人の言葉を聞いて、あまりの驚きでつい口から思った事が出てしまった。
「一年…ですか?」
伯爵夫妻はお互いに顔を見合わせ、不思議そうにしている。
「小侯爵様。初夜の時に出来た子だと手紙に書いていたけれど、時期が早過ぎます。まるで婚姻前から…その様な関係にあったと、疑われてしまいますわ。それに、あの子の手紙の筆跡が…」
「ハロルド!どう言う事だ、お前は初夜も待たずに他人様の大切な娘と…」
父上が襟首を掴んで怒鳴って来たので、私もつい頭に血が上って怒鳴り返してしまった。
「何を仰るのですか!私は決して、不誠実な事はしておりません。キャロラインが懐妊しているのでしたら、それは私の子ではなく、そちらの護衛騎士との間に出来た子です。私達は、未だに触れ合ってはおりません。彼女が一年間、白い結婚を希望したのです。懐妊したまま嫁いで来て、何食わぬ顔で子を産むつもりだったのではありませんか」
伯爵夫妻に帯同している護衛騎士を指差し、言ってしまってからキャロラインとの約束を思い出し後悔した。
しかし他の男の子供を私の子と偽られた事に腹が立ち、隠す必要性を感じなくなってしまったのだ。
「なんだと!ハロルド小侯爵、キャロラインが不貞を犯したとでも言うのか。娘を侮辱するとは、許さないぞ!」
伯爵は私の腕を掴み怒りを露わにして、今にも殴り掛かりそうな勢いで攻め立てて来る。
私が聞いていた伯爵は、キャロラインを道具の様に扱う外道の筈だが…
表向きは優しくして、裏ではキャロラインを虐げていたと、手紙に書いてあった。
だが…本当にそうなのだろうか?
これが演技だと言うのなら、舞台役者顔負けだろうと思う。
「そんな馬鹿な…護衛騎士とですって?」
夫人は、私が指し示した護衛騎士ではなく、背の高い厳つい方の護衛騎士を見上げ、首を左右に振った。
「キャロラインは、この結婚をとても喜んでいたのよ、不貞だなんてあり得ないわ」
伯爵夫人も、キャロラインの身の潔白を信じているようだ。
「ハロルド!お前はキャロラインを侮辱するのか、馬鹿息子が!」
父上に、産まれて初めて殴られた。
勢い余って壁にぶつかり、床に転がった。
確かに、彼女を侮辱する言葉だが…
キャロラインを庇っていては、侯爵家の血を引いていない子を籍に入れる事になると言うのに、私は一体どうしたら良かったのだろう。
殴られた頬が、ジワリと痛み出して来る。
キャロライン、君はこれ以上の苦しみを受けていたのだね。
胸の奥が、ジクリと痛んだ。
「小侯爵様、大丈夫ですか?侯爵様。暴力はいけませんわ、いくら何でも酷過ぎます」
伯爵夫人は、こんな私の事を心配してくれると言うのか?
家族に対して、一切興味を示さない人が…これも演技なのか?
キャロラインから聞いていた印象とは、随分違うと感じた。
「ご婦人の前で失礼をした。不詳の息子に腹が立ってしまい、申し訳ない」
「いいえ、私は大丈夫ですわ。それよりも小侯爵様、お顔を冷やされた方が、宜しいのではなくて」
伯爵夫人はハンカチを取り出し、頬に当てようとしてくれたが、私は首を横に振り断った。
「ご心配頂きありがとうございます。この程度、キャロラインの苦しみに比べたら些末な事です。どうぞ、部屋にご案内致します」
伯爵夫人は、キャロラインの姿を見たらどんな反応をするのだろう。
伯爵は、怒り狂うのだろうか。
私の中の伯爵夫妻と、キャロラインから聞いている夫妻、どちらが真実なのだ?
しかしそんな事は、今はどうでもいい。
全ては自分で蒔いた種なのだから、責任は取らなくてはならない。
「申し訳ございません。こんな形でお呼びだてする予定では、ありませんでした」
深く頭を垂れ謝罪をしたが、伯爵夫妻はかなり動揺している様だった。
「キャロラインに会わせて下さい。あの子が昏睡状態だなんて、一体何があったのですか」
「そうですよ。風邪一つ引いた事も無かったのに…」
「ご案内致します」
私は真っ直ぐ、キャロラインの休んでいる客間へと向かった。
「ハロルド。夫婦の寝室は、こっちでは無いだろう。一体私達を、何処へ連れて行く気なのだ。この先は、今は使われていない部屋しか無い筈だが…」
「申し訳ありません。キャロラインの意思で、部屋は別に用意させたのです」
「キャロラインの意思とは、一体どう言う事なのでしょう。娘が懐妊したと言う手紙が届いたのですが、話がさっぱり分からないのです。それに…」
「キャロラインが、懐妊していただなんて…だから、一年だったのか?」
私は伯爵夫人の言葉を聞いて、あまりの驚きでつい口から思った事が出てしまった。
「一年…ですか?」
伯爵夫妻はお互いに顔を見合わせ、不思議そうにしている。
「小侯爵様。初夜の時に出来た子だと手紙に書いていたけれど、時期が早過ぎます。まるで婚姻前から…その様な関係にあったと、疑われてしまいますわ。それに、あの子の手紙の筆跡が…」
「ハロルド!どう言う事だ、お前は初夜も待たずに他人様の大切な娘と…」
父上が襟首を掴んで怒鳴って来たので、私もつい頭に血が上って怒鳴り返してしまった。
「何を仰るのですか!私は決して、不誠実な事はしておりません。キャロラインが懐妊しているのでしたら、それは私の子ではなく、そちらの護衛騎士との間に出来た子です。私達は、未だに触れ合ってはおりません。彼女が一年間、白い結婚を希望したのです。懐妊したまま嫁いで来て、何食わぬ顔で子を産むつもりだったのではありませんか」
伯爵夫妻に帯同している護衛騎士を指差し、言ってしまってからキャロラインとの約束を思い出し後悔した。
しかし他の男の子供を私の子と偽られた事に腹が立ち、隠す必要性を感じなくなってしまったのだ。
「なんだと!ハロルド小侯爵、キャロラインが不貞を犯したとでも言うのか。娘を侮辱するとは、許さないぞ!」
伯爵は私の腕を掴み怒りを露わにして、今にも殴り掛かりそうな勢いで攻め立てて来る。
私が聞いていた伯爵は、キャロラインを道具の様に扱う外道の筈だが…
表向きは優しくして、裏ではキャロラインを虐げていたと、手紙に書いてあった。
だが…本当にそうなのだろうか?
これが演技だと言うのなら、舞台役者顔負けだろうと思う。
「そんな馬鹿な…護衛騎士とですって?」
夫人は、私が指し示した護衛騎士ではなく、背の高い厳つい方の護衛騎士を見上げ、首を左右に振った。
「キャロラインは、この結婚をとても喜んでいたのよ、不貞だなんてあり得ないわ」
伯爵夫人も、キャロラインの身の潔白を信じているようだ。
「ハロルド!お前はキャロラインを侮辱するのか、馬鹿息子が!」
父上に、産まれて初めて殴られた。
勢い余って壁にぶつかり、床に転がった。
確かに、彼女を侮辱する言葉だが…
キャロラインを庇っていては、侯爵家の血を引いていない子を籍に入れる事になると言うのに、私は一体どうしたら良かったのだろう。
殴られた頬が、ジワリと痛み出して来る。
キャロライン、君はこれ以上の苦しみを受けていたのだね。
胸の奥が、ジクリと痛んだ。
「小侯爵様、大丈夫ですか?侯爵様。暴力はいけませんわ、いくら何でも酷過ぎます」
伯爵夫人は、こんな私の事を心配してくれると言うのか?
家族に対して、一切興味を示さない人が…これも演技なのか?
キャロラインから聞いていた印象とは、随分違うと感じた。
「ご婦人の前で失礼をした。不詳の息子に腹が立ってしまい、申し訳ない」
「いいえ、私は大丈夫ですわ。それよりも小侯爵様、お顔を冷やされた方が、宜しいのではなくて」
伯爵夫人はハンカチを取り出し、頬に当てようとしてくれたが、私は首を横に振り断った。
「ご心配頂きありがとうございます。この程度、キャロラインの苦しみに比べたら些末な事です。どうぞ、部屋にご案内致します」
伯爵夫人は、キャロラインの姿を見たらどんな反応をするのだろう。
伯爵は、怒り狂うのだろうか。
私の中の伯爵夫妻と、キャロラインから聞いている夫妻、どちらが真実なのだ?
しかしそんな事は、今はどうでもいい。
全ては自分で蒔いた種なのだから、責任は取らなくてはならない。
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