騙された私も愚かでした

鈴蘭

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覚悟を決めました

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 私の思いとは裏腹に、お茶会に来たハロルド様から、驚く言葉が飛び出しました。
 「キャロライン。メリーはどうしたのかな?私は彼女が淹れてくれたお茶が好きなのだけれど、何故彼女は居ないのだろう」
 ハロルド様は、給仕に来たメイドの中に、メリーの姿が無い事を気にされておりました。
 「え?あの…メリーがハロルド様に、不躾な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした。父の方から侯爵家に謝罪の手紙を出したのですが、聞いてはおられませんでしたか?」
 「ああ、聞いているよ。しかし、それとこれは別の問題だ。私が許したのだから、メリーを呼んではくれないか」
 お茶を淹れたメイドが、真っ青な顔になって今にも倒れそうになっている事に、ハロルド様は気付いていないご様子です。
 「ハロルド様。このメイドの淹れたお茶は、お口に合いませんでしたか?」
 私が問いかけた事で、ご自分の失言に気付かれたみたいです。
 「あ、いや。すまない、とても美味しいよ。私は、失礼な事を口走ってしまった様だ。今の言葉は、忘れて欲しい」
 何時も居るメリーの姿が無かった事を、不思議に思っただけなのかもしれませんわね。
 爽やかな笑顔を向けて下さるハロルド様に、私の心はすっかり絆されておりました。
 「分かりました。貴方達も、もう下がって大丈夫よ。ありがとう」
 「はい。失礼致します」
 給仕のメイド達は、安心して退室して行きました。
 婚約者としてのハロルド様は申し分なく、私を変わらず大切にして下さっております。
 贈り物も、欠かした事はありませんでした。
 「キャロライン。先日仕事で近くを通ったから、君が好きだと言っていた雑貨屋に行って来たんだ。可愛い店に入るのはとても恥ずかしかったのだけれど、気に入って貰えると嬉しい。受け取ってくれるかい」
 そう言ってハロルド様は、可愛らしく包装された箱を渡して下さいました。
 私は嬉しくて、顔が綻んでおりました。
 例え道端に落ちている小石でさえ、彼が渡して下さるのでしたら、宝石の様に輝いて見える事でしょう。
 「ありがとうございます。中を見ても宜しいのでしょうか」
 「勿論だよ。キャロラインに、似合うと思ったんだ」
 箱の中には、素敵なブローチが入っておりました。
 私の好みに合わせた物を毎回ご自身で選ばれている様で、可愛い雑貨屋に入るのは恥ずかしいと零した時のはにかんだ笑顔は、とても素敵だったのです。
 「まぁ。嬉しい、とても気に入りましたわ。次のお茶会に、着けて行っても宜しいでしょうか?」
 私は、このブローチに会うドレスを考えるだけで、胸が高鳴りました。
 「次は茶会ではなく、観劇に行かないかい?人気俳優が、舞台に立っていると聞いたんだ」
 侯爵邸ではなくても、良いのでしょうか?
 「私はとても嬉しいのですが、ハロルド様は大丈夫なのでしょうか。その…人混みは苦手だと、仰っていたではありませんか」
 「苦手だけれど、たまには良いと思ってね。何時も屋敷の中では、キャロラインもつまらないだろう」
 そう言って、とても優しい笑顔を向けてくれました。
 「嬉しいです。観劇、楽しみにしておりますわ」
 私は嫌な事も全て忘れて舞い上がってしまったのですが、次のハロルド様の言葉を聞いて、愕然としてしまいました。
 「キャロライン。その代わりと言う訳ではないのだけれど、次回はその…メリーのお茶が飲みたいんだ」
 少し申し訳なさそうに頼むハロルド様に、嫌だと申し上げる事など、出来るはずが無いのです。
 「そうですか、分かりましたわ。ハロルド様のご希望でしたら、次はメリーに給仕をさせるように、伝えておきますわね」
 私は上手く笑えているでしょうか。
 心の中にドロドロとした物が、溢れて来る様です。
 「ありがとう、キャロライン」
 そんな私の感情など、理解していないのでしょう。
 とても嬉しそうに笑うハロルド様を見て、私は諦めるしか無いのだと、覚悟を決めました。
 きっとメリーの事を気に入っていたとしても、それは単なる愛妾程度なのだろうと、この時の私は深く考えないようにしたのです。

 ハロルド様が私に向ける感情は、良くも悪くも無い、ごく普通の物なのだと思いました。
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