騙された私も愚かでした

メリーを庇う婚約者

　私はメリーがハロルド様へ向ける視線がとても気になったので、彼女に退室を促しました。
　「ありがとう、メリー。後は侍女が居るから、貴方も下がって頂戴」
　しかし私の言葉に返事をせず、ハロルド様に縋るような視線を送ったのです。
　ハロルド様は戸惑いながらも、見目麗しい娘に頼られる事が嬉しかった様です。
　「良いじゃないか。使用人が一人増えた位で、私は気にしないよ」
　私はハロルド様の言葉に驚きましたが、優しい方なので気遣ってくれたのだと、解釈しました。
　この時、メリーが私に勝ち誇った様な表情を向けたのは、気の所為なのでしょう。

　その後も、伯爵家にハロルド様がいらっしゃる時は、必ずメリーが給仕に来ては侍女の傍に控えるようになりました。
　私は何時もの様に注意をすると、ハロルド様が庇うのです。
　「ハロルド様、彼女には他にも仕事があるのです。休ませていては、他のメイドに示しが付きません。それに、侍女では無いのですから区別は大切ではありませんか？」
　「キャロライン。君は、使用人に厳し過ぎると思う。もう少し、彼女達の自由にさせてあげるべきではないのかな？」
　当然の事と思い口にしたのですが、ハロルド様からの思わぬ返答に、たじろいでしまい上手く言葉が出て来ません。
　「そうなのでしょうか…私は、厳しくしているつもりは無かったのですが…」
　「いや、すまない。私も言い過ぎたようだ。確かに区別は大切な事だけれど、彼女だけに対して注意をするのは、良くない事ではないのかと思うよ」
　確かにメリーへの小言は、多いと思います。
　「ですが…ハロルド様。この場にいるメイドはメリーだけですし、他の給仕は退室して行きました」
　「彼女も子供ではないのだから、きちんと弁えての行動なのだろう？気にする事はないよ。そんな事よりも、私の話しを聞いてくれないか」
　この様に、ハロルド様は彼女の存在を、気にしていないご様子なのです。
　毎回ハロルド様とのお茶の席に、メリーが居る事も、疑問に思っていない様です。
　伯爵家には沢山の使用人が席を置いておりますが、毎回ハロルド様が来る日に、彼女がお茶当番に当たるのは偶然なのでしょうか？
　そしてハロルド様は当たり前の様に、メリーの同席を認めてしまうのですが、侯爵家では侍女とメイドの区別は付けていないのでしょうか？
　私の疑問は膨れ上がるばかりでしたが、メリーが他のメイドに交代を頼んでいる訳でもなかったのは知っております。
　たまたまハロルド様と約束した日が、たまたま彼女の当番に当たっているだけなので、私の心はモヤモヤしたままでした。
　この程度の事で目くじらを立てていては、貴族家の娘としては失格だと思い、何とか自分を誤魔化して目を瞑っていたのです。
　しかしお茶会を重ねる度に、メリーがハロルド様へ向ける視線は、制限なく熱を帯びて行きました。
　そんなメリーの視線に、ハロルド様も気付いてはいるようですが、満更でもないご様子。
　私は居たたまれなくなり、伯爵家でのお茶会は何時もハロルド様が一方的に話をするだけの、つまらない時間になってしまいました。