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妹は、分かってくれない

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 「デイジー、お願いよ。これ以上ドレスを仕立てるのは、止めて頂戴。それにデートなら、今ある外出着で十分ではないの?」
 「引き籠りのお姉様に、何が分かると言うの?可愛い私を、アーノルド様に見て貰いたいの。貧祖な服装を好むお姉様には、理解出来ないでしょうけどね」
 「私だってお洒落をしてみたいのよ、でも出来ないのですもの」
 「センスが無いお姉様には、無理ですものね。それに、お父様そっくりの銀髪と血の色みたいな瞳では、何を着ても似合わないでしょうけど」
 そう言ってデイジーは、行ってしまった。

 「どうして、そんな酷い事が言えるの?」
 デイジーは、可愛いと思うわ。
 金色のフワフワした巻き毛に、エメラルドみたいな翠眼は、お母様とよく似ている。
 違う所は、お母様の髪は真っ直ぐだって事位かしら?
 パーティ会場でも、二人は人気者だと聞いている。

 婚約者が出来たのだから、パーティへ行く回数が減ると思っていたのに、お母様もデイジーも相変わらず。
 それどころか、デートの度に服を新調するのだもの。
 お父様がお母様に注意出来ないのは、仕方の無い事かもしれないけれど、デイジーに迄何も言わないのはどうしてなのかしら?


 アーノルド様が執務を手伝いに来てから、食事は家族揃って摂る様になった。
 こんな光景は何時振りだろう?
 私の記憶では、家族が揃う事等、数える位しかない。
 目の前で幸せそうな顔をしているデイジーと、それを微笑ましそうに見つめている母親。
 お父様は相変わらず無表情だけれど、アーノルド様は優しいお顔で、デイジーを見つめていた。
 私の胸が、チクリと痛む。

 誰からも、あんな表情を向けられた事なんて、一度も無かった。
 やはり、冷たい印象を与えてしまう、容姿がいけないのかしら?
 日に日に寂しさが募っていく。
 休憩の度に、執務室を出てデイジーの元へ行くアーノルド様。
 天気の良い日は、お庭で楽しそうにお茶を飲んでいる。
 そんな二人の姿を、見つめていた。
 そしてまた、胸がチクリと痛む。

 アーノルド様が、ポケットからハンカチを取り出した。
 デイジーの口元に付いた、クリームを拭いている様だけれど…
 「あの刺繍…まさか…ね」
 デイジーが、私が施した刺繍のハンカチを、渡す筈無いもの。
 見間違えよね。
 嫌だわ、妹が羨ましいからと言って、アーノルド様を見つめ過ぎね。
 恥かしいわ…

 いい加減諦めないと。
 私はお父様に訪ねてみた。
 「お父様、私の婚姻はどうなるのでしょうか?その…どなたかお考えになっている方が居るのでしたら、お伺いしたいのですが…」
 お父様は、暫く無言でデイジー達の姿を見つめていた。
 「一年と言っただろう。しっかりと、自分の勤めを果たしなさい」
 「はい、お父様」
 私は、それ以上何も聞けなくなってしまった。


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