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妹が羨ましい

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 落ち着いて、泣き止んだのを見計らった様に、妹が部屋に入って来た。
 「泣いている暇なんて無いのよ、お姉さま。これに刺繍して、今直ぐ」
 「デイジー、悪いけれど、今はそんな気分になれないわ。少し、そっとしておいてくれないかしら」
 「刺繍も手に付かない程の事かしら?今どんな気持ちなの、アーノルド様を見たのよね、素敵な方でしょう。私の刺繍を褒めて下さったのよ」

 「そう」

 「ご令嬢方にも、凄く人気があるの。剣術大会が近くなると、参加する訳でもないのに、凄い量のハンカチが送られて来るそうよ」

 「そう」

 「皆、手の込んだ刺繍を、施していたみたいだけれど…私が差し上げたハンカチを、一番気に入って下さったの」

 「そう」

 「私が差し上げる刺繍小物は、社交界で凄く人気があるの」

 「そう」

 「もういいわ!全然聞いていないじゃない。ほんと、役立たず。そんなんだから、世継ぎから外されるのよ、いい気味だわ」
 「そうね」
 「心配しなくても、お姉様の面倒は見てあげる。今まで通り、私の言う事を、ちゃんと聞くのよ」
 「心配なんて、していないわ。貴族の娘として産まれたのですもの、家の為になる方の所へ嫁ぐから、大丈夫よ」
 「何が大丈夫なのよ、強がらないで。気付いたんでしょう、アーノルド様が居れば、お姉様なんて必要なくなるって事。どお、羨ましいでしょう?あんな素敵な方、何処を探しても居ないわ。残念だったわね、婚約者に選ばれたのは、私なの。お馬鹿なお姉様」
 そう言って、妹は私の部屋から出て行った。

 「デイジーの言う通りだわ。優秀な入り婿が居たら、世継ぎなんてどちらでも構わないのだから。本当に馬鹿だわ」
 何時か、お父様がお決めになった方の所へ嫁ぐだけよ、そんなに落ち込む事なんてないわ。
 しっかりしなくては、駄目ね。
 自信はないけれど、明日からは、気持ちを切り替えましょう。
 今日だけは、このまま自分に甘えてても良いわよね?
 私は、妹が置いて行ったハンカチに、刺繍を施した。


 アーノルド様は、時間もきっちり守る方の様で、非の打ち所が無かった。
 もしかしたら入り婿として、認めて貰えないのではないかと、少し期待していた自分が卑しく思える。
 「マーガレット様、そろそろ休憩に致しませんか」
 「あら、もうそんな時間ですか。そうですね、少し休みましょう」
 「では、私はデイジーの所へ行って来ます。休憩が終わる前には戻りますが、何かありましたら、直ぐに呼んでください」
 「はい、分かりましたわ」
 婚約者を、大切になさるお方なのね。
 少しの時間でも、デイジーを気に掛けているなんて、本当に素敵な方だわ。

 お母様にも、お父様にも愛されて、素敵な婚約者迄…
 きっと、結婚した後も、ずっと幸せに生きていけるのね。
 「羨ましい」
 思わず口から零れてしまった。
 お父様と目が合ったけれど、何も言わずに顔を背けられてしまった。
 恥ずかしい…
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