【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから

鈴蘭

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第7話 夫と愛人がやって来た

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 本邸での生活にも慣れて来たわ。
 そろそろ私が離れに居ない事に、夫は気付くだろうと思っていたのだけれど…
 私達と入れ替わる様に、侯爵家からの使用人達が離れに送られた事で、全く気が付いていないと報告を受けた。

 私の事どころか執務が滞っている事も、別邸の使用人が少しずつ変わっている事にも、全く興味が無い様子だと言う。
 二人の世界が幸せならば、周りの事等どうでも良い人達なのだと、改めて思い知らされたわ。

 「全く、不肖の息子には、呆れて言葉も出ない。ナターシャ、本当に申し訳無い。私達に出来る事があるなら、何でも遠慮なく言って欲しい。償える様な事では無いが、君には幸せになって貰いたいのだ」
 「お義父様、ありがとうございます。私は今、幸せですよ。お腹の子が、元気に動き回っているのですもの」
 「ありがとう、ナターシャ。私も、出来る限りサポートするわね。子育てには失敗してしまったけれど…」
 お義母様が、寂しそうな顔をされたわ。
 「いいえ。お義母様、私は初めての経験なので、不安な事が沢山あります。傍に居て下さるだけで、心強いですわ」
 「嬉しいわ、ナターシャ。ありがとう」


 ハンナの出産から、ひと月が経った。
 夫は私が本邸に居る事も知らずに、愛人を連れて実家に戻ると、手紙で知らせて来た。
 「あの馬鹿息子が、どの面を下げて戻って来ると言うのだ」
 お義父様は、夫が戻って来たら、現実を分からせると言っている。

 このひと月、何も言わずに静観していたのは、産まれて来た子供に罪は無いから。
 母体も、動けるようになる迄、待っていたの。
 二人にどの様な罰を下すのかは知らないけれど、私は隣の部屋で静かに待つ事になった。

 夫は全ての企みが筒抜けになった事を知らずに、ハンナを連れて本邸にやって来たわ。
「父上、母上、只今戻りました。どうか孫の顔を見てやって下さい。我が侯爵家の世継ぎを、ナターシャが産んでくれました。これで文句はありませんよね、私はナターシャと離縁して、ハンナを娶ります」
 
 「お義父様、お義母様、認めて下さいますよね。もう何年も前から、私達愛し合っているのですもの」
 「お前に父と呼ぶ事を許した覚えは無い。罪の意識も無く、よく言えたものだ。それに、その子供は、誰の子だ?」
 「なっ」
 「何を仰いますか、父上。ナターシャと、私の子です。髪はナターシャに似て赤毛ですよ」

 「確かにそうだが。顔立ちは誰に似た?瞳の色は、茶に見えるが、私の目がおかしいのか」
 「いいえ、あなた。私の目にも、茶色に見えますわ。侯爵家の血では、ありませんわね」
 「母上まで!まだ赤子なのですよ、大きくなれば赤くなります」
 「瞳の色は分かった。だが、顔立ちはどう説明する?本当にお前の子なのか」

 「酷いです、侮辱ですわ。私がレックス以外の人を、愛する筈ないのに」
 「そうです父上、あんまりでは無いですか。まるでハンナが浮気でもしたと言う口振りではありませんか」
 「ほう、やはりその赤子は、ナターシャの子では無いな」
 「ちっ違います、父上。ハンナは、私一筋だと言っただけで、決して浮気をするような女性ではありません。訂正してください」

 「浮気をしていたのは、お前であろう。ナターシャと婚約する前から、ずっとその女と通じていた。事もあろうか、平民の血を引く赤子を、侯爵家の世継ぎにするなど、言語道断。許されると、本気で思っているのか」
 「父上、この子はナターシャが産んだのです」
 「まだ言うか!ならば証拠を見せよ。本人の口から、母親だと、言わせてみよ」

 「分かりました。一度屋敷に戻って、彼女を連れて来ます」
 「その必要は無い」
 「何故ですか、父上が…」
 「ナターシャを呼んで来なさい」
 「畏まりました」
 「お待ちください、父上。ナターシャは別邸にいるのです、私が呼びに行きます」
 「必要無いと、言ったであろう。それとも、他の者に行かせたら、何かまずい事でもあるのか」
 「いえ………」
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