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四 殺すために生き続けた鬼と護るために生き続けた鬼
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桜の古木に、少女が寄り添っている。
今までに視たことのない少女だった。
鳶色の長い髪を、頭の頂点で着物の仮帯で結びあげ、背中に流している。着物は袴姿と、巫女が纏う服に似ていた。顔は木の幹に押しつけているから見えないが、何者か、湖雪にはすぐにわかった。
……額を幹に寄せ、静かに眦(まなじり)から涙を流す少女。
「さくら……ゆき………」
少女は哀しげに桜の古木に呼びかけている。
「逢いたいよ……さくら……ゆき……」
「―――、」
旭日さん、とは呼べなかった。
彼女は、旭日本人ではない。……旭日が、鬼だった頃の姿。
湖雪は、しん……と音を立てずに歩み寄った。
呼び続ける鬼の少女の肩に、湖雪は手を置いた。
……触れられは、しなかった。
ここは桜の古木が数多持つ夢の世界。
本来湖雪は、存在しないもの。今は湖雪こそが思念体。
鬼の少女は、湖雪を認識しない。
届かない。
「ねえ、さくら……ゆきとは、一緒にいるの? 一緒に、いるよね? だって、ゆきはさくらのことを護ったし、さくらはゆきのこと、護ったもんね」
少女は古木を見上げる。湖雪ははっと息を呑んだ。……この少女は、《ゆき》と櫻と、同じ時間に生きたのか。
「さくらって名前、すきだったなあ……。さくらにぴったり合ってたから。さすがゆきだよね」
少女の唇の端に笑みのようなものが浮かぶ。
桜の古木に、少女が寄り添っている。
今までに視たことのない少女だった。
鳶色の長い髪を、頭の頂点で着物の仮帯で結びあげ、背中に流している。着物は袴姿と、巫女が纏う服に似ていた。顔は木の幹に押しつけているから見えないが、何者か、湖雪にはすぐにわかった。
……額を幹に寄せ、静かに眦(まなじり)から涙を流す少女。
「さくら……ゆき………」
少女は哀しげに桜の古木に呼びかけている。
「逢いたいよ……さくら……ゆき……」
「―――、」
旭日さん、とは呼べなかった。
彼女は、旭日本人ではない。……旭日が、鬼だった頃の姿。
湖雪は、しん……と音を立てずに歩み寄った。
呼び続ける鬼の少女の肩に、湖雪は手を置いた。
……触れられは、しなかった。
ここは桜の古木が数多持つ夢の世界。
本来湖雪は、存在しないもの。今は湖雪こそが思念体。
鬼の少女は、湖雪を認識しない。
届かない。
「ねえ、さくら……ゆきとは、一緒にいるの? 一緒に、いるよね? だって、ゆきはさくらのことを護ったし、さくらはゆきのこと、護ったもんね」
少女は古木を見上げる。湖雪ははっと息を呑んだ。……この少女は、《ゆき》と櫻と、同じ時間に生きたのか。
「さくらって名前、すきだったなあ……。さくらにぴったり合ってたから。さすがゆきだよね」
少女の唇の端に笑みのようなものが浮かぶ。
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