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弐 婚約者と鬼の関係
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しおりを挟む昨日は張り付けた笑顔しか見せずに帰って行ったのに、こんな寒い朝に侵入じみた真似をして湖雪に逢いにきた。……そのときの瞳が、忘れられない。
悪戯っぽくて、キラキラと輝いていて、昨日とは全然違う――楽しんでいるような瞳だった。湖雪の表情が、変わるのを。それから……
ぽっと頬が熱くなった。左手をそこに添える。……頬に唇を落としていった。
初めて触れた誰かの唇は柔らかくて、雪のように冷たかった。一体どれだけあそこで待っていたのだろう。……もっと早くに起きればよかった。そうしたら、お茶でも淹れて温めてあげられたのに。
……ん? 今気づいたが、というか全然気にしていなかったが、自分は彼の前に寝巻き姿を晒してしまったのか……!?
それは危険だ! いくら婚約者とはいえ、嫁入り前の娘がそんな不埒なこと!
あわあわと慌て出した湖雪に、旭日は小首を傾げた。
「湖雪様……大丈夫ですか? 本当に今朝は体調がお悪いのでは?」
旭日に声をかけられて、湖雪ははっとする。
「だ、大丈夫」
顔を真っ赤にさせて否定する彼女は、旭日が初めて見る動揺する湖雪だった。
……昨日出逢った婚約者の所為か。彼について注意を促した旭日だが、少し、嬉しいという気持ちを持った。感情を隠さなければならない家柄。恋した人と結ばれるはずもなかった夏桜院。二人の婚約は家同士の決めごとだが――それでも、湖雪が虹琳寺惣一郎に恋したならば、それは恋愛結婚と同義だ。
笑顔のない少女。名前のない跡取り。それが、旭日が見て来た夏桜院湖雪だった。
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