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壱 桜の出逢い
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しおりを挟むやはり外は雪が降っていた。
木製の傘をさして、下駄に足をかける。門前で待っていようかと思ったが、ふと気配を感じて家の裏手に廻った。
敷地内の一番奥、湖雪の部屋の前にある、咲かない桜の大木。咲いたのは、十年前。湖雪がやってきた日。
湖雪を予言の子としたのは、この桜の樹だ。
夏桜院が栄えた理由。それは異能。桜の咲く日に生まれ来る子は、夏桜院に盛りをもたらす。
そう、言い伝えられている。
湖雪のような予知夢――先見の明――に恵まれ、その力を以て夏桜院に繁栄を。
湖雪の予知夢の力は、生まれつきであった。幼い時分、母にそのことを言ったら、誰にも言うなときつく言われていた。だから、誰にも言わない。その約束だけが今、湖雪を母へと繋いでいる。
逢いたいなどとは思わない。早子に何と言われようと、捨てられたことに違いはないのだから。
捨てたのだから、母も逢いたいなどとは思っていないだろう。
それでいい。
自分は捨てられた子。それが湖雪の存在意義。
枯れたように細い枝先に雪の粒を載せる大木を見上げて、湖雪は知らずため息を零した。
きっと、夢の通りになるのだろう。
これから虹琳寺(こうりんじ)の子息の惣一郎と引き合わされて、段取りを決められ、近いうちに――。
「綺麗ですね」
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