上 下
74 / 93
4 目論見

しおりを挟む

平坦だった声に、やっと感情が見えた。

一葉を取り戻す。それは、黒藤からという意味だろうか。

白桜は、顔にも声にも感情が出ないように気を付ける。

「……そのために、その人の子の使役を迷い込ませたりしたのか?」

涙雨のことだ。

『否(いな)。あれは勝手に迷い込んできたのだ。だが、時空の妖異が人の子の使役にくだった話は聞き及んでいた。彼(か)の主だと知り、人の子が我らのもとへ来るよう仕向けた』

「それにしては……時空の妖異が倒れていたのは、その人の子の流派と対をなす我が邸だった。わざとにしては、ずさんな気がするが」

白桜のその言葉に、交渉をする烏天狗は息を呑み、頭上の烏天狗たちもざわついてように感じた。

『……なに? ぬしは、人の子の一族ではないのか?』

「ない。我らは陰陽道御門流。あなたたちが人の子と呼んでいるのは、陰陽道小路流の若君だ。小路と御門は対をなす存在。我らに手出ししたとて、小路流に関係することはない」

『なんと……しかしあの時空の妖異からは、確かにぬしらのにおいがしたが……』

「………」

あ、もしかして。

と、白桜は心当たりがあった。涙雨は、真紅とともに御門別邸を訪れたことがある。

そのとき、かすかながらにおいがついてしまったのかもしれない。

涙雨が暮らしているのは黒藤が住まいとしている小路所有の家で、黒藤以外に術師はいない。

大勢の陰陽師がいる御門別邸と黒藤ひとりのにおいでは、差が出てしまったのかもしれない。

「時空の妖異はわが家へ来ることもある。そのときについたのやも知れぬな」

『そのような……では、ぬしらに言うても、一葉は戻ってこぬということか』

「そうだな。俺は御門流当主だが、一葉の烏天狗に命令をくだせる立場ではないよ」

さっと、白桜が扇を目の前の烏天狗へ向ける。

「俺たちは無益な争いをしたくはない。俺の要求は、このまま手を引いて小路に関わらないこと。そして、迷い込んだ人間にも危害は加えず返すと約定(やくじょう)してほしいことだ」

『……迷い込んだ人間?』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

恋猫月夜「魂成鬼伝~とうじょうきでん~の章」

黒木咲希
ファンタジー
これは『感情を欲した神に人生を狂わされる2匹の猫(猫又)の物語──』 猫又の薙翔と寧々は、百年という長い時間悪い人間の手によって離れ離れとなっていた。 長い月日の中二人は彷徨い歩き ついにあやかし達が営む商店街にて再会が叶い涙ながらに喜ぶ二人だったが そんな中、過去の恐ろしい体験による心の傷から寧々に対して 、寧々を生涯大切に愛し続けたい気持ちと寧々のすべてを欲するあまりいっその事喰らってしまいたいという欲 この相反する2つの感情に苦しむようになってしまう薙翔。 いずれ寧々を喰らってしまうのではないかと怯える薙翔にこの世界の最高位の神である竜神様は言う。 『陰の気が凝縮された黒曜石を体内へと埋め、自身の中にある欲を完全に抑えられるように訓練すればよい』と。 促されるまま体内へと黒曜石を埋めていく薙翔だったが日に日に身体の様子はおかしくなっていき…。 薙翔と寧々の命がけの戦いの物語が今幕を開けるー

【あらすじ動画あり / 室町和風歴史ファンタジー】『花鬼花伝~世阿弥、花の都で鬼退治!?~』

郁嵐(いくらん)
ファンタジー
お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓ https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI 【ストーリーあらすじ】 ■■室町、花の都で世阿弥が舞いで怪異を鎮める室町歴史和風ファンタジー■■ ■■ブロマンス風、男男女の三人コンビ■■ 室町時代、申楽――後の能楽――の役者の子として生まれた鬼夜叉(おにやしゃ)。 ある日、美しい鬼の少女との出会いをきっかけにして、 鬼夜叉は自分の舞いには荒ぶった魂を鎮める力があることを知る。 時は流れ、鬼夜叉たち一座は新熊野神社で申楽を演じる機会を得る。 一座とともに都に渡った鬼夜叉は、 そこで室町幕府三代将軍 足利義満(あしかが よしみつ)と出会う。 一座のため、申楽のため、義満についた怨霊を調査することになった鬼夜叉。 これは後に能楽の大成者と呼ばれた世阿弥と、彼の支援者である義満、 そして物語に書かれた美しい鬼「花鬼」たちの物語。 【その他、作品】 浅草を舞台にした和風歴史ファンタジー小説も書いていますので 興味がありましたらどうぞ~!(ブロマンス風、男男女の三人コンビ) ■あらすじ動画(1分) https://youtu.be/AE5HQr2mx94 ■あらすじ動画(3分) https://youtu.be/dJ6__uR1REU

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

戦国姫 (せんごくき)

メマリー
キャラ文芸
戦国最強の武将と謳われた上杉謙信は女の子だった⁈ 不思議な力をもって生まれた虎千代(のちの上杉謙信)は鬼の子として忌み嫌われて育った。 虎千代の師である天室光育の勧めにより、虎千代の中に巣食う悪鬼を払わんと妖刀「鬼斬り丸」の力を借りようする。 鬼斬り丸を手に入れるために困難な旅が始まる。 虎千代の旅のお供に選ばれたのが天才忍者と名高い加当段蔵だった。 旅を通して虎千代に魅かれていく段蔵。 天界を揺るがす戦話(いくさばなし)が今ここに降臨せしめん!!

処理中です...