かすみcassette【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
51 / 114
3 霞湖の異変

20

しおりを挟む

そう言葉をかけると、霞湖ちゃんは唇を引き結んでから、大声で泣き出した。

――これは胸を貸さないわけにはいかないだろう。

「泣いていいんだよ」

肩に手をやって、軽く引き寄せる。

俺の胸に頭を当てた霞湖ちゃんは、そのまま泣き続けた。

「おねーちゃん……?」

かじりかけのきゅうりを手にした李湖ちゃんがやってきたので、霞湖ちゃんの力が抜けるのに合わせて膝を折って、李湖ちゃんに向かって手招きした。

すると李湖ちゃんは、俺と霞湖ちゃんのとこまでやってきて、霞湖ちゃんにぎゅーっと抱き着いた。

つられてか、哀しい思いが李湖ちゃんも爆発したのか、二人して泣いている。

俺は二人の背中に軽く手を廻して、泣く場所であり続けた。


+++


「國陽? どした?」

泣きすぎて目を腫らした霞湖ちゃんと李湖ちゃんにハンカチを渡して、ちゃんと冷やすように、戸締りはしっかりするように言って、水束の家を出た。

帰宅してすぐ、國陽から着信があった。

『優大に何かあったと思って』

あー。そういやこいつ、この前もそんなこと言ってうちに来てたっけ。

勘がいいというか、優しいというか。

目の上のたんこぶみたいな存在なのに、どうしても憎めない奴だ。

「まー、最近色々あってな」

『大丈夫か? 仕事、休みにするか』

「お前何かっつーと俺を休ませたがるばあちゃんか。大丈夫だよ、どっちもうまくやる」

『……』

國陽、無言。圧をかけているわけではなくただ言葉を選んでいる時間なんだろうけど、こいつは見た目だけで圧がかかるんだよな。

冷蔵庫から取り出した作り置きのウーロン茶を飲む、さすがに喉がかわいた。

「お前はさ、嫁のだけ――」

『気が早い』

「いや、最後まで聞けよ」

『……なんだ』

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

青色の薔薇

キハ
青春
栄生は小学6年生。自分の将来の夢がない。 しかし、クラスメイトは夢がある。 将来の夢をテーマにした学園物語。 6年生の始業式から始まるので、小学生時代を思い出したい方にはオススメです。 恋愛や友情も入っています!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

謎ルールに立ち向かう中1

ぎらす屋ぎらす
青春
小さな頃から「しあわせってなんだろう」と考えながら生きてきた主人公・石原規広(通称 ノリ)。 2018年4月、地元の中学校に入学した彼は、 学校という特殊な社会で繰り広げられる様々な「不条理」や「生き辛さ」を目の当たりにする。 この世界に屈してしまうのか、それとも負けずに自分の幸せを追求するのか。 入学と同時にノリの戦いの火蓋が切って落とされた。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...