上 下
268 / 327
6 残滓

side黎10

しおりを挟む

「兄貴っ? だから俺はそういうのは――」

「架。黙っていなさい」

誠さんに制されて、架は立ち上がりかけていたのを退いた。

今度は美愛さんが腰を浮かせた。

「レイ……桜城の名を、マコとおそろいのものを捨ててしまうの?」

美愛さんは、正式に誠さんの妻ではない。

桜城内部では長男の母で当主妻として認められているけど、対外的にはその位置は弥生さんのものだ。

『桜城美愛』という名も、戸籍上は名乗れない。

まだ、『ミーア・ウォルフシュタイン』が、美愛さんの正式な名前だ。

美愛さんは誠さんのことを、愛称で『マコ』と呼んでいる。

その呼び方を聞いてドキッとした。

今の今まで失念していたけど、真紅と同じだった。

真紅……。

俺には、その子だけ。

「……恋い得る(こいうる)人がいます。その子の傍にいてやりたいんです」

自分と真紅は、多分出逢ってはいけない者同士だったのかもしれない。

でも出逢ってしまったし、触れてしまった。

逢いたいと、思ってしまった。

今は、逢いに行きたい。

「そのために桜城であることは邪魔である、と?」

「……はい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きになった子は陰陽師になった。-さくらの血契2-【完】

桜月真澄
ファンタジー
『好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー』の続編です。 +++ 始祖の転生として覚醒した真紅(まこ)。 「うまく言えないんだけど、私の中に、私の知らない記憶がたくさんあるの。私が経験したことではない、でも、知っている記憶」 鬼人として、吸血鬼としての力を失った黎(れい)。 「おはようございます、紅緒様。すみません。どうしても真紅に逢わないと落ち着かないもので」 桜城家の跡取りとなった架(かける)。 「……もしかして、兄貴が言った『総(すべ)て』って、俺のことも入ってたの?」 突然の告白を受けた海雨(みう)。 「だって黎さんよりあたしのが真紅と長いもんねーっ」 小路が正統後継者である黒藤(くろと)。 「大したもんだ。真紅のメンタルの強さ。俺だったらとうに折れてんだろうなー」 御門が当主の白桜(はくおう)。 「転生の記憶が甦ってなお、正気でいる、か。……過去には耐えられなかった者がいるのか?」 妹とともに暮らすことになった紅亜(くれあ)。 「黎くん……真紅ちゃんの彼氏にそう呼ばれるのはなんかこそばゆいのだけど……」 十六年の眠りから目覚めた紅緒(くれお)。 「姉様~! 今日はこの簪(かんざし)にしましょう! 秋のお色で姉様の雅さが際立ちます――今日も来たのね! 桜城黎!」 後日談であり、続き続ける物語。 2022.6.4~6.18 Sakuragi Presents

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

旅行先で目を覚ましたら村上義清になっていた私。そんな私を支えることになったのがアンチ代表の真田幸隆だった。

俣彦
ファンタジー
目が覚めたら村上義清になっていた私(架空の人物です)。アンチ代表の真田幸隆を相棒に武田信玄と上杉謙信に囲まれた信濃北部で生き残りを図る物語。(小説家になろうに重複投稿しています。)

【完結】今宵、愛を飲み干すまで

夏目みよ
BL
西外れにあるウェルズ高等学園という寮制の夜間学校に通うリック。 その昔、この国では人ならざる者が住んでいたらしく、人間ではない子どもたちが夜間学校に通っていたそうだ。でもそれはあくまで昔の話。リック自身、吸血鬼や悪魔、魔法使いを見たことがない。 そんな折、リックの寮部屋に時期外れの編入生がやってくるという。 そいつは青い瞳に艷やかな濃紺の髪、透き通るような肌を持つ男で、リックから見てもゾッとするほどに美しかった。しかし、性格は最悪でリックとは馬が合わない。 とある日、リックは相性最悪な編入生のレイから、部屋を一時的に貸して欲しいとお願いされる。その間、絶対に部屋へは入るなと言われるリックだったが、その約束を破り、部屋に入ってしまって―― 「馬鹿な奴だ。部屋には入るなと言っただろう?」 吸血鬼✕人間???の人外BLです。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

僕と天使の終幕のはじまり、はじまり

緋島礼桜
ファンタジー
灰の町『ドガルタ』で細々とパン屋を営む青年エスタ。そんな彼はある日、親友のルイスと8年ぶりの再会を果たす……しかし、これにより彼の運命の歯車は大きく廻り始めることとなる―――三人称、回想、手記、報告書。様々な視点で巡る物語。その最後に待つのは一体何か…。 他、カクヨム、小説家になろうでも投稿していきます。

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

処理中です...