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5 あの日、あの神殿で
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しおりを挟む瘴気に取り込まれて穢(けが)れを負った人間を、神格が花嫁にするなどあり得ない。
巫女は、自分の隣に膝をつくサクヤの口元を見た。
「サクヤ様……お声が……」
サクヤは声が出なかったはずだ。
巫女もその声を聞いたことは一度もない。だが、さきほど大声で呼ばれた。
自分の喉に手を当てたサクヤは、哀しそうに眉尻を下げた。
「サクヤ様……あなたは……」
「私は、月天宮(げってんぐう)の斎宮(さいぐう)となるべく育てられました」
「げってんぐう……? それって……」
「月の宮は存在します。そこで私は、姫巫女と呼ばれていました」
月天宮。姫巫女。巫女は、驚きで目を大きく開いた。
「サクヤ様は……月の宮のお方……」
「ええ……」
この国の人間ではなかったのか。
ならば今、巫女が願いをかけるのはサクヤしかいない。
ただひとり、巫女を助けてくれた人。
「サクヤ様……いえ、月天宮の姫巫女様。どうか私に、時間をくださいませんか……?」
「時間、ですか?」
サクヤが巫女の額に手を添える。すると巫女は、少し苦しいのが和らいだ気がした。
ほうと息を吐きながら言葉を続ける。
「この身では、榊様の前に姿を見せることも出来ません……。この瘴気を浄化して、今一度、逢いに行きたいのです……」
瘴気にむしばまれている己の身体。
サクヤが助けてくれなかったら、生きることも死ぬこともなく、巫女は瘴気の闇をただよっていただろう。
「……わかりました。瘴気(これ)が存在してしまった原因は私にもあります。巫女殿の願いを叶えましょう。ですが……浄化に、幾年(いくとせ)の月日がかかるかわかりません。目覚められたときに、榊殿がいないことも……」
サクヤは言いにくそうだったが、巫女はそれを否定する。
「いいえ。必ずいてくださいます。だって、約束したんです、二人で」
二人だけの約束。あと少しで、叶えられるところまで来ていた。だが、もう無理だ。自分では叶えられない。だから次に託すのだ。
サクヤは顎を引いた。
「……わかりました。榊殿には、お伝えしますか? それと、巫女殿の龍神殿は……」
「どちらにも伏せなければならないこと、でありましょう? この瘴気は、龍神様も、榊様も管轄外のはずです。関われるのは、ツカサ様くらいのものかと……」
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