55 / 83
3 美也と奏
13
しおりを挟む「……はい」
美也は神妙な顔でうなずく。
「それはつまり、榊の巫女となるということ。榊――地上の龍神の最高神からの言葉を、地上に伝える役割を持つ者じゃ。美也が否(いな)やを唱えれば、美也が巫女となることはないが……どうじゃ?」
「……」
(どう、と言われても……)
結婚を本人の意思に関係なく周りが決めてしまうことがあるとは知っているが、いざ自分がその立場になるとどうしていいかわからない、というのが素直な感想だ。
年齢的な問題や、今現在重要な受験を控えていることも理由になるかもしれないが、どうしていいかわからない以前に、どう捉えればいいのかわからないのかもしれない。
美也はこくりと唾を飲み込んだ。
「……すみません、よく……わからない、です……」
美也の視線が、下を向く。
その腕に抱きしめられた奏は、まるで寝ているように静かに胸を上下させながら目を閉じている。
女性は、ふむ、とうなずいた。
「まあ、それはそうじゃろうな。わたくしも神隠しなどするつもりはないよ。榊の唐変木にはほとほと呆れるが、時代というものはあろう。あの頃のように美也をはじめから姫巫女と出来ればよかったが、榊ですら生まれてから気づいたもの。……あのとき助けられず、すまなかった」
そう言って、女性は美也の頬を撫でた。
「……あのとき?」
それは、両親が亡くなったときのことだろうか。
美也がつぶやいたとき、パンっと何かが割れるような音が響いた。高い音だった。
「え、なに?」
あまりの大きさに、美也は右耳を手でふさいだ。
「うん? 榊、なんじゃ今の音は」
女性が榊を見ると、榊は渋い顔をする。
「……その話はお前に課された制約だったんだ。俺から発することはできなかった」
制約、とまた美也のわからない話になった。
しかしきょとんとしているのは女性も一緒だった。
「ん? ……ああ、そういうことか……。すまない、美也……」
「え……なんで私が謝られるんですか?」
美也が疑問符を浮かべると、榊は真剣な顔で話し出した。
「美也。月御門のとき、俺はお前に隠し事はない、そう言ったな?」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
最強退鬼師の寵愛花嫁
桜月真澄
恋愛
花園琴理
Hanazono Kotori
宮旭日心護
Miyaasahi Shingo
花園愛理
Hanazono Airi
クマ
Kuma
2024.2.14~
Sakuragi Masumi
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
失恋少女と狐の見廻り
紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。
人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。
一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか?
不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
俺の天使は盲目でひきこもり
ことりとりとん
恋愛
あらすじ
いきなり婚約破棄された俺に、代わりに与えられた婚約者は盲目の少女。
人形のような彼女に、普通の楽しみを知ってほしいな。
男主人公と、盲目の女の子のふわっとした恋愛小説です。ただひたすらあまーい雰囲気が続きます。婚約破棄スタートですが、ざまぁはたぶんありません。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
小説家になろうからの転載です。
全62話、完結まで投稿済で、序盤以外は1日1話ずつ公開していきます。
よろしくお願いします!
異世界ライフの楽しみ方
呑兵衛和尚
ファンタジー
それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。
ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。
俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。
ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。
しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!
神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。
ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。
『オンラインゲームのアバターに変化する能力』
『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』
アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。
ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。
終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。
それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。
「神様、【魂の修練】って一体何?」
そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。
しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。
おいおい、これからどうなるんだ俺達。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる