48 / 83
3 美也と奏
6
しおりを挟む土曜日の帰り、少しだが榊は説明をしてくれた。
その中に龍神の禁忌があった。
人間を殺してしまった龍神は神位をはく奪され神格くずれとなり、よくないものに染まっていくのだそうだ。
それは悪霊や怨霊と似た存在らしい。
美也は口元に力を入れて背筋を正した。
「それは出来ません。今現在人に譲れるあの方への用事はありませんし、あの方にはあの方の事情があります。おいそれと居場所を教えることも出来ません」
美也がはっきりとした口調で言うと、奏は刹那の間を置いてカッと顔を赤くさせた。
「なに生意気なこと言ってんの!? あんたそんなこと言える立場だって思ってんの!? うちは身寄りナシのあんたを引き取ってあげたんだよ? 感謝されこそすれ、反抗なんて選択肢あんたにはないんだよ!」
真正面からなじる言葉を、でも事実もぶつけられて、美也は奥歯を噛んだ。
確かにそうだ。
両親を亡くした美也はおじ以外に頼れるところがなかった。
美也というイレギュラーに、愛村家にはお金も時間もかけさせてしまっただろう。
おじやおばも、美也を施設に預ける選択もあったはずだ。
だが、こうして家に住まわせてくれた。
家事は全部押し付けられて、行動範囲も限定された生活だったが、美也がお金に困って犯罪に走るようなことはなかった。
美也は、腰から上体を折って頭を下げた。
「引き取ってくださったこと、育ててくださったことには感謝しています。ご迷惑やお手間をおかけしたと感じています。この御恩は必ずお返し致します」
「そうよね? うちで引き取ってなかったら、あんたどうなってたかわかんないもんね」
「――ですが、あの方はそこに関係ありません。あの方は私の所有物ではないので、私の勝手でお話し出来ることもありません。どうかご承知おきください」
言い終わってから、美也は顔をあげた。
歯ぎしりでもしそうな奏と目が合って、美也の心臓は恐怖に震えた。
(でも――決めたんだ)
強くなると。
「……私にご不満があるのは承知しております。すぐにでも出て行けというのなら、そう致します。今まで、お世話になりまし――」
「あんたみたいな無料の家政婦、逃がすわけないじゃない! そうよ? あたしたちはあんたを助けてあげたの。一生かけて返してくれてもいいわよね?」
(無料の家政婦……すごいワードだな……)
そしてやはり、奏の美也への認識はそういったものだったか。
美也は奏に向かって、にこりと笑った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
妖狐乙嫁譚
サモト
恋愛
意地悪な義母によって、評判の悪い妖狐に嫁がされた十和。
しかし相手は噂ほど悪い相手でもなく優しい。
十和は夫を好きになるが、夫は十和に興味がなく……?
”形だけの夫婦”から幸せになっていく少女と妖狐のお話。
異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~
結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は
気が付くと真っ白い空間にいた
自称神という男性によると
部下によるミスが原因だった
元の世界に戻れないので
異世界に行って生きる事を決めました!
異世界に行って、自由気ままに、生きていきます
~☆~☆~☆~☆~☆
誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります!
また、感想を頂けると大喜びします
気が向いたら書き込んでやって下さい
~☆~☆~☆~☆~☆
カクヨム・小説家になろうでも公開しています
もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~>
もし、よろしければ読んであげて下さい
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
花姫だという私は青龍様と結婚します
綾月百花
恋愛
あらすじ
突然うちの子ではないと言われた唯(16歳)は見知らぬ男に御嵩神社の青龍神社に連れて行かれて生き神様の青龍様のお妃候補になったと言われる。突然、自分が花姫様だと言われても理解できない。連れて行かれたお屋敷には年上の花姫もいて、みな青龍様のお妃になることに必死だ。最初の禊ぎで川に流され、初めて神の存在に気付いた。神に離しかけられ、唯は青龍様に会いたくなる。せつなくて、頑張る唯を応援してください。途中残酷シーンも含まれますので苦手な方は読み飛ばしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる