上 下
4 / 83
1 龍神様と水鏡

しおりを挟む

三年生になってから一度行われた三者面談にはおばが来たが、「美也に無理はさせたくないから、レベルの合ったところを」と、優しいような、裏を返せば頑張る必要もないと言われたようなことを言った。

愛村の家から通える公立でバイトが許されているのは、美也がもっと頑張らないと入れないレベルのところしかない。

美也は頑張りたいのに、環境が許してくれない。

今年二十歳になる従姉の奏は私立の大学に通っているが、大して勉強もせずに遊びまわっているように見える。

そんな学生にはなりたくない美也だ。

そもそも、大学には行かずに働きに出る方が、美也にとっては現実的でもある。

淹れたコーヒーを持って、奏の部屋のドアをノックする。

「奏さん、コーヒー持ってきました」

そう声をかけると、

「うん」

という返事が。

「入っていいよ」くらいないのかと、このままドアにコーヒーぶっかけてやろうかと本気思いながら、どっちに転んでも大丈夫なように覚悟決めてドアを開けた。

奏から部屋に入るよう促しの言葉があってもなくても、その時の気分で怒られる結果はある。

選択肢は、部屋に入る、または、ドアの前に置いておく。

彼氏や友達とオンライン通信中だったら、勝手に入ったら怒られる。

スマホをいじっているだけだったら、ドアの前に置いたら怒られる。

察しろ、ということらしい。いや無理難題ふざけんな。

「失礼します」

まるで職員室にでも入るときのように言った。

中にいた奏は、テーブルとセットのデザインの椅子に膝を抱えるように座って、スマホをいじっていた。

悟られないようにほっと息をつく美也。

「どうぞ」

その言葉は奏に無視される。

そのまま音を立てないように、美也は奏の部屋を出た。

これで今日の雑用扱いは終わりだろう。

ちょっとだけ榊に連絡して、さっきのことを謝って、あとは勉強にあてよう。

おばがいくら美也の進路を決めようとしてきても、美也には美也の考えがある。

そして、それを曲げたくないという意思もある。

この気持ちの強さは、榊がずっとそばにいてくれたおかげだと思っている。

部屋に戻って、榊に連絡しようと鏡を取り出したところで、またいきなりドアが開いた。

てっきりもう呼ばれないと思っていたから、足音にも気を配っていなかった。

「ちょっと、ミルク入ってないじゃない。誰がブラック持って来いって言った」

「え……と……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強退鬼師の寵愛花嫁

桜月真澄
恋愛
花園琴理 Hanazono Kotori 宮旭日心護 Miyaasahi Shingo 花園愛理 Hanazono Airi クマ Kuma 2024.2.14~ Sakuragi Masumi

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

チート狩り

京谷 榊
ファンタジー
 世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。  それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...