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3 誘惑
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しおりを挟む「ひとつにつきひとつ質問に答えるなら、いいですよ」
「いいぜー。こちとら暇と減った腹を持て余してっからな」
横に寝そべるような恰好で空中に浮遊するクマ。
琴理は机に足を向けた。
琴理も甘いものは好きだ。勉強の休憩に摂ることもある。今も、小さな箱のチョコがあった。
(チョコじゃないといけないのでしょうか……まあ、ほかのものを与えて、別の味に執着されても面倒だからやめておきましょう)
一瞬、クッキーとかでもいいのでは? と思ったが、即座に自分の思考を切り捨てた。
これ以上自分の手で面倒ごとを増やしてどうする。
琴理は椅子に腰かけて、クマの方を向いた。
「どうぞ。一粒につき、解答はひとつです」
「さっさと寄越せ」
「ではまず――どうしてわたしが呼びかけると出てくるのですか?」
「あ? 意味わかんねえ質問だな?」
「簡単です。わたしが呼んだら出てくる、という『契約』は結んだ覚えがありません。それでもわたしがクマに呼びかけると必ず出てくる。何故ですか?」
「気分」
「………」
一蹴だった。
「ほら、答えてやったんだからそいつを寄越せ」
「………」
(くっ……! 悔しい、ですが……チョコと交換すると言ったのはわたしです……)
「……一粒ですよ」
「んじゃ、さっさと次の質問出せ」
クマは羽をひょいっと動かすと、触れていないのにチョコが空中浮遊して、小鳥姿のクマの口へ飛び込んだ。
「あ、もう質問はないです」
「あ? んでだよ。訊きたいことあるから持ちかけて来たんじゃねーの?」
「さっきのことを訊きたかっただけなんで、終わりです」
そう言って、琴理はチョコを箱に仕舞う。
それは、クマから収穫のある返事がなかったことへの意趣返しではなく、最初からそのつもりで話しかけただけだったからだ。
「ちぇー。せっかく食えると思ったのによー」
クマが、また横八の字浮遊を始めた。
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