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52.王の恋人
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「突然マハスティ様が私の所まで来て、突然ご自分で杯を傾けたのです」
「言いがかりを付けないで!そんなことしてませんわ」
マハスティがファルリンの言葉を否定すると取り巻き達も口々に言いがかりだとファルリンを責め立てる。取り巻き達が壁となり二人のやりとりが見えなかった貴族の野次馬達は、マハスティの言い分を信じてファルリンの見苦しい言い訳に眉根を潜めている。
「私がお酒をかけた証拠などありません」
「被害者である私が言っていますのよ……陛下、この強情女をどうにかしてくださいませ」
マハスティは、ジャハーンダールに訴えた。自分がか弱く強情なファルリンに言い負かされていると同情を誘うように、涙目でジャハーンダールを見上げた。
ジャハーンダールは、ほろりと大粒の涙をこぼしたマハスティをじっと見下ろしている。マハスティはジャハーンダールは自分の事を好きで見つめている、と確信を深めた頃ジャハーンダールはマハスティを突き放して、呆れて言った。
「茶番は止めにしろ、マハスティ」
「茶番なんかではありませんわっ」
ジャハーンダールは、マハスティから離れた。
「ファルリン、マハスティが自分で杯を傾けた証拠を教えてくれ」
ファルリンは、ジャハーンダールに頷いて見せた。
「私は、右利きです。杯を持つときも右手で持っています。マハスティ様も右利きですよね?」
「その通りよ。それが何だって言うの?」
「私がマハスティ様に酒をかけたのであれば、こういう体制になりますのでマハスティ様の左側にかかるはずです」
ファルリンは、何も持っていない右手で杯を傾ける動作をする。マハスティとは向かい合っているので、マハスティの左胸あたりに酒が掛かる動作だ。
「しかし、マハスティ様は右胸当たりから掛かっています。そういう風に私が杯を傾けて酒をかけるにはだいぶ近づかないと難しいでしょう」
「何を言っているの!私が自ら掛けたようにみせかけるようにしたんじゃないの」
ファルリンはため息をついた。
「マハスティ様の服の袖に、右胸に染みているお酒と同じものがついています。自分で右胸に掛けるときにうまくやらなかったからですよ」
マハスティは、慌てて自分の右袖を確認する。どこにもシミが付いていないことを確認して、マハスティは安堵した。
「どこにもついていないじゃない。この嘘つき女」
マハスティは重大なミスを犯した。これでは自分でお酒を被りましたと言っているようなものだ。ファルリンの誘導尋問に引っかかったのだ。
「本当に私にお酒を掛けられたのなら、確認はしないはずですよ。自白したも同然です」
ファルリンが指摘をすると、マハスティはしまったという表情をして顔色を青くした。
怒りにまかせてマハスティがファルリンを罵ろうとしたとき、ジャハーンダールがファルリンの右手をとって右手の甲に唇を押し当てた。
会場中から黄色い悲鳴とどよめきが上がる。
「さすが、私の恋人だ」
ファルリンは、恥ずかしそうに頬を染めたがそれでも誇り高くジャハーンダールを見上げた。ファルリンの所作は、近衛騎士になって訓練を受けたこともあり洗練した動作になっていて、二人は一枚の絵画のように美しかった。
目の前で事実を突きつけられ、マハスティは言葉にならないうめき声を上げている。
「ちょうど良い、皆に報告しよう」
ジャハーンダールはファルリンと手を繋ぎなおし指を絡め合う。彼女を引き寄せて肩を抱いた。
「正妃候補の近衛騎士のファルリンだ。俺の恋人だ。手を出したらどうなるか……わかっているな?」
「言いがかりを付けないで!そんなことしてませんわ」
マハスティがファルリンの言葉を否定すると取り巻き達も口々に言いがかりだとファルリンを責め立てる。取り巻き達が壁となり二人のやりとりが見えなかった貴族の野次馬達は、マハスティの言い分を信じてファルリンの見苦しい言い訳に眉根を潜めている。
「私がお酒をかけた証拠などありません」
「被害者である私が言っていますのよ……陛下、この強情女をどうにかしてくださいませ」
マハスティは、ジャハーンダールに訴えた。自分がか弱く強情なファルリンに言い負かされていると同情を誘うように、涙目でジャハーンダールを見上げた。
ジャハーンダールは、ほろりと大粒の涙をこぼしたマハスティをじっと見下ろしている。マハスティはジャハーンダールは自分の事を好きで見つめている、と確信を深めた頃ジャハーンダールはマハスティを突き放して、呆れて言った。
「茶番は止めにしろ、マハスティ」
「茶番なんかではありませんわっ」
ジャハーンダールは、マハスティから離れた。
「ファルリン、マハスティが自分で杯を傾けた証拠を教えてくれ」
ファルリンは、ジャハーンダールに頷いて見せた。
「私は、右利きです。杯を持つときも右手で持っています。マハスティ様も右利きですよね?」
「その通りよ。それが何だって言うの?」
「私がマハスティ様に酒をかけたのであれば、こういう体制になりますのでマハスティ様の左側にかかるはずです」
ファルリンは、何も持っていない右手で杯を傾ける動作をする。マハスティとは向かい合っているので、マハスティの左胸あたりに酒が掛かる動作だ。
「しかし、マハスティ様は右胸当たりから掛かっています。そういう風に私が杯を傾けて酒をかけるにはだいぶ近づかないと難しいでしょう」
「何を言っているの!私が自ら掛けたようにみせかけるようにしたんじゃないの」
ファルリンはため息をついた。
「マハスティ様の服の袖に、右胸に染みているお酒と同じものがついています。自分で右胸に掛けるときにうまくやらなかったからですよ」
マハスティは、慌てて自分の右袖を確認する。どこにもシミが付いていないことを確認して、マハスティは安堵した。
「どこにもついていないじゃない。この嘘つき女」
マハスティは重大なミスを犯した。これでは自分でお酒を被りましたと言っているようなものだ。ファルリンの誘導尋問に引っかかったのだ。
「本当に私にお酒を掛けられたのなら、確認はしないはずですよ。自白したも同然です」
ファルリンが指摘をすると、マハスティはしまったという表情をして顔色を青くした。
怒りにまかせてマハスティがファルリンを罵ろうとしたとき、ジャハーンダールがファルリンの右手をとって右手の甲に唇を押し当てた。
会場中から黄色い悲鳴とどよめきが上がる。
「さすが、私の恋人だ」
ファルリンは、恥ずかしそうに頬を染めたがそれでも誇り高くジャハーンダールを見上げた。ファルリンの所作は、近衛騎士になって訓練を受けたこともあり洗練した動作になっていて、二人は一枚の絵画のように美しかった。
目の前で事実を突きつけられ、マハスティは言葉にならないうめき声を上げている。
「ちょうど良い、皆に報告しよう」
ジャハーンダールはファルリンと手を繋ぎなおし指を絡め合う。彼女を引き寄せて肩を抱いた。
「正妃候補の近衛騎士のファルリンだ。俺の恋人だ。手を出したらどうなるか……わかっているな?」
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