上 下
44 / 54

44.2人の仲

しおりを挟む
 ファルリンは、ジャハーンダールのいつもと違う様子に戸惑った。
 彼は自分を王の妃マレカ・マリカの持ち主だから目をかけていたのでは無かったか。ジャハーンダールの瞳が少しだけ潤んでいた。

「ファルリン、俺はヘダーヤトを王の魔術師マレカ・アッラーフだから近臣に引き立てたわけじゃ無い。カタユーンを神官長にしたのは地方の神殿で改革をし民からの信頼を回復し、成功していたからだ。神聖魔法に優れただけの神官なら他にも居る……そういうことだ」

「陛下は、王の痣マレカ・シアールのあるなしに関わらずその職制に最も適した人を配置しているということでしょうか」

 お互いの息がかかりそうなほど顔が近づいた状態でファルリンは回答した。

「だから、わかるな?」

 ファルリンは回答につまった。つまり、きっかけは王の痣マレカ・シアールかもしれないが、ジャハーンダールは王の痣マレカ・シアールがあったからファルリンと行動を共にしたわけではないと言いたいのだ。

(自惚れていいのだろうか……?)

 ファルリンは困ったようにジャハーンダールを見返した。相変わらずジャハーンダールはファルリンの頬に手を添えている。

(この人に、信頼をしてもらっている。王の痣マレカ・シアール関係なしに見てくれているの?)

「はい。貴方を信じます。ジャハーンダール……様」

 ファルリンは力強く返事をしながらも、語尾はだんだんと小さな声になって消えていった。ジャハーンダールはファルリンが自分の名前を呼んだことが、彼女なりの答えだとわかったので、無邪気に笑った。
 ファルリンは今まで見たことの無いジャハーンダールの少年のような笑顔に見とれる。

「祝勝会、楽しみにしている」

 ジャハーンダールはファルリンの頬から手を離すときに二、三回ファルリンの頬をむにむにと揉んでから手を離した。ファルリンの頬は触り心地の良いぷにぷにした感触だった。





「それで、何もせずに帰ってきた……と?」

 ジャハーンダールの執務室にヘダーヤトとカタユーンが居た。二人とも再建される神殿の進捗報告にやってきたのだ。
 部屋の中心にある大きな絨毯の上に円陣になって座っている。絨毯は最高級製で毛足が長くふわふわした肌触りでそのまま座るのに問題ないが、さらに上等なクッションも備え付けられている。

 ファルリンのお見舞いに行ってきたばかりというジャハーンダールに彼女の様子を聞いたところだった。まるでのろけか、というような話をジャハーンダールから聞かされた二人だったが、肝心の盛り上がりに欠けた。

「何もとは何だ。ファルリンはけが人だぞ」

「そこは、それ。良い雰囲気だったんだろうに」

「良い雰囲気か……?」

 ジャハーンダールは首をかしげる。最近、ようやく自分を見ても泣きそうな顔をしなくなったファルリンと恋愛方面で良い雰囲気だとはとても思えなかった。あれで手を出したら、今度こそ口も聞いてくれないどころか姿すら見せてくれなくなりそうだ。

「良い雰囲気かはともかく、きっちりはっきり態度を示してください。だいぶ王宮内で噂になっていますよ」

 カタユーンが下世話にからかおうとするヘダーヤトの頭を軽く叩いた。ファルリンがジャハーンダールの私室に連れ込まれたのは、王宮の使用人達の大勢が目撃している。人の口に戸は建てられず、噂はたちまち広がった。
 ファルリンが手柄を立てたおかげで、宮廷内ではジャハーンダールとファルリンの仲は好意的な者もでてきた。しかし、ジャハーンダールは幼馴染みであるマハスティと親しい仲であるという噂が流れていたので、略奪した女として印象の悪い噂も流れていた。

(陛下が一言、ファルリンを妃に迎えるとおっしゃればいいのに)

 カタユーンは、ジャハーンダールの煮え切らない態度が気に入らない。国王として忙しいジャハーンダールが寸暇を惜しんで会いに行っている相手は、ファルリンしかいない。
 幼馴染みのマハスティには礼儀程度にしか相手にしていない。

「女性不信気味だったジャハーンダールが、ちゃんと女性を好きになれたみたいで良かったよ」

 ヘダーヤトは、幼い頃から容姿端麗だったジャハーンダールが宮廷の年上の女性達から目を付けられ、大変な目に遭ってきたことを知っている。しかも初恋相手は可愛い美少年(自分)だったのだから。

 ジャハーンダールは、ヘダーヤトの言葉を聞いて固まっていた。

(俺……ファルリンの事……好きなのか?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
 曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話

なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。 結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。  ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。 「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」 その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ! それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。 「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」 十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか? ◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。 ◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。 夫のえっちな命令に従順になってしまう。 金髪青眼(隠れ爆乳) ◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。 黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ) ※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います! ※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。 ムーンライトノベルズからの転載になります アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗

姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬
恋愛
とある乙女ゲーム世界に転生したと気付いた私。 しかしそれに気付いたのは……姫様(最推し)がバッドエンドを迎える直前!? 大好きなヒロインを幸せにするために、恋愛フラグを全力で回避します! ヒロインか、私。どちらかしか幸せになれない理不尽なゲーム世界で紡がれる、乙女ゲーム転生系ラブファンタジーです。 『小説家になろう』でも投稿してます。

短編まとめ

あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。 基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。

髪色が理由で捨てられたのでのんびり山奥暮らしをしていたのに

mio
ファンタジー
髪色の濃さ=能力の高さだと言われている中、薄い青色の髪が原因で親に捨てられたミルフェ。 手を差し伸べてくれた人に助けられて何とか生活を整え、家族のような大切な仲間と共に穏やかな山奥暮らしをしていたのに……。 ある一方が街にもたらされたとき、平穏な暮らしは崩れ去ってしまった。 *** Webコンテンツ大賞に応募しています お気に入り登録や感想等で応援してもらえるととても嬉しいです! 他サイトでも投稿しています

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...