上 下
40 / 54

40.王の妃の力

しおりを挟む
 地面に転がりうめき声を上げたファルリンの留めをさそうとアパオシャが、何も無いところから曲刀を作り出す。右手でそれを握り、振り下す。ファルリンの腹に触れる寸前に、曲刀が砕けて粉となって散った。

「私の金星の種アルゾフラ・ビゼルに何をしようとしているの?」

 空中で仁王立ちしている女神アナーヒターが、ファルリンの危機を救ったようだ。

「待っていたぞアナーヒター!」

 アパオシャがファルリンのことなど忘れたかのように向きを変え、空中に飛び上がる。アナーヒターに斬りかかろうとする寸前で、アナーヒターが指を鳴らす。 晴れているというのに、天から雷が落ちアパオシャに命中する。苦悶の声をあげながらアパオシャが、地面に落ちた。

「私が今まで何もしていないとでも思ったの?」

 アナーヒターは、得意げに地面に這いつくばるアパオシャを見下ろす。

「貴方の神力を半分ほど封印したわ。以前にも同じような手を使った気がするんだけど。また引っかかってくれるとは思わなかったわ」

 アナーヒターは神話時代にアパオシャと戦ったときに、力を封印する仕掛けを施した場所に呼び出し、アパオシャの力を削いだのだ。
 後宮に居る間、アナーヒターは神官達の参拝を受けながら、天のお告げと称して神官達に魔法陣を書かせていたのだ。

「ほほぅ、ということは女神アナーヒターにおかれては、アパオシャがこの王宮に攻めてくると分かっていた訳か」

 今までの神々の会話を聞いて、ジャハーンダールは苛立ちの声を上げた。

「万が一の可能性よ。今回は当たって良かったわね」

 そういう問題では無い、とジャハーンダールは苦味潰した様な表情をしている。
 アナーヒターは、先ほどまでの余裕ぶった態度から急に首元を抑えて、苦しそうにしながら地面に降り立つ。

「貴方、どれだけ力をため込んでいたのよ」

 アナーヒターはなんとか、アパオシャの力を抑えてはいるが先ほどのようにアパオシャに攻撃できるほどではなさそうだ。

「私が戦えます」

 ファルリンは、立ち上がって曲刀を構えた。砂にまみれボロボロの様子だが、瞳は煌めいていた。ファルリンはアパオシャに斬りかかる。先ほどまでのアパオシャだと、空中に逃げたりしていたが、今はそんな力は残っていないのか、普通の人間の様に避けている。
しかし、それでもアパオシャは防戦一方でファルリンの攻撃にあわせて、ヘダーヤトが魔法で攻撃を仕掛ける。
 先ほどのまったく刃が立たない状態と違い、確実にアパオシャにダメージを与えられている。
 このままうまくいけば、アパオシャを退治できるかもしれないと望みが見えてくる。

 アパオシャも最後の悪あがきなのか、叫び声を上げて頭を振った。多少、力の封印が弱まったのかヘダーヤトとファルリンは、押し返されて後ろに飛びのく。

「まずは、ティシュトリアからだ……!」

 アパオシャは、標的をジャハーンダールに変えた。アパオシャが何かを呟いて指先をジャハーンダールに向けるた。アパオシャの指先から、光の弾が飛び出し流星のように一直線に飛びジャハーンダールの胸を射貫いた。

「ジャハーンダール!」

 抱きついていたマハスティが悲鳴を上げる。否、射貫かれたのはジャハーンダールではない。地面に血が流れてはいるが、ジャハーンダールの血ではない。

「ご無事ですか、陛下」

 口から血を吐きながら、人の心配をしているのはファルリンであった。ファルリンの近衛騎士団の服は赤く染まり酷い出血であった。腹部を貫かれているようだ。

「……ファルリン」

 ジャハーンダールは目の前の事が信じられずに、かすれた声で身を挺して助けてくれた少女の名前を呼んだ。

「よかった……陛下に」

 ファルリンは、血だらけの指先をジャハーンダールの頬にあて、自分の血で模様を描いた。それは王の妃マレカ・マリカの印だ。王の妃マレカ・マリカは痣を描かれた者に守護の力を与えることができる。命がけの王の痣マレカ・シアールの力なので、切り札として使うことが多い。

「守護を!……お幸せに」

 ファルリンの言葉に合わせて、ジャハーンダールの頬に描かれた王の妃マレカ・マリカの痣が光る。ファルリンはその光を見て安心したのか、ジャハーンダールの腕をすり抜け、目を瞑りゆっくりと地面に倒れていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

大好きな騎士団長様が見ているのは、婚約者の私ではなく姉のようです。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
18歳の誕生日を迎える数日前に、嫁いでいた異母姉妹の姉クラリッサが自国に出戻った。それを出迎えるのは、オレーリアの婚約者である騎士団長のアシュトンだった。その姿を目撃してしまい、王城に自分の居場所がないと再確認する。  魔法塔に認められた魔法使いのオレーリアは末姫として常に悪役のレッテルを貼られてした。魔法術式による功績を重ねても、全ては自分の手柄にしたと言われ誰も守ってくれなかった。  つねに姉クラリッサに意地悪をするように王妃と宰相に仕組まれ、婚約者の心離れを再確認して国を出る覚悟を決めて、婚約者のアシュトンに別れを告げようとするが──? ※R15は保険です。 ※騎士団長ヒーロー企画に参加しています。

処理中です...