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40.王の妃の力

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 地面に転がりうめき声を上げたファルリンの留めをさそうとアパオシャが、何も無いところから曲刀を作り出す。右手でそれを握り、振り下す。ファルリンの腹に触れる寸前に、曲刀が砕けて粉となって散った。

「私の金星の種アルゾフラ・ビゼルに何をしようとしているの?」

 空中で仁王立ちしている女神アナーヒターが、ファルリンの危機を救ったようだ。

「待っていたぞアナーヒター!」

 アパオシャがファルリンのことなど忘れたかのように向きを変え、空中に飛び上がる。アナーヒターに斬りかかろうとする寸前で、アナーヒターが指を鳴らす。 晴れているというのに、天から雷が落ちアパオシャに命中する。苦悶の声をあげながらアパオシャが、地面に落ちた。

「私が今まで何もしていないとでも思ったの?」

 アナーヒターは、得意げに地面に這いつくばるアパオシャを見下ろす。

「貴方の神力を半分ほど封印したわ。以前にも同じような手を使った気がするんだけど。また引っかかってくれるとは思わなかったわ」

 アナーヒターは神話時代にアパオシャと戦ったときに、力を封印する仕掛けを施した場所に呼び出し、アパオシャの力を削いだのだ。
 後宮に居る間、アナーヒターは神官達の参拝を受けながら、天のお告げと称して神官達に魔法陣を書かせていたのだ。

「ほほぅ、ということは女神アナーヒターにおかれては、アパオシャがこの王宮に攻めてくると分かっていた訳か」

 今までの神々の会話を聞いて、ジャハーンダールは苛立ちの声を上げた。

「万が一の可能性よ。今回は当たって良かったわね」

 そういう問題では無い、とジャハーンダールは苦味潰した様な表情をしている。
 アナーヒターは、先ほどまでの余裕ぶった態度から急に首元を抑えて、苦しそうにしながら地面に降り立つ。

「貴方、どれだけ力をため込んでいたのよ」

 アナーヒターはなんとか、アパオシャの力を抑えてはいるが先ほどのようにアパオシャに攻撃できるほどではなさそうだ。

「私が戦えます」

 ファルリンは、立ち上がって曲刀を構えた。砂にまみれボロボロの様子だが、瞳は煌めいていた。ファルリンはアパオシャに斬りかかる。先ほどまでのアパオシャだと、空中に逃げたりしていたが、今はそんな力は残っていないのか、普通の人間の様に避けている。
しかし、それでもアパオシャは防戦一方でファルリンの攻撃にあわせて、ヘダーヤトが魔法で攻撃を仕掛ける。
 先ほどのまったく刃が立たない状態と違い、確実にアパオシャにダメージを与えられている。
 このままうまくいけば、アパオシャを退治できるかもしれないと望みが見えてくる。

 アパオシャも最後の悪あがきなのか、叫び声を上げて頭を振った。多少、力の封印が弱まったのかヘダーヤトとファルリンは、押し返されて後ろに飛びのく。

「まずは、ティシュトリアからだ……!」

 アパオシャは、標的をジャハーンダールに変えた。アパオシャが何かを呟いて指先をジャハーンダールに向けるた。アパオシャの指先から、光の弾が飛び出し流星のように一直線に飛びジャハーンダールの胸を射貫いた。

「ジャハーンダール!」

 抱きついていたマハスティが悲鳴を上げる。否、射貫かれたのはジャハーンダールではない。地面に血が流れてはいるが、ジャハーンダールの血ではない。

「ご無事ですか、陛下」

 口から血を吐きながら、人の心配をしているのはファルリンであった。ファルリンの近衛騎士団の服は赤く染まり酷い出血であった。腹部を貫かれているようだ。

「……ファルリン」

 ジャハーンダールは目の前の事が信じられずに、かすれた声で身を挺して助けてくれた少女の名前を呼んだ。

「よかった……陛下に」

 ファルリンは、血だらけの指先をジャハーンダールの頬にあて、自分の血で模様を描いた。それは王の妃マレカ・マリカの印だ。王の妃マレカ・マリカは痣を描かれた者に守護の力を与えることができる。命がけの王の痣マレカ・シアールの力なので、切り札として使うことが多い。

「守護を!……お幸せに」

 ファルリンの言葉に合わせて、ジャハーンダールの頬に描かれた王の妃マレカ・マリカの痣が光る。ファルリンはその光を見て安心したのか、ジャハーンダールの腕をすり抜け、目を瞑りゆっくりと地面に倒れていった。
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