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37.悪神の復活
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カタユーンは、青年に首元を抑えられた状態で、神聖魔法を使おうと自由になる両手で魔法を使う動作をする。それを見逃さなかった彼は、空いている手でカタユーンの手を封じ込める。
「さて、アナーヒターがどこにいるのか……」
青年の目が金色に煌めく。カタユーンの記憶を読み取ろうとしたとき、彼はカタユーンを地面に放り投げて後ろに飛び退いた。
先ほどまで、彼が居た場所に炎が舞い上がる。
「どこから沸いてでてきたのかなぁ」
ヘダーヤトがいつもは懐にしまっている杖を取り出して、構えていた。駆けつけてきたのか、ヘダーヤトの息が荒い。
「人が何人来ても一緒だよ。僕が何であるのか、気がついているんでしょ?」
青年は、重力を無視するように空中に浮いてヘダーヤトを見下ろしている。
「旱魃でしょ?女神アナーヒターが復活したから一緒に復活したってところかな」
ヘダーヤトの言葉に、アパオシャが鼻で笑う。
「復活を望まれたのは僕の方。アナーヒターはついでだよ。彼女の出力、少ないだろ」
ヘダーヤトは、返事に詰まる。アパオシャの言う通り、金星と豊穣の神であるアナーヒターの復活した姿にしては力の出力が乏しい。人々の信仰心が神の力に影響するとすれば、アナーヒターを信仰している人数に比べると、彼女は神の力に乏しかった。
「僕が復活したから、対照となる力としてアナーヒターが復活したんだ」
アパオシャは、ヘダーヤトの前に降り立つ。
「アナーヒターの元に案内して貰おうか……いや、先にただの人になったティシュトリアの方から手を付けようか」
ティシュトリアは誰のことを指しているのだ?とヘダーヤトが首をかしげると、アパオシャは視線を左にずらした。
崩れた神殿の影から、ここに駆けつけてきたばかりのジャハーンダールが姿を現す。その後ろには、マハスティがいた。マハスティは顔を恐怖で青白くさせているが、無理にジャハーンダールについてきたようだった。
アパオシャは、崩れたレンガの無数の破片を宙に浮かせる。破片は空中で向きを変え、より尖った方をジャハーンダールに向けて一直線に飛んでいく。
雨のごとく降り注ぐレンガに、マハスティが甲高い悲鳴を上げた。
ジャハーンダールに降り注ぐレンガの破片は、彼に届く前にすべて地面に落下した。ジャハーンダールは、腕組みをしてその光景を見ている。
「マハスティ、このぐらいで悲鳴を上げるならさっさと逃げるべきだ」
ジャハーンダールは、背中にしがみついているマハスティにうんざりしたような様子で声をかけた。
「ならば、ジャハーンダールも逃げるべきです。逃げるときに私が怪我をしたらどうするのです!ジャハーンダールなら、私を守ってくれるでしょう?」
マハスティは、かつて小さい頃にジャハーンダールが自分を助けてくれたときと同じように、今もそうしてくれると信じている。
「その魔法の力で、私を守る騎士になってくれるのでしょう?」
縋るマハスティを、誰かに預けようと辺りを見回すが、適当な人物はいない。カタユーンは床の上で伸びているし、ヘダーヤトに預けては戦力が半減する。
「僕は、君に逃げてて欲しかったんだけどなぁ」
アパオシャの攻撃を魔法の防御壁で防ぎながら、ヘダーヤトがぼやく。アパオシャが神殿に攻撃を仕掛けたときに、ヘダーヤトは真っ先に現場に向かう代わりにジャハーンダールに安全地帯まで逃げるように言ったのだ。
ジャハーンダールは、逃げるより先に王都住民への非難誘導のために警備隊と留守番をしていた近衛騎士団の残り半分のメンバーに命令を出していた。
そのときちょうど、突然のことに半狂乱になっていたマハスティをジャハーンダールが保護したところ、ずっと着いてきてしまったのだった。
「逃げても見つけ出すよ」
アパオシャは、ジャハーンダールの隙をつくるため標的を変えた。マハスティに、レンガの雨を降らす。 マハスティは、悲鳴を上げてジャハーンダールに抱きつく。火事場の馬鹿力なのか、マハスティは貴族令嬢とは思えないほどの力で、ジャハーンダールを押さえ込んだ。
その隙を見逃すアパオシャではない。槍を造りだし、ジャハーンダールとの距離を詰める。槍を胸の位置で水平に構えて、マハスティごと突き刺すつもりだ。
ヘダーヤトの金色に輝く瞳が、驚きに見開かれた。
「さて、アナーヒターがどこにいるのか……」
青年の目が金色に煌めく。カタユーンの記憶を読み取ろうとしたとき、彼はカタユーンを地面に放り投げて後ろに飛び退いた。
先ほどまで、彼が居た場所に炎が舞い上がる。
「どこから沸いてでてきたのかなぁ」
ヘダーヤトがいつもは懐にしまっている杖を取り出して、構えていた。駆けつけてきたのか、ヘダーヤトの息が荒い。
「人が何人来ても一緒だよ。僕が何であるのか、気がついているんでしょ?」
青年は、重力を無視するように空中に浮いてヘダーヤトを見下ろしている。
「旱魃でしょ?女神アナーヒターが復活したから一緒に復活したってところかな」
ヘダーヤトの言葉に、アパオシャが鼻で笑う。
「復活を望まれたのは僕の方。アナーヒターはついでだよ。彼女の出力、少ないだろ」
ヘダーヤトは、返事に詰まる。アパオシャの言う通り、金星と豊穣の神であるアナーヒターの復活した姿にしては力の出力が乏しい。人々の信仰心が神の力に影響するとすれば、アナーヒターを信仰している人数に比べると、彼女は神の力に乏しかった。
「僕が復活したから、対照となる力としてアナーヒターが復活したんだ」
アパオシャは、ヘダーヤトの前に降り立つ。
「アナーヒターの元に案内して貰おうか……いや、先にただの人になったティシュトリアの方から手を付けようか」
ティシュトリアは誰のことを指しているのだ?とヘダーヤトが首をかしげると、アパオシャは視線を左にずらした。
崩れた神殿の影から、ここに駆けつけてきたばかりのジャハーンダールが姿を現す。その後ろには、マハスティがいた。マハスティは顔を恐怖で青白くさせているが、無理にジャハーンダールについてきたようだった。
アパオシャは、崩れたレンガの無数の破片を宙に浮かせる。破片は空中で向きを変え、より尖った方をジャハーンダールに向けて一直線に飛んでいく。
雨のごとく降り注ぐレンガに、マハスティが甲高い悲鳴を上げた。
ジャハーンダールに降り注ぐレンガの破片は、彼に届く前にすべて地面に落下した。ジャハーンダールは、腕組みをしてその光景を見ている。
「マハスティ、このぐらいで悲鳴を上げるならさっさと逃げるべきだ」
ジャハーンダールは、背中にしがみついているマハスティにうんざりしたような様子で声をかけた。
「ならば、ジャハーンダールも逃げるべきです。逃げるときに私が怪我をしたらどうするのです!ジャハーンダールなら、私を守ってくれるでしょう?」
マハスティは、かつて小さい頃にジャハーンダールが自分を助けてくれたときと同じように、今もそうしてくれると信じている。
「その魔法の力で、私を守る騎士になってくれるのでしょう?」
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「僕は、君に逃げてて欲しかったんだけどなぁ」
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ジャハーンダールは、逃げるより先に王都住民への非難誘導のために警備隊と留守番をしていた近衛騎士団の残り半分のメンバーに命令を出していた。
そのときちょうど、突然のことに半狂乱になっていたマハスティをジャハーンダールが保護したところ、ずっと着いてきてしまったのだった。
「逃げても見つけ出すよ」
アパオシャは、ジャハーンダールの隙をつくるため標的を変えた。マハスティに、レンガの雨を降らす。 マハスティは、悲鳴を上げてジャハーンダールに抱きつく。火事場の馬鹿力なのか、マハスティは貴族令嬢とは思えないほどの力で、ジャハーンダールを押さえ込んだ。
その隙を見逃すアパオシャではない。槍を造りだし、ジャハーンダールとの距離を詰める。槍を胸の位置で水平に構えて、マハスティごと突き刺すつもりだ。
ヘダーヤトの金色に輝く瞳が、驚きに見開かれた。
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