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23.口を開けて
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ペイマーンは、店先で仕入れたスパイスの棚卸しをしていた。
「お久しぶりです。ペイマーンさん」
ペイマーンは作業をしていた手を止めて、振り返り自分に呼びかけたのが誰か気がついたら、目を大きくした。
「ファルリンじゃないか。……その格好は、陛下に王の痣と認められなかったのか?あんなに凄い力で、助けてくれたのに」
ファルリンの姿が王都を目指していた頃とまったく変わっていなかったので、ペイマーンは心配している。
「ち、違います!陛下には王の痣と認められて、近衛騎士を勤めてます。その……お恥ずかしながら、忙しくて服装を整えている時間がなくて」
ファルリンの恐縮しきった表情を見て、ペイマーンは安心したように笑った。自分と商隊の仲間達を助けてくれた恩人が、無事に願いを叶えたことを知って嬉しくなった。
「てっきり、良い人でもできて連れて帰るのかと思ったよ」
ペイマーンは、ファルリンの背後に立ってファルリンの手を未だに握っているピルーズに視線を向けた。ピルーズは、それに黙礼で答えるだけで否定をしない。慌てて答えたのは、ファルリンだ。
「違います。ピルーズは同じ近衛騎士の仲間です」
「そうかね」
ペイマーンは信じていない表情だ。ファルリンは気がついていないが、ピルーズはがっちりとファルリンの手を握ったままなのだ。ペイマーンはすべてを悟ったような顔つきで、ピルーズに向かって頷いた。
「隣が古着屋なんだ。ついておいで」
大方の人々は、衣服を古着を手に入れることが多い。新品の服はオーダーメイドなので、貴族や一部の大商人しか着ることはない。
古着を手に入れ自分の好みや体型に合うように作り替えるのが一般的だ。
ペイマーンは隣の店の主人に、命の恩人を連れてきたと紹介している。ファルリンはその後に続いて、気恥ずかしそうにしている。古着屋の主人は、普通の騎士に比べ華奢なファルリンがペイマーンの命の恩人であるということに驚いていた。
「うちの古着は良い品が多いんだ。じっくりみていってくれ」
古着屋の主人がファルリンを店内に招き入れた。店先から色とりどりの古着が所狭しと並んでいる。ファルリンはどれを選んで良いのか、目移りしながら店内に入っていった。
「ファルリンはこういうのが似合うんじゃないか?」
ピルーズは、棚に並べられた貫頭衣の中から空色に染め上げられた品物をファルリンに手渡した。ファルリンが受け取った貫頭衣は、手触りが良い。広げてみると、肩の辺りから腰の辺りまで流れるように、大輪の花の刺繍が施されている。繊細な模様で地の生地と同じ糸を使っての刺繍だ。遠くから見れば無地だが近くで見ると刺繍が施されているのがわかる。
ファルリンは、貫頭衣を体にあて、ピルーズの方を向いた。
ファルリンの赤毛がゆるりと弧を描き肩の上に毛先が当たる。ファルリンの赤毛が空色の貫頭衣に映える。彼女の黒い瞳に貫頭衣の空色が映り込んでいた。
健康的で愛らしい顔立ちのファルリンの様子にピルーズの頬が緩む。
ファルリンは、こうして見せる相手がメフルダードだったら、とふと思った。
(メフルダードだったら、なんと言ってくれるのでしょう。どうせだったら、彼に……)
「やっぱり、よく似合っているよ」
ピルーズの褒め言葉にファルリンは、頬を赤く染める。ピルーズは顔立ちが整っているので、何気ない褒め言葉でもファルリンの心を揺さぶるのに充分な威力があった。
(彼に褒めて欲しかった……)
「えっと……そのじゃ、これと」
ファルリンは、ピルーズが選んだ空色の貫頭衣の他に、帯やスカーフ、何点かの貫頭衣を購入した。
購入品は、近衛騎士団の寮へ配達されることになった。
「次はどこに行きたい?」
「果物を買いに行きたいです。茘枝を探しています」
「茘枝なら、どこでも売っているよ。茘枝好きなの?」
「食べたことはありません。アナーヒター様に差し上げます」
ピルーズは、近くの果物を売っている店に連れて行った。店舗は、ザルに果物を盛って売っている。茘枝の他にも石榴やデーツなどが並んでいた。
ピルーズは、茘枝のザルを二皿手に取った。茘枝は枝付きのまま売られていて、茶色の鱗状の堅い皮の丸い実だ。アナーヒターが「龍の鱗」と言ったのも頷ける見た目だ。とても美味しそうな食べ物には見えない。
「二皿買っていこう。ひとつはアナーヒター様に、もう一つは俺たちで食べよう」
「良い考えですね!味がわからないとアナーヒター様に強く勧められません」
ファルリンとピルーズは二人で仲良く一皿づつ茘枝を購入した。
二人は、広場のベンチに並んで座った。ピルーズが買ったばかりの茘枝をひとつとりだし、皮を剥いた。中から果汁が滴り落ち真っ白な実が姿を見せる。甘い良い匂いが辺りに広がった。
「はい、あーん」
ピルーズは照れた様子もなくファルリンの口元に茘枝の実を近づける。ファルリンは、自然な動作で口元に持ってこられたので、普通に口をあけて茘枝にかぶりついた。
口の中に甘い果汁と、柔らかい果肉が広がる。甘いだけではなく少しの酸味を感じる。何個でも食べられそうなジューシーな果物だ。
「もう一つ」
ピルーズは、同じように皮を剥いてファルリンの口元に茘枝を差し出す。もう一つ食べようとして、ファルリンは食べさせてもらっていることに気がついて、口をあけたまま固まった。
徐々にファルリンの頬が赤く染まっていく。
「ん?どうしたの?」
ピルーズは明らかに判っているのに、とぼけた振りをしてファルリンの瞳を覗き込んだ。
「お久しぶりです。ペイマーンさん」
ペイマーンは作業をしていた手を止めて、振り返り自分に呼びかけたのが誰か気がついたら、目を大きくした。
「ファルリンじゃないか。……その格好は、陛下に王の痣と認められなかったのか?あんなに凄い力で、助けてくれたのに」
ファルリンの姿が王都を目指していた頃とまったく変わっていなかったので、ペイマーンは心配している。
「ち、違います!陛下には王の痣と認められて、近衛騎士を勤めてます。その……お恥ずかしながら、忙しくて服装を整えている時間がなくて」
ファルリンの恐縮しきった表情を見て、ペイマーンは安心したように笑った。自分と商隊の仲間達を助けてくれた恩人が、無事に願いを叶えたことを知って嬉しくなった。
「てっきり、良い人でもできて連れて帰るのかと思ったよ」
ペイマーンは、ファルリンの背後に立ってファルリンの手を未だに握っているピルーズに視線を向けた。ピルーズは、それに黙礼で答えるだけで否定をしない。慌てて答えたのは、ファルリンだ。
「違います。ピルーズは同じ近衛騎士の仲間です」
「そうかね」
ペイマーンは信じていない表情だ。ファルリンは気がついていないが、ピルーズはがっちりとファルリンの手を握ったままなのだ。ペイマーンはすべてを悟ったような顔つきで、ピルーズに向かって頷いた。
「隣が古着屋なんだ。ついておいで」
大方の人々は、衣服を古着を手に入れることが多い。新品の服はオーダーメイドなので、貴族や一部の大商人しか着ることはない。
古着を手に入れ自分の好みや体型に合うように作り替えるのが一般的だ。
ペイマーンは隣の店の主人に、命の恩人を連れてきたと紹介している。ファルリンはその後に続いて、気恥ずかしそうにしている。古着屋の主人は、普通の騎士に比べ華奢なファルリンがペイマーンの命の恩人であるということに驚いていた。
「うちの古着は良い品が多いんだ。じっくりみていってくれ」
古着屋の主人がファルリンを店内に招き入れた。店先から色とりどりの古着が所狭しと並んでいる。ファルリンはどれを選んで良いのか、目移りしながら店内に入っていった。
「ファルリンはこういうのが似合うんじゃないか?」
ピルーズは、棚に並べられた貫頭衣の中から空色に染め上げられた品物をファルリンに手渡した。ファルリンが受け取った貫頭衣は、手触りが良い。広げてみると、肩の辺りから腰の辺りまで流れるように、大輪の花の刺繍が施されている。繊細な模様で地の生地と同じ糸を使っての刺繍だ。遠くから見れば無地だが近くで見ると刺繍が施されているのがわかる。
ファルリンは、貫頭衣を体にあて、ピルーズの方を向いた。
ファルリンの赤毛がゆるりと弧を描き肩の上に毛先が当たる。ファルリンの赤毛が空色の貫頭衣に映える。彼女の黒い瞳に貫頭衣の空色が映り込んでいた。
健康的で愛らしい顔立ちのファルリンの様子にピルーズの頬が緩む。
ファルリンは、こうして見せる相手がメフルダードだったら、とふと思った。
(メフルダードだったら、なんと言ってくれるのでしょう。どうせだったら、彼に……)
「やっぱり、よく似合っているよ」
ピルーズの褒め言葉にファルリンは、頬を赤く染める。ピルーズは顔立ちが整っているので、何気ない褒め言葉でもファルリンの心を揺さぶるのに充分な威力があった。
(彼に褒めて欲しかった……)
「えっと……そのじゃ、これと」
ファルリンは、ピルーズが選んだ空色の貫頭衣の他に、帯やスカーフ、何点かの貫頭衣を購入した。
購入品は、近衛騎士団の寮へ配達されることになった。
「次はどこに行きたい?」
「果物を買いに行きたいです。茘枝を探しています」
「茘枝なら、どこでも売っているよ。茘枝好きなの?」
「食べたことはありません。アナーヒター様に差し上げます」
ピルーズは、近くの果物を売っている店に連れて行った。店舗は、ザルに果物を盛って売っている。茘枝の他にも石榴やデーツなどが並んでいた。
ピルーズは、茘枝のザルを二皿手に取った。茘枝は枝付きのまま売られていて、茶色の鱗状の堅い皮の丸い実だ。アナーヒターが「龍の鱗」と言ったのも頷ける見た目だ。とても美味しそうな食べ物には見えない。
「二皿買っていこう。ひとつはアナーヒター様に、もう一つは俺たちで食べよう」
「良い考えですね!味がわからないとアナーヒター様に強く勧められません」
ファルリンとピルーズは二人で仲良く一皿づつ茘枝を購入した。
二人は、広場のベンチに並んで座った。ピルーズが買ったばかりの茘枝をひとつとりだし、皮を剥いた。中から果汁が滴り落ち真っ白な実が姿を見せる。甘い良い匂いが辺りに広がった。
「はい、あーん」
ピルーズは照れた様子もなくファルリンの口元に茘枝の実を近づける。ファルリンは、自然な動作で口元に持ってこられたので、普通に口をあけて茘枝にかぶりついた。
口の中に甘い果汁と、柔らかい果肉が広がる。甘いだけではなく少しの酸味を感じる。何個でも食べられそうなジューシーな果物だ。
「もう一つ」
ピルーズは、同じように皮を剥いてファルリンの口元に茘枝を差し出す。もう一つ食べようとして、ファルリンは食べさせてもらっていることに気がついて、口をあけたまま固まった。
徐々にファルリンの頬が赤く染まっていく。
「ん?どうしたの?」
ピルーズは明らかに判っているのに、とぼけた振りをしてファルリンの瞳を覗き込んだ。
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