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最終章
7話——仲間
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王城と分厚い城壁との間にある野外訓練場。
王国騎士団に所属する隊士が実戦訓練等を行う場所だ。
第一から第十まである師団は、日々訓練や城下街の見回り、近隣地域の警戒や都市遠征、魔物の討伐など、ローテーションしながら交代で任務に当たっている。
見習いだった頃はほぼ毎日のように通っていた場所だ。
久しぶりに訪れたその場所で、レンは一人剣を振るっていた。
今はただ何も考えず、兎に角身体を酷使したい。そんな気分だった。
型式や作法なんか全く無視の力任せだ。思うがまま無茶苦茶に振り回す。
「なんだ、荒れてんな」
唐突に声を掛けられて、バッとそちらを振り向いた。
「よっ!」なんて片手を上げるのは、先程までベットにいた筈のシャガールだ。
気配を絶っていたのか、自分がそれ程までに余裕が無かったのか…。
手にしていた剣を取り落とし、驚きに目が開かれる。
「シャ、ガール…? おま……目が……」
近づこうとして、彼の少し後ろ。俯き、表情の窺えない少女の青い髪がサラっと揺れた。
「………」
口を閉し、視線を逸らしてしまったレンに、シャガールが笑みを向ける。
「ま、事情は聞いた。取り敢えず座ろーぜ」
訓練場の端に、太い丸太がゴロゴロしている箇所がある。この丸太も訓練に使用されるものだが、常日頃からここいらに転がっている為、椅子代わりにと隊士達が訓練の合間の休憩スペースとして使用している。
一際大きな丸太にシャガールとマーレが、その斜め向かいにレンが座った。
なんというかまぁ、微妙な空気である。
がしかし、そんな事はお構い無しに、いつもの調子でシャガールが口を開く。
「オレさ、目覚める直前、女神様に呼ばれたんだ」
急に何の前触れもなく始まった話に、レンとマーレがシャガールを見た。
「え?」
「呼ばれたって…どう言う事だよ?」
片手を顎へ当て、思案するかのようなシャガールに、二人の視線が向けられる。
「城で聖剣受け取る儀式あったろ? あ、マーレは知らねーか。あったんだよ、えみがその儀式の前日に参加する事知らされてさ!」
「あー…あん時はめちゃめちゃ怒ってたって、アルクさんから聞いた」
本来ならシャガールが所属する教会が取り仕切る儀式の筈だ。
それを教皇の代わりをえみにさせ、儀式を強行したのだと言う。
それは怒りそうだと、マーレが驚きの表情を浮かべる。自分がやれと言われたら震える所業だ。
シャガールとレンは懐かしそうに口元を緩めている。
「そん時にさ、女神様からオレと契約する精霊を上位精霊に進化させろって言われてさ。それが出来たら話があるからって言われてたんだ」
「そうだったの」
「で、呼ばれた。其処でえみに会ったよ」
「「なっ……」」
驚愕した二人が同時に立ち上がった。
「無事なのか!?」
「無事なの?!」
見事にシンクロすると、顔を見合わせ、恥ずかしそうにそっと視線を逸らし、再び座った。
その様子を見ていたシャガールが「仲良いじゃん」と、ケラケラ笑う。
「訳あって話は出来なかったけど、元気そうだった」
「そう、か…」
「良かった……」
安堵の表情を浮かべる二人を、フッと頬を緩めシャガールが交互に眺める。
「二人はさ、えみの事、好きか?」
「勿論だよ!!」
「当然だろ!」
言われるまでも無いとばかりに力強くマーレが頷く。
「変な意味じゃ無いからな!」と、レンは補足を忘れない。
その返事を受けて、シャガールの口元が益々弧を描く。
「だったら助けに行こう! 一緒に」
「「………」」
澄んだ宝石の様なブルーが真っ直ぐに向けられる。強い決意と光を宿すその瞳は、少しの迷いも怯えも含まない。
見るものを魅了し、惹きつけ、「きっと大丈夫だ」と思わせる不思議な力を持っている。
かと思えば、くしゃりとその顔を崩してしまう。
「まー、難しい事は、全部終わってからまた考えればいいじゃん!」
そんな事を言い出す始末。何ともまぁ…彼らしい。
「ったく…お前は……」
呆れた様にレンが短く息を吐き出す。
肩に入っていた力は気が抜けたと同時にどこかへ行ってしまった。
視線を上げると、その先でマーレがフフっと笑いを漏らしている。
レンはその場を立ち、シャガールの前を通り越してマーレの前へ移動した。
彼女もまた顔を上げると真っ直ぐ此方を見上げてくる。
「ごめん…どう言えばいいか分からなくて…変な態度取った事」
マーレは少し眉尻を下げ、フルフルと首を振った。
「私の方こそ、その…」
「一旦忘れる! えみ取り返したら、そん時また腹割って話そう」
右手をマーレに向かって差し出す。
「それでいいか?」
「レンくん…」
その手をマーレが握り立ち上がる。
「うん! 私…精一杯頑張るよ」
お互いに顔を見合わせてクスリと笑い合う。
そんな二人を見て、シャガールも笑う。
「そん時はえみにおやつ出して貰おうぜ」
「何でお前が参加する気満々なんだよ!」
「え? 駄目なの?」
「駄目だろ!」
「駄目じゃない?」
再びシンクロし、笑い合い、三人で帰路に着く。
大切な仲間を取り戻し、世界を平和に。
魔王を倒せばそれが叶う。
そう信じて疑わなかったのだ。
王国騎士団に所属する隊士が実戦訓練等を行う場所だ。
第一から第十まである師団は、日々訓練や城下街の見回り、近隣地域の警戒や都市遠征、魔物の討伐など、ローテーションしながら交代で任務に当たっている。
見習いだった頃はほぼ毎日のように通っていた場所だ。
久しぶりに訪れたその場所で、レンは一人剣を振るっていた。
今はただ何も考えず、兎に角身体を酷使したい。そんな気分だった。
型式や作法なんか全く無視の力任せだ。思うがまま無茶苦茶に振り回す。
「なんだ、荒れてんな」
唐突に声を掛けられて、バッとそちらを振り向いた。
「よっ!」なんて片手を上げるのは、先程までベットにいた筈のシャガールだ。
気配を絶っていたのか、自分がそれ程までに余裕が無かったのか…。
手にしていた剣を取り落とし、驚きに目が開かれる。
「シャ、ガール…? おま……目が……」
近づこうとして、彼の少し後ろ。俯き、表情の窺えない少女の青い髪がサラっと揺れた。
「………」
口を閉し、視線を逸らしてしまったレンに、シャガールが笑みを向ける。
「ま、事情は聞いた。取り敢えず座ろーぜ」
訓練場の端に、太い丸太がゴロゴロしている箇所がある。この丸太も訓練に使用されるものだが、常日頃からここいらに転がっている為、椅子代わりにと隊士達が訓練の合間の休憩スペースとして使用している。
一際大きな丸太にシャガールとマーレが、その斜め向かいにレンが座った。
なんというかまぁ、微妙な空気である。
がしかし、そんな事はお構い無しに、いつもの調子でシャガールが口を開く。
「オレさ、目覚める直前、女神様に呼ばれたんだ」
急に何の前触れもなく始まった話に、レンとマーレがシャガールを見た。
「え?」
「呼ばれたって…どう言う事だよ?」
片手を顎へ当て、思案するかのようなシャガールに、二人の視線が向けられる。
「城で聖剣受け取る儀式あったろ? あ、マーレは知らねーか。あったんだよ、えみがその儀式の前日に参加する事知らされてさ!」
「あー…あん時はめちゃめちゃ怒ってたって、アルクさんから聞いた」
本来ならシャガールが所属する教会が取り仕切る儀式の筈だ。
それを教皇の代わりをえみにさせ、儀式を強行したのだと言う。
それは怒りそうだと、マーレが驚きの表情を浮かべる。自分がやれと言われたら震える所業だ。
シャガールとレンは懐かしそうに口元を緩めている。
「そん時にさ、女神様からオレと契約する精霊を上位精霊に進化させろって言われてさ。それが出来たら話があるからって言われてたんだ」
「そうだったの」
「で、呼ばれた。其処でえみに会ったよ」
「「なっ……」」
驚愕した二人が同時に立ち上がった。
「無事なのか!?」
「無事なの?!」
見事にシンクロすると、顔を見合わせ、恥ずかしそうにそっと視線を逸らし、再び座った。
その様子を見ていたシャガールが「仲良いじゃん」と、ケラケラ笑う。
「訳あって話は出来なかったけど、元気そうだった」
「そう、か…」
「良かった……」
安堵の表情を浮かべる二人を、フッと頬を緩めシャガールが交互に眺める。
「二人はさ、えみの事、好きか?」
「勿論だよ!!」
「当然だろ!」
言われるまでも無いとばかりに力強くマーレが頷く。
「変な意味じゃ無いからな!」と、レンは補足を忘れない。
その返事を受けて、シャガールの口元が益々弧を描く。
「だったら助けに行こう! 一緒に」
「「………」」
澄んだ宝石の様なブルーが真っ直ぐに向けられる。強い決意と光を宿すその瞳は、少しの迷いも怯えも含まない。
見るものを魅了し、惹きつけ、「きっと大丈夫だ」と思わせる不思議な力を持っている。
かと思えば、くしゃりとその顔を崩してしまう。
「まー、難しい事は、全部終わってからまた考えればいいじゃん!」
そんな事を言い出す始末。何ともまぁ…彼らしい。
「ったく…お前は……」
呆れた様にレンが短く息を吐き出す。
肩に入っていた力は気が抜けたと同時にどこかへ行ってしまった。
視線を上げると、その先でマーレがフフっと笑いを漏らしている。
レンはその場を立ち、シャガールの前を通り越してマーレの前へ移動した。
彼女もまた顔を上げると真っ直ぐ此方を見上げてくる。
「ごめん…どう言えばいいか分からなくて…変な態度取った事」
マーレは少し眉尻を下げ、フルフルと首を振った。
「私の方こそ、その…」
「一旦忘れる! えみ取り返したら、そん時また腹割って話そう」
右手をマーレに向かって差し出す。
「それでいいか?」
「レンくん…」
その手をマーレが握り立ち上がる。
「うん! 私…精一杯頑張るよ」
お互いに顔を見合わせてクスリと笑い合う。
そんな二人を見て、シャガールも笑う。
「そん時はえみにおやつ出して貰おうぜ」
「何でお前が参加する気満々なんだよ!」
「え? 駄目なの?」
「駄目だろ!」
「駄目じゃない?」
再びシンクロし、笑い合い、三人で帰路に着く。
大切な仲間を取り戻し、世界を平和に。
魔王を倒せばそれが叶う。
そう信じて疑わなかったのだ。
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