上 下
92 / 126
最終章

7話——仲間

しおりを挟む
 王城と分厚い城壁との間にある野外訓練場。
 王国騎士団に所属する隊士が実戦訓練等を行う場所だ。

 第一から第十まである師団は、日々訓練や城下街の見回り、近隣地域の警戒や都市遠征、魔物の討伐など、ローテーションしながら交代で任務に当たっている。

 見習いだった頃はほぼ毎日のように通っていた場所だ。
 久しぶりに訪れたその場所で、レンは一人剣を振るっていた。
 今はただ何も考えず、兎に角身体を酷使したい。そんな気分だった。
 型式や作法なんか全く無視の力任せだ。思うがまま無茶苦茶に振り回す。



「なんだ、荒れてんな」

 唐突に声を掛けられて、バッとそちらを振り向いた。
「よっ!」なんて片手を上げるのは、先程までベットにいた筈のシャガールだ。
 気配を絶っていたのか、自分がそれ程までに余裕が無かったのか…。
 手にしていた剣を取り落とし、驚きに目が開かれる。

「シャ、ガール…? おま……目が……」

 近づこうとして、彼の少し後ろ。俯き、表情の窺えない少女の青い髪がサラっと揺れた。

「………」

 口を閉し、視線を逸らしてしまったレンに、シャガールが笑みを向ける。

「ま、事情は聞いた。取り敢えず座ろーぜ」


 訓練場の端に、太い丸太がゴロゴロしている箇所がある。この丸太も訓練に使用されるものだが、常日頃からここいらに転がっている為、椅子代わりにと隊士達が訓練の合間の休憩スペースとして使用している。
 一際大きな丸太にシャガールとマーレが、その斜め向かいにレンが座った。
 なんというかまぁ、微妙な空気である。
 がしかし、そんな事はお構い無しに、いつもの調子でシャガールが口を開く。

「オレさ、目覚める直前、女神様に呼ばれたんだ」

 急に何の前触れもなく始まった話に、レンとマーレがシャガールを見た。

「え?」
「呼ばれたって…どう言う事だよ?」

 片手を顎へ当て、思案するかのようなシャガールに、二人の視線が向けられる。

「城で聖剣受け取る儀式あったろ? あ、マーレは知らねーか。あったんだよ、えみがその儀式の前日に参加する事知らされてさ!」

「あー…あん時はめちゃめちゃ怒ってたって、アルクさんから聞いた」

 本来ならシャガールが所属する教会が取り仕切る儀式の筈だ。
 それを教皇の代わりをえみにさせ、儀式を強行したのだと言う。
 それは怒りそうだと、マーレが驚きの表情を浮かべる。自分がやれと言われたら震える所業だ。
 シャガールとレンは懐かしそうに口元を緩めている。

「そん時にさ、女神様からオレと契約する精霊を上位精霊に進化させろって言われてさ。それが出来たら話があるからって言われてたんだ」

「そうだったの」

「で、呼ばれた。其処でえみに会ったよ」

「「なっ……」」

 驚愕した二人が同時に立ち上がった。

「無事なのか!?」
「無事なの?!」

 見事にシンクロすると、顔を見合わせ、恥ずかしそうにそっと視線を逸らし、再び座った。
 その様子を見ていたシャガールが「仲良いじゃん」と、ケラケラ笑う。

「訳あって話は出来なかったけど、元気そうだった」

「そう、か…」
「良かった……」

 安堵の表情を浮かべる二人を、フッと頬を緩めシャガールが交互に眺める。

「二人はさ、えみの事、好きか?」

「勿論だよ!!」
「当然だろ!」

 言われるまでも無いとばかりに力強くマーレが頷く。
「変な意味じゃ無いからな!」と、レンは補足を忘れない。
 その返事を受けて、シャガールの口元が益々弧を描く。

「だったら助けに行こう! 一緒に」

「「………」」

 澄んだ宝石の様なブルーが真っ直ぐに向けられる。強い決意と光を宿すその瞳は、少しの迷いも怯えも含まない。
 見るものを魅了し、惹きつけ、「きっと大丈夫だ」と思わせる不思議な力を持っている。
 かと思えば、くしゃりとその顔を崩してしまう。

「まー、難しい事は、全部終わってからまた考えればいいじゃん!」

 そんな事を言い出す始末。何ともまぁ…彼らしい。

「ったく…お前は……」

 呆れた様にレンが短く息を吐き出す。
 肩に入っていた力は気が抜けたと同時にどこかへ行ってしまった。
 視線を上げると、その先でマーレがフフっと笑いを漏らしている。
 レンはその場を立ち、シャガールの前を通り越してマーレの前へ移動した。
 彼女もまた顔を上げると真っ直ぐ此方を見上げてくる。

「ごめん…どう言えばいいか分からなくて…変な態度取った事」

 マーレは少し眉尻を下げ、フルフルと首を振った。

「私の方こそ、その…」

「一旦忘れる! えみ取り返したら、そん時また腹割って話そう」

 右手をマーレに向かって差し出す。

「それでいいか?」

「レンくん…」

 その手をマーレが握り立ち上がる。

「うん! 私…精一杯頑張るよ」

 お互いに顔を見合わせてクスリと笑い合う。
 そんな二人を見て、シャガールも笑う。

「そん時はえみにおやつ出して貰おうぜ」

「何でお前が参加する気満々なんだよ!」

「え? 駄目なの?」

「駄目だろ!」
「駄目じゃない?」

 再びシンクロし、笑い合い、三人で帰路に着く。

 大切な仲間を取り戻し、世界を平和に。
 魔王を倒せばそれが叶う。
 そう信じて疑わなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...