上 下
40 / 126
第2章

10話―色々と前途多難です。

しおりを挟む
    ハワード様の爆弾発言の翌日、私は迎えに来たというハインヘルトさんの馬車に乗り、城へと向かっていた。

「ハワード様からのお呼び出しなんですよね?」

「ええ。そうですが?」

 なんか嫌な予感しかしない。

「どういったご用件なんでしょうか?」

「遠征に関する顔合わせと確認事項があるとのことでしたが、何か気になることでも?」

「いえ。それならアルクさんの家に来そうなものなのにと思っただけです」

「他に理由があると?」

「はい。むしろそちらがメインな気がします!」

 どさくさに紛れてご飯作っていけとか言われそうな気ぃしかしない。
 遠い目をしているとハインヘルトさんが薄く笑う。

「勘が鋭くなってきましたね」

「ええ。あの二人と一緒にいると嫌でも。ハインヘルトさんも大変ですね」

「ええ。まぁ。私の苦労に共感してくださる方が現れるとは思ってもいませんでしたよ」

 今日のハインヘルトさんはなんだかご機嫌な気がする。メリッサといちゃラブしてきたからだろうか。この二人のいってらっしゃいは私の目には毒だからとメアリから閲覧禁止がかけられているのだ。
 ものすごく気になるけど。

「なにかよからぬ事を考えていますね。顔から駄々漏れですよ」

「きっ気のせいです!」

 世間話を交えつつ馬車に揺られること数十分、城の正面入り口へと辿り着く。
 ソラとワサビちゃんは今日はお留守番の為ちょっぴり心細いなと思っていたら、「えみ!!」と元気な声が降ってくる。
 大階段を見上げると、見知った顔が勢いよく駆け降りて来ているところだった。

「シャルくん!?」

 目に入って来たその人物は数週間前に勇者としての修行に入るために一足先に王都へと来ていたシャガールその人だった。
 階段の踊り場で勢いそのまま抱きつかれて、転げ落ちるかと思った。

「えみ!!  久しぶり!!  会いたかった!」

「シャルくんも元気そうで良かった!」

 私を見下ろす彼はあの時の面影を感じさせない程、逞しく精悍な青年へと成長していた。
 というか、背伸びるの早くない?
 あの時はまだ私の方が大きかったのに!
 ……成長期恐るべし。

「神父様と連絡取ってる?   今のシャルくんの姿を見たらきっと驚くよ!」

 はにかんだように笑いながら私の手をとって歩き出す。

「ちょくちょく手紙来てる。忙しくてあんまり返事書けてないけどな」

「修行は大変?」

「ああ。まぁな。でも大分力がついたと思う」

 そう言って笑うシャルくんの顔は自信に満ち溢れている。
 体つきも全然違うし、彼が努力しているだろうことは私が見てもわかる程だ。
 なんといっても彼の回りの精霊たちが落ち着き払っている。
 魔力のコントロールもなされているのだろう。
 頼もしくなったシャルくんの姿に自然と頬が緩む。


「まぁ。アルク様のご婚約者様ともあろう方がこんな目立つ場所で密会ですの?   はしたない」

 刺々しい声のする方へと視線を向けると、いつかの中庭の美少女が口許を扇子で隠しながらこちらへ侮蔑の眼差しをむけている。
 後ろには似たような表情のお着きの女性を二人はべらせている。

「えっと……どちら様でしょう……」

 面識はあるが知り合いではない。
 …知り合いたくないが正しいか。
 シャルくんも黙ったまま固い表情を浮かべている。
 精霊たちは彼の肩の上で大人しくしている。危害を加える様子は無さそうでホッとする。

「これは失礼いたしました。わたくしはエトワーリル・ド・ツェヴァンニと申しますわ。アルク様とは幼なじみですの」

 でた!ツェヴァンニ其の二!!
 しかもさりげないアルクさんの小さい頃知ってますアピール!
 絶対アルクさん狙いの奴!

「仮にもこの城に出入りする身でしたら、住まわっている人間くらい頭に入れておいた方がよろしくてよ。黒の巫女様」

 最後まで扇子は外さず、自分の言いたい事だけ言って居なくなった。
 私もシャルくんも呆然とその場に佇むばかりだ。

「初めてみた。貴族ってみんなあんななのか?」

「さぁどうだろう?   あっ!   でもアルクさんのお母様はとても素敵な方よ」

「ナシュリーさんだな。確かに優しそうな人だったな。……にしても、婚約者ってどういうことだよ?」

「えっ!?   ……と……」

 シャルくんの真っ直ぐな視線が痛い。
 説明したいけどここじゃ誰が聞いてるかわからないし。
 どうしようか迷っていると

「そのままの意味だ。いい加減その手を離せ」

 黒いオーラをまとったアルクさんと苦笑いを浮かべたハワード様がやってきた。
 シャルくんはハワード様を見ると直ぐに左手を胸へと当てて礼の姿勢をとる。
 これが王子様への挨拶なのだろう。
 教会で礼儀もしっかり叩き込まれているようだ。
 ちなみに私はやったことない。

「勇者殿。かまわないから楽にしてくれ」

 ハワード様にそう言われてシャルくんの固い表情が少し和らいだ。
 場所を移そうと連れだって歩き出す。
 シャルくんが繋いだ手を離してくれなくて、背中に刺さるアルクさんの黒い視線がもの凄く痛かった。
 居心地わりぃな。


 案内されたのはハワード様の執務室だった。
 さすが王子様の部屋は広い。仕事用の机が置かれた部屋の他に来客用の丸テーブルが置かれている部屋があり、そちらへと案内される。
 王子様の部屋というくらいだから、もっと色々と高価な調度品がゴロゴロしているのかと思いきや、必要最低限の家具や棚のみで、広さがある割には殺風景に感じる。


 席に着いたところで扉がノックされ、ハインヘルトさんに続いて、王宮騎士団総隊長のローガンさんと第二師団長のルーベルさんがやってきた。
 そして皆同じテーブルに着いたのだった。
 王子様に勇者様に騎士団の団長さんたち。

 私の場違い感ハンパないんですけど。

 帰りたいと思っていたら、再びノックがあり、メイドさんたちによってお茶とお茶菓子が配膳された。
 お茶はハワード様が用意してくれたものだが、お茶菓子は私が持参したものだ。(まぁ半分強制のようなものだけど)クッキーとチョコブラウニーの二種類だ。

「さて、本題に入るが、遠征にはローガンを除くこのメンバーで行くことになった。オレも含めてな」

「え?」
「へ?」
「……殿下。ご冗談でしょう?」

 シャルくんとハモった上からアルクさんの呆れた声が重なる。

「冗談ではない。どうやらオレもえみの力で魔力が覚醒したらしい」

「えええ!?」

「本当ですか?」

「ああ。まだ使いこなせていないが、魔族と戦うための戦力になるだろう」

 皆が呆気にとられている。

「出発は八日後。場所は先日魔物の群れに襲われ被害が甚大な『イーリス』」

 八日後。急に具体的な日数を告げられて緊張してきた。

「イーリスといえばウォルフェンの部隊が復旧に向かった場所ですね」

 ルーベルさんがくいっと眼鏡をあげた。

「そうだ。ウォルフェンから連絡があってな。物資の追加要請があった。あとは精霊の数が異様に多いらしい」

「それって……」

 思わずシャルくんの方を見てしまう。

「オレと似たような人間がいる可能性が高いということですね」

 高い魔力をもつ人間の周りに精霊が集まることがある。初めてシャルくんと会った時も、彼は精霊まみれだった。
 精霊を呼び寄せる程の魔力の持ち主がいるかもしれない。

「そういうことだ。その人物を見つけ出し、討伐隊に勧誘する。それが今回の任務だ。それともう一つ。王都近くの山間部に魔物の群を確認した。実戦訓練を兼ねてそこを潰す。従って少数精鋭で行く。異論は?」

 ハワード様は優雅にお茶を口にし皆の顔を見渡した。

「私も参加出来ないのが残念ですな」

 ローガンさんもゆっくりとお茶を味わっている。

「ローガンには残って城の警備を任せたい。なにしろ三団長が不在になるからな」

 心得ましたとローガンさんが頭を下げる。

「私は魔力を持つ訳ではありませんがよろしいのですか」

 そう。遠征メンバーの中で唯一魔力を持たないルーベルさん。
 そのことを彼自信も気になっているようだ。

「ルーベルは単純に戦力と参謀だ。ついでにオレの護衛。でないと許可しないと親父の奴が言ってきたんでな。まぁ宜しく頼む」

 心得ましたと頭を下げるルーベルさんは心なしか嬉しそうだ。
 主から直々に護衛に任命されたら騎士としてはとても光栄なことなのかもしれない。

「という訳で、早速明日、勇者殿には聖剣の帯刀式、ならびに精霊との契約の儀を済ませて頂くのでそのつもりで」

「わかりました」

「それとえみにも仕事があるからな」

「へ?」

 呑気にお茶を飲んでいたら不意討ちを喰らった。

「何をさせる気ですか?」

 訝しげな視線を向けるとハワード様のにやりな顔が美しかった。
 なんか美形ムカつく。

「黒の巫女の初仕事さ。なに、ただ立っているだけだ。楽勝だろう?」

「本当に立っているだけなら」

「面倒なのは支度の方だな。朝が早いから今日は城へ泊まっていくといい。勇者殿とつもる話もあるだろう。ついでに夕飯頼むな」

 ついでとな?
 絶対夕飯がメインですよね?
 まぁシャルくんとゆっくり話が出来るのは嬉しいけど。
 アルクさんはローガンさんとルーベルさんの手前何も言えないのか、黒いオーラも出さずに黙ってお茶を飲んでいた。
 逆に怖いんですけど。
 大事な遠征や明日の儀式の話もそこそこに、夕飯の準備へと追いやられた私。
 仕方なくメイドさんに案内されてお城の厨房へと向かった。
 何か作る量多くね?  と思っていたら、今夜の晩餐はハワード様だけでなく、国王様とお妃様も参加されると後から聞かされて、目眩と頭痛にバファリンを服用したのは少し後のお話でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

階段落ちたら異世界に落ちてました!

織原深雪
ファンタジー
どこにでも居る普通の女子高生、鈴木まどか17歳。 その日も普通に学校に行くべく電車に乗って学校の最寄り駅で下りて階段を登っていたはずでした。 混むのが嫌いなので少し待ってから階段を登っていたのに何の因果かふざけながら登っていた男子高校生の鞄が激突してきて階段から落ちるハメに。 ちょっと!! と思いながら衝撃に備えて目を瞑る。 いくら待っても衝撃が来ず次に目を開けたらよく分かんないけど、空を落下してる所でした。 意外にも冷静ですって?内心慌ててますよ? これ、このままぺちゃんこでサヨナラですか?とか思ってました。 そしたら地上の方から何だか分かんない植物が伸びてきて手足と胴に巻きついたと思ったら優しく運ばれました。 はてさて、運ばれた先に待ってたものは・・・ ベリーズカフェ投稿作です。 各話は約500文字と少なめです。 毎日更新して行きます。 コピペは完了しておりますので。 作者の性格によりざっくりほのぼのしております。 一応人型で進行しておりますが、獣人が出てくる恋愛ファンタジーです。 合わない方は読むの辞めましょう。 お楽しみ頂けると嬉しいです。 大丈夫な気がするけれども一応のR18からR15に変更しています。 トータル約6万字程の中編?くらいの長さです。 予約投稿設定完了。 完結予定日9月2日です。 毎日4話更新です。 ちょっとファンタジー大賞に応募してみたいと思ってカテゴリー変えてみました。

処理中です...