22 / 48
第一章 ルークの婚約者編
婚約発表
しおりを挟む
あれから一ヶ月程学園を休んだわたしは新たな気持ちで学園生活へと復帰した。思いのほか精神的にも身体的にも疲弊していたらしく、自分でもこれほど回復に時間が掛かるとは思っていなかった。二~三日毎にルーシー王女とルーファス殿下が代わる代わる見舞いに来て下さり、他愛のない話をして過ごした。
「本当は毎日でも来たいんだけど、君の負担になってはいけないからね。我慢してる」
ルーファス殿下はそう苦笑いして言っていた。わたしもルーファス殿下と会えるのが楽しみになっていて、毎回見送る時は寂しさを感じてしまっていた。
一方、ルーク殿下が見舞いに訪れる事も手紙が届く事も一度もなかった。あの話し合いの後だし、どんな顔をして来れば良いのか分からなかったのだろう。なので教室で久々に顔を合わせる事となった。わたしが教室へ入って来た時は驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの婚約者としての顔へと戻し「もう身体は大丈夫なのか」と声を掛けて下さった。
「はい、ご心配をお掛け致しました」
「そうか……無理をするなよ」
「お気遣いありがとう御座います」
皆の手前、互いに普通に接してはいるが内心は落ち着かない。
「……少し良いか?」
ルーク殿下にそう言われ、教室を出て人気の少ない場所まで歩く。中庭にまで出ると端の方にあるベンチへと腰掛け、ルーク殿下が話を切り出して来た。
「あれから色々と考えた。陛下からも正式に君との婚約解消の話をされたよ」
「……そうですか」
どうやらこの一ヶ月の間に陛下からの通達も行われていたらしい。
「それで、自分の愚かさや未熟さを思い知った。今まで随分と勝手な事をして来たと反省している」
俯いたまま淡々と話をするルーク殿下の話をわたしは黙って聞く。
「陛下からは廃嫡されなかっただけ有難いと思えとお叱りを受けたよ。その通り過ぎて何も言えなかった……」
不意に顔を上げ、わたしへと視線を向ける。
「今まで本当にごめん。君には謝っても謝り切れない、そして許されるとも思ってはいない。それだけ残酷な事を君にはしたのだからな」
「殿下……」
「モデリーン、こんな私を愛してくれてありがとう。ルーファスと幸せになってくれ」
どこか吹っ切れた様な表情を見せたルーク殿下へわたしもこれまでの礼を述べた。長い長いルーク殿下との婚約生活もこれで終わるのだと思うと胸にポッカリと穴が開いたかの様に感じる。わたしの人生の全てがルーク殿下とあったのだ。それが終わる。
授業が終わり、邸へと戻ったわたしは自室で一人涙した。もう平気だと思っていたのに、やはりルーク殿下との関係が終わりを告げた事に見ない振りして来た心の奥底の気持ちが溢れ出た。自分で決めた道なのに情けない。
ひとしきり泣いて落ち着いた頃、ハウンドがそっと温かいハーブティーを淹れてくれた。何も言わずに黙ってわたしを見守ってくれる出来た従者に感謝する。
「ねぇ、ハウンド」
「はいお嬢様」
「これで良かったんだよね、わたし間違ってないよね?」
「はい、お嬢様の選択は正しいです」
「そうよね……ありがとう」
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
それから半月もしない内にわたしとルーク殿下の婚約解消、そして新たにわたしがルーファス殿下の婚約者となり王太子の交代も陛下直々に発表された。また、これまで流されていたわたしへの悪い噂も王家が調査を行い、全て虚偽の噂であった事も発表された。
その場にはわたしも参加していたが貴族達の反応は様々だった。噂を信じていた者は動揺し、逆にルーク殿下の振る舞いに思うところがあった者達は王太子の交代に歓喜の声を上げた。ルーク殿下はその反応を自分への戒めとし、皆の前で自分の非を認めた為臣下の貴族達はそんな彼を好意的に受け止めてくれた様だった。
「なんだか少し成長したみたいね、ルークも」
わたしの隣に並んで立っていたルーシー王女がポツリと呟いた。同じく反対側の隣に立つルーファス殿下もそれに頷く。
「ねぇ、まさか兄上に惚れ直したりしてないよね?」
「し、してません」
ルーファス殿下からの問いに慌てて否定を返す。ようやく気持ちが吹っ切れた所なのだ。これでまた逆戻りしたら何をしているのか分からない。今日のわたしはルーファス殿下から贈られたドレスを着て、ルーファス殿下の婚約者として隣に立っている。とんでもない事を言わないで欲しい。
「ごめん、ごめん、冗談だよ。信じてる」
「もう、殿下ったら」
そんな事を話しながら、今朝モニラと久々に会話をした事を思い出していた。
「本当は毎日でも来たいんだけど、君の負担になってはいけないからね。我慢してる」
ルーファス殿下はそう苦笑いして言っていた。わたしもルーファス殿下と会えるのが楽しみになっていて、毎回見送る時は寂しさを感じてしまっていた。
一方、ルーク殿下が見舞いに訪れる事も手紙が届く事も一度もなかった。あの話し合いの後だし、どんな顔をして来れば良いのか分からなかったのだろう。なので教室で久々に顔を合わせる事となった。わたしが教室へ入って来た時は驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの婚約者としての顔へと戻し「もう身体は大丈夫なのか」と声を掛けて下さった。
「はい、ご心配をお掛け致しました」
「そうか……無理をするなよ」
「お気遣いありがとう御座います」
皆の手前、互いに普通に接してはいるが内心は落ち着かない。
「……少し良いか?」
ルーク殿下にそう言われ、教室を出て人気の少ない場所まで歩く。中庭にまで出ると端の方にあるベンチへと腰掛け、ルーク殿下が話を切り出して来た。
「あれから色々と考えた。陛下からも正式に君との婚約解消の話をされたよ」
「……そうですか」
どうやらこの一ヶ月の間に陛下からの通達も行われていたらしい。
「それで、自分の愚かさや未熟さを思い知った。今まで随分と勝手な事をして来たと反省している」
俯いたまま淡々と話をするルーク殿下の話をわたしは黙って聞く。
「陛下からは廃嫡されなかっただけ有難いと思えとお叱りを受けたよ。その通り過ぎて何も言えなかった……」
不意に顔を上げ、わたしへと視線を向ける。
「今まで本当にごめん。君には謝っても謝り切れない、そして許されるとも思ってはいない。それだけ残酷な事を君にはしたのだからな」
「殿下……」
「モデリーン、こんな私を愛してくれてありがとう。ルーファスと幸せになってくれ」
どこか吹っ切れた様な表情を見せたルーク殿下へわたしもこれまでの礼を述べた。長い長いルーク殿下との婚約生活もこれで終わるのだと思うと胸にポッカリと穴が開いたかの様に感じる。わたしの人生の全てがルーク殿下とあったのだ。それが終わる。
授業が終わり、邸へと戻ったわたしは自室で一人涙した。もう平気だと思っていたのに、やはりルーク殿下との関係が終わりを告げた事に見ない振りして来た心の奥底の気持ちが溢れ出た。自分で決めた道なのに情けない。
ひとしきり泣いて落ち着いた頃、ハウンドがそっと温かいハーブティーを淹れてくれた。何も言わずに黙ってわたしを見守ってくれる出来た従者に感謝する。
「ねぇ、ハウンド」
「はいお嬢様」
「これで良かったんだよね、わたし間違ってないよね?」
「はい、お嬢様の選択は正しいです」
「そうよね……ありがとう」
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
それから半月もしない内にわたしとルーク殿下の婚約解消、そして新たにわたしがルーファス殿下の婚約者となり王太子の交代も陛下直々に発表された。また、これまで流されていたわたしへの悪い噂も王家が調査を行い、全て虚偽の噂であった事も発表された。
その場にはわたしも参加していたが貴族達の反応は様々だった。噂を信じていた者は動揺し、逆にルーク殿下の振る舞いに思うところがあった者達は王太子の交代に歓喜の声を上げた。ルーク殿下はその反応を自分への戒めとし、皆の前で自分の非を認めた為臣下の貴族達はそんな彼を好意的に受け止めてくれた様だった。
「なんだか少し成長したみたいね、ルークも」
わたしの隣に並んで立っていたルーシー王女がポツリと呟いた。同じく反対側の隣に立つルーファス殿下もそれに頷く。
「ねぇ、まさか兄上に惚れ直したりしてないよね?」
「し、してません」
ルーファス殿下からの問いに慌てて否定を返す。ようやく気持ちが吹っ切れた所なのだ。これでまた逆戻りしたら何をしているのか分からない。今日のわたしはルーファス殿下から贈られたドレスを着て、ルーファス殿下の婚約者として隣に立っている。とんでもない事を言わないで欲しい。
「ごめん、ごめん、冗談だよ。信じてる」
「もう、殿下ったら」
そんな事を話しながら、今朝モニラと久々に会話をした事を思い出していた。
1
お気に入りに追加
1,707
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
【完結】硬派な殿下は婚約者が気になって仕方がない
らんか
恋愛
私は今、王宮の庭園で一人、お茶を頂いている。
婚約者であるイアン・ギルティル第二王子殿下とお茶会をする予定となっているのだが……。
「また、いらっしゃらないのですね……」
毎回すっぽかされて、一人でお茶を飲んでから帰るのが当たり前の状態になっていた。
第二王子と婚約してからの3年間、相手にされない婚約者として、すっかり周知されていた。
イアン殿下は、武芸に秀でており、頭脳明晰で、魔法技術も高い。そのうえ、眉目秀麗ときたもんだ。
方や私はというと、なんの取り柄もない貧乏伯爵家の娘。
こんな婚約、誰も納得しないでしょうね……。
そんな事を考えながら歩いていたら、目の前に大きな柱がある事に気付いた時には、思い切り顔面からぶつかり、私はそのまま気絶し……
意識を取り戻した私に、白衣をきた年配の外国人男性が話しかけてくる。
「ああ、気付かれましたか? ファクソン伯爵令嬢」
ファクソン伯爵令嬢?
誰?
私は日本人よね?
「あ、死んだんだった」
前世で事故で死んだ記憶が、この頭の痛みと共に思い出すだなんて……。
これが所謂、転生ってやつなのね。
ならば、もう振り向いてもくれない人なんていらない。
私は第2の人生を謳歌するわ!
そう決めた途端、今まで無視していた婚約者がいろいろと近づいてくるのは何故!?
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
死にたがり令嬢が笑う日まで。
ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」
真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。
正直、どうでもよかった。
ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。
──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。
吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
辺境の娘 英雄の娘
リコピン
恋愛
魔物の脅威にさらされるイノリオ帝国。魔の森に近い辺境に育った少女ヴィアンカは、大切な人達を守るため魔との戦いに生きることを選ぶ。帝都の士官学校で出会ったのは、軍人一家の息子ラギアス。そして、かつて国を救った英雄の娘サリアリア。志を同じくするはずの彼らとの対立が、ヴィアンカにもたらしたものとは―
※全三章
他視点も含みますが、第一章(ヴィアンカ視点)→第二章(ラギアス視点)→第三章(ヴィアンカ視点)で進みます
※直接的なものはありませんが、R15程度の性的表現(セクハラ、下ネタなど)を含みます
※「ざまぁ」対象はサリアリアだけです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる