19 / 48
第一章 ルークの婚約者編
ルークの主張
しおりを挟む
それにしても驚いたのはルーファス殿下との婚約話だ。勿論貴族なのだから自分の想い人と婚約出来るだなんて思ってはいない。わたしの場合はたまたま婚約したルーク殿下の事を、わたしが勝手に好きになってしまっただけの話。貴族の結婚は基本、政略結婚だ。
ルーファス殿下の事は今まで一度も男性として見た事がなかった。それだけわたしはルーク殿下に熱を上げていたという事なのだけど、まさかルーファス殿下がわたしの事を想って下さっていたなんて……。
ゲームの中のルーファス殿下は隠しキャラなのだが、一見フレンドリーに見えるけど王族特有の腹黒さも垣間見えるのがファン心をくすぐってか人気キャラの一人だ。ルーファス殿下ルートに入ると、気が付いた頃には勝手に外堀が埋められていて逃げ場が無い状態で彼からの熱烈な告白を受ける。
「う……なんか今の状況ってそれに近い様な……」
ゲームでのルーファスイベントとか色々思い出してしまい、布団の中で一人悶える。どうしよう、何だか急に胸がドキドキしてきちゃった……。思えばわたしはヒロインではないしルーク殿下からは嫌われていたから、ゲームでの攻略イベントとか実際に経験した事がなかった。それに悪役令嬢だしね、ゲームのイベントがわたしと起こるとは限らないし。
「ルーク殿下の事は寂しいけど……元々婚約破棄するつもりだったんだし。それに、嫁ぎ先がルーファス殿下で良かった」
全く知らない人ではないし、むしろ仲の良い友人で、更にわたしの事を想って下さってる。こんなに出来た婚約相手は他には居ないだろう。今度こそ、幸せな人生を送るんだから!
わたしはそう決意をしながら眠りに就いた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
翌日、いつもと変わらぬ朝の登校風景の中――わたしは馬車止めの所で何故か待ち構えていたらしいルーク殿下に誰も居ない生徒会室へと連れて来られていた。朝から婚約者の出迎えで周りには仲の良い婚約者同士としか見えなかっただろう。ルーク殿下も特に変わらぬ態度でわたしの手を取って「少し話があるんだ」と廊下を歩き始めた為、黙って付いていくしかなかった。
「昨日ルーファスが公爵家を訪ねたそうだが何の用だったんだ?」
生徒会室に着くなりルーク殿下はわたしへそう訊ねて来た。これ迄の穏やかな対応とは異なり、以前の様な強い口調に昔を思い出しわたしは縮み上がった。
「あ……特にたいした話は……普段通りの雑談です」
「嘘を言うな、あいつに口説かれたりしたんじゃないのか。私にモデリーンは自分が貰うと宣言していったんだぞ」
「……っ」
「やはりそうか。いいか、モデリーン。私はモニラ嬢とは何もないんだ、誤解しないでくれ」
今度はわたしをあやす様に優しい口調へと変わる。
「君は私の事を愛してくれているのだろう? 違うのかい?」
「……ルーク殿下」
「愛しているんだモデリーン、どうか私から離れないでくれ」
身体を引き寄せられ、初めてルーク殿下の腕の中に抱き締められた。ぎゅっと苦しいくらいにわたしを抱きしめるルーク殿下。……ずっとこんな風に彼の腕の中に包まれる事を夢見ていた。モニラが彼の腕の中に居る姿を幾度か見掛けてしまい、その度にどれ程苦しかったか。
――このまま彼を抱き締め返してしまえば……楽になれるのだろうか。揺らぐ心を“そうじゃない”と必死に否定して、ルーク殿下へ声を掛ける。
「ルーク殿下……割れてしまったのです」
「え?」
少し身体を離してわたしの顔を見たルーク殿下へ左手の薬指を見せる。そこには指輪は無い。サッと顔色を変えた殿下へわたしは更に続ける。
「あの日約束して下さいましたよね、殿下にこの先、本当に愛する女性が現れた時は婚約を破棄して欲しいと」
「いや、だが……私はモニラ嬢を愛している訳ではない」
「本当にそうですか? それなのにモニラを振り払う事も出来ない、と?」
「…………」
何とも言えない気まずそうな表情をして暫く黙り込むルーク殿下。
「きっとモニラとなら殿下は幸せになれますよ」
「……ダメだ」
「殿下……」
「確かにモニラ嬢にどうやっても惹かれてしまうのは認める。だが、それとは別の話だ! 私が今愛しているのはモデリーン、君だ」
「……そうやって私を正妃に、そしてモニラを側妃へされるおつもりですか」
「何が不満なのだ、私が君を愛しているのは事実だ。これ以上どうしろというのだ」
ルーク殿下はわたしを愛していると言う。だが指輪が割れてしまった以上、その気持ちに真実味が感じられないのは仕方のない事だと思う。
「指輪ならもう一度作るから少し待っていてくれ」
「そういう事ではないんです、殿下」
「とにかく私は婚約破棄は認めない。モデリーン、君を他の男へくれてやる気は無いからな」
「殿下っ……」
「忘れるな、君は私の物だ」
そう言い残してルーク殿下は生徒会室から出て行ってしまった。呆然としてそのまま床に座り込むわたし。あんなに好きなモニラを選べるというのに、何故こんなにわたしへ固執するのだろうか。こんな事なら嫌われていたままの方が良かったかもしれない。
ルーファス殿下の事は今まで一度も男性として見た事がなかった。それだけわたしはルーク殿下に熱を上げていたという事なのだけど、まさかルーファス殿下がわたしの事を想って下さっていたなんて……。
ゲームの中のルーファス殿下は隠しキャラなのだが、一見フレンドリーに見えるけど王族特有の腹黒さも垣間見えるのがファン心をくすぐってか人気キャラの一人だ。ルーファス殿下ルートに入ると、気が付いた頃には勝手に外堀が埋められていて逃げ場が無い状態で彼からの熱烈な告白を受ける。
「う……なんか今の状況ってそれに近い様な……」
ゲームでのルーファスイベントとか色々思い出してしまい、布団の中で一人悶える。どうしよう、何だか急に胸がドキドキしてきちゃった……。思えばわたしはヒロインではないしルーク殿下からは嫌われていたから、ゲームでの攻略イベントとか実際に経験した事がなかった。それに悪役令嬢だしね、ゲームのイベントがわたしと起こるとは限らないし。
「ルーク殿下の事は寂しいけど……元々婚約破棄するつもりだったんだし。それに、嫁ぎ先がルーファス殿下で良かった」
全く知らない人ではないし、むしろ仲の良い友人で、更にわたしの事を想って下さってる。こんなに出来た婚約相手は他には居ないだろう。今度こそ、幸せな人生を送るんだから!
わたしはそう決意をしながら眠りに就いた。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
翌日、いつもと変わらぬ朝の登校風景の中――わたしは馬車止めの所で何故か待ち構えていたらしいルーク殿下に誰も居ない生徒会室へと連れて来られていた。朝から婚約者の出迎えで周りには仲の良い婚約者同士としか見えなかっただろう。ルーク殿下も特に変わらぬ態度でわたしの手を取って「少し話があるんだ」と廊下を歩き始めた為、黙って付いていくしかなかった。
「昨日ルーファスが公爵家を訪ねたそうだが何の用だったんだ?」
生徒会室に着くなりルーク殿下はわたしへそう訊ねて来た。これ迄の穏やかな対応とは異なり、以前の様な強い口調に昔を思い出しわたしは縮み上がった。
「あ……特にたいした話は……普段通りの雑談です」
「嘘を言うな、あいつに口説かれたりしたんじゃないのか。私にモデリーンは自分が貰うと宣言していったんだぞ」
「……っ」
「やはりそうか。いいか、モデリーン。私はモニラ嬢とは何もないんだ、誤解しないでくれ」
今度はわたしをあやす様に優しい口調へと変わる。
「君は私の事を愛してくれているのだろう? 違うのかい?」
「……ルーク殿下」
「愛しているんだモデリーン、どうか私から離れないでくれ」
身体を引き寄せられ、初めてルーク殿下の腕の中に抱き締められた。ぎゅっと苦しいくらいにわたしを抱きしめるルーク殿下。……ずっとこんな風に彼の腕の中に包まれる事を夢見ていた。モニラが彼の腕の中に居る姿を幾度か見掛けてしまい、その度にどれ程苦しかったか。
――このまま彼を抱き締め返してしまえば……楽になれるのだろうか。揺らぐ心を“そうじゃない”と必死に否定して、ルーク殿下へ声を掛ける。
「ルーク殿下……割れてしまったのです」
「え?」
少し身体を離してわたしの顔を見たルーク殿下へ左手の薬指を見せる。そこには指輪は無い。サッと顔色を変えた殿下へわたしは更に続ける。
「あの日約束して下さいましたよね、殿下にこの先、本当に愛する女性が現れた時は婚約を破棄して欲しいと」
「いや、だが……私はモニラ嬢を愛している訳ではない」
「本当にそうですか? それなのにモニラを振り払う事も出来ない、と?」
「…………」
何とも言えない気まずそうな表情をして暫く黙り込むルーク殿下。
「きっとモニラとなら殿下は幸せになれますよ」
「……ダメだ」
「殿下……」
「確かにモニラ嬢にどうやっても惹かれてしまうのは認める。だが、それとは別の話だ! 私が今愛しているのはモデリーン、君だ」
「……そうやって私を正妃に、そしてモニラを側妃へされるおつもりですか」
「何が不満なのだ、私が君を愛しているのは事実だ。これ以上どうしろというのだ」
ルーク殿下はわたしを愛していると言う。だが指輪が割れてしまった以上、その気持ちに真実味が感じられないのは仕方のない事だと思う。
「指輪ならもう一度作るから少し待っていてくれ」
「そういう事ではないんです、殿下」
「とにかく私は婚約破棄は認めない。モデリーン、君を他の男へくれてやる気は無いからな」
「殿下っ……」
「忘れるな、君は私の物だ」
そう言い残してルーク殿下は生徒会室から出て行ってしまった。呆然としてそのまま床に座り込むわたし。あんなに好きなモニラを選べるというのに、何故こんなにわたしへ固執するのだろうか。こんな事なら嫌われていたままの方が良かったかもしれない。
1
お気に入りに追加
1,707
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】硬派な殿下は婚約者が気になって仕方がない
らんか
恋愛
私は今、王宮の庭園で一人、お茶を頂いている。
婚約者であるイアン・ギルティル第二王子殿下とお茶会をする予定となっているのだが……。
「また、いらっしゃらないのですね……」
毎回すっぽかされて、一人でお茶を飲んでから帰るのが当たり前の状態になっていた。
第二王子と婚約してからの3年間、相手にされない婚約者として、すっかり周知されていた。
イアン殿下は、武芸に秀でており、頭脳明晰で、魔法技術も高い。そのうえ、眉目秀麗ときたもんだ。
方や私はというと、なんの取り柄もない貧乏伯爵家の娘。
こんな婚約、誰も納得しないでしょうね……。
そんな事を考えながら歩いていたら、目の前に大きな柱がある事に気付いた時には、思い切り顔面からぶつかり、私はそのまま気絶し……
意識を取り戻した私に、白衣をきた年配の外国人男性が話しかけてくる。
「ああ、気付かれましたか? ファクソン伯爵令嬢」
ファクソン伯爵令嬢?
誰?
私は日本人よね?
「あ、死んだんだった」
前世で事故で死んだ記憶が、この頭の痛みと共に思い出すだなんて……。
これが所謂、転生ってやつなのね。
ならば、もう振り向いてもくれない人なんていらない。
私は第2の人生を謳歌するわ!
そう決めた途端、今まで無視していた婚約者がいろいろと近づいてくるのは何故!?
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~
猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。
現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。
現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、
嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、
足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。
愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。
できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、
ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。
この公爵の溺愛は止まりません。
最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる