14 / 48
第一章 ルークの婚約者編
入学式 モニラと二人の王子
しおりを挟む
場所は変わって王立学園の正門付近。淡い桃色のフワフワとした髪を左右に揺らしながら一人の女子生徒がウロウロしていた。
「おかしいなぁ~正門に出ちゃった……講堂ってどっちなんだろう」
既に他の生徒達は入学式の行われる講堂に移動している為か正門付近には人の気配がなかった。このままでは入学式に遅れてしまうだろう。生徒会室に忘れ物を取りに戻っていたルークは目の前で迷子になっているらしい女子生徒に声を掛けようと近付いた。
「……モニラ……嬢?」
見覚えのあるふんわりと風に揺れる桃色の髪と甘い香り。その少女はゆっくりとこちらを振り向いて、パッと顔を輝かせた。
「わぁっ、ルーク殿下ぁ!!」
避ける間もなくいきなり抱き付かれたルークは慌てて彼女を抱き留めた。至近距離に近付いた事で更に彼女から漂ってくる甘い香りに一瞬頭の奥がクラクラとした。
「こんな所で会えるなんて! やっぱり運命で結ばれているのかも!」
久しぶりに感じる彼女の華奢な身体の感触に思わず抱きしめそうになり、ハッと我に返って彼女の身体を自分から引き剝がした。
「モ、モニラ嬢。一体君はこんな所で何をやっているのだ……まさかまた迷子か?」
数年前、偶然にも街でモニラ嬢と遭遇した事があった。その時も彼女はこんな風にキョロキョロとしていて、連れて来た使用人とはぐれてしまったと言っていた。モデリーンとの約束があるので、おおっぴらにモニラ嬢と一緒に居る訳にはいかなかった。だからこっそりと公爵家の使用人を見付け、その傍迄彼女を送り届けた。勿論この事はモデリーンにも話していないし、モニラ嬢にもルークと居た事は口止めをしておいた。
だがあれ以来、彼女からは幾度となくお礼の手紙が届けられた。モニラ嬢はルークの側近と親しいらしく、直接側近から渡される手紙を断り切れずに結局は手紙のやり取りを交わしているのが現状だ。こんな事はモデリーンには話せないし、知られてはならない。
ルークはモデリーンを愛し、幸せにすると心に決めている。それなのに何故かモニラ嬢にいつも振り回されてしまう。このままではいけないと分かっているのに……。
「そうなんです~また迷子になっちゃって。まだ時間があったから探検していたら場所が分からなくなっちゃった」
「全く君という人は……急がないと式典が始まってしまう、私と一緒に来なさい」
「ありがとう!! 殿下って本当に優しいからわたし大好きっ」
「なっ……」
なんの恥ずかしげもなく“好き”と言葉にされて顔が赤くなった。後ろに控えるモデリーンとは違ってモニラ嬢は本当に自分に素直でストレートに気持ちをぶつけて来る。こんな風に気持ちをそのままぶつけて来るのは恐らくモニラ嬢くらいなものだろう。
「ずっと逢いたかったんですよ、殿下。なのにいつもお姉様が邪魔をするか……」
「……」
「でも学園でなら毎日会えますね! モニラ、楽しみですっ」
「モニラ嬢……」
ルークの横で嬉しそうにそう話す彼女を見て困惑した。学園内とはいえ、婚約者以外の女性と親密にするのは良からぬ噂の根源となる。学園内には婚約者のモデリーンも居るのだ。
「わたしっ、お姉様に邪魔されてもめげませんから。毎日殿下に逢いに行きますから待ってて下さいね」
「いや、あの、モニラ嬢……」
ルークがモニラに断りを入れようと口を開いた時、背後から冷ややかな声が聞こえて来た。
「兄上……」
ルークの戻りが遅いのを懸念して探しに来たのか、弟である第二王子ルーファスが立っていた。ツカツカとこちらに近付き、怒りのこもった瞳でルークを見た。
「貴方はまた彼女を裏切るおつもりですか」
「違うんだルーファス、これは本当に偶然で……」
胸倉をつかまれんばかりの勢いでルーファスからの低く静かな怒声を受ける。ルーファスは大きな声で怒鳴る事はない、むしろ冷ややかで冷気の漂う様な静かさが逆に恐ろしさを感じる。
「えっと、け、喧嘩はダメですよ? 仲良くしましょ……」
「ラントス公爵令嬢は黙って。邪魔になるだけだ、早く講堂へ行け」
「ぴゃっ!?」
怒りの矛先を向けられたモニラは飛び上がって、慌ててルーファスの来た方へと走って行った。
「ルーファス、本当に俺はモニラ嬢の事は……」
「何も無いと? モデリーンに黙って文のやり取りをしている事を僕が知らないとでもお思いで?」
「……!!」
「僕は言いましたよね? もう彼女を傷付ける事は止めてくれ、と」
「あぁ、分かっている。だから今回はちゃんと初めから彼女を愛しているじゃないか!」
「それなら何故今こうなっている? 貴方と婚約してから彼女は幸せそうにしていないのは何故なんですか」
「そ、れ……はっ……」
ルークは言葉に詰まった。自分はこれまで一生懸命に努力して来た筈だ。彼女が傷付かない様に出会いから愛を示し、これまでしなかった舞踏会でのエスコートも贈り物も欠かさずしている。
「モデリーンが死んだあの日から真実を知った貴方が、嘆き苦しみ、僕に力を貸して欲しいと懇願したから。だから僕は力を貸したんだ。モデリーンが幸せになれるのなら……と」
「おかしいなぁ~正門に出ちゃった……講堂ってどっちなんだろう」
既に他の生徒達は入学式の行われる講堂に移動している為か正門付近には人の気配がなかった。このままでは入学式に遅れてしまうだろう。生徒会室に忘れ物を取りに戻っていたルークは目の前で迷子になっているらしい女子生徒に声を掛けようと近付いた。
「……モニラ……嬢?」
見覚えのあるふんわりと風に揺れる桃色の髪と甘い香り。その少女はゆっくりとこちらを振り向いて、パッと顔を輝かせた。
「わぁっ、ルーク殿下ぁ!!」
避ける間もなくいきなり抱き付かれたルークは慌てて彼女を抱き留めた。至近距離に近付いた事で更に彼女から漂ってくる甘い香りに一瞬頭の奥がクラクラとした。
「こんな所で会えるなんて! やっぱり運命で結ばれているのかも!」
久しぶりに感じる彼女の華奢な身体の感触に思わず抱きしめそうになり、ハッと我に返って彼女の身体を自分から引き剝がした。
「モ、モニラ嬢。一体君はこんな所で何をやっているのだ……まさかまた迷子か?」
数年前、偶然にも街でモニラ嬢と遭遇した事があった。その時も彼女はこんな風にキョロキョロとしていて、連れて来た使用人とはぐれてしまったと言っていた。モデリーンとの約束があるので、おおっぴらにモニラ嬢と一緒に居る訳にはいかなかった。だからこっそりと公爵家の使用人を見付け、その傍迄彼女を送り届けた。勿論この事はモデリーンにも話していないし、モニラ嬢にもルークと居た事は口止めをしておいた。
だがあれ以来、彼女からは幾度となくお礼の手紙が届けられた。モニラ嬢はルークの側近と親しいらしく、直接側近から渡される手紙を断り切れずに結局は手紙のやり取りを交わしているのが現状だ。こんな事はモデリーンには話せないし、知られてはならない。
ルークはモデリーンを愛し、幸せにすると心に決めている。それなのに何故かモニラ嬢にいつも振り回されてしまう。このままではいけないと分かっているのに……。
「そうなんです~また迷子になっちゃって。まだ時間があったから探検していたら場所が分からなくなっちゃった」
「全く君という人は……急がないと式典が始まってしまう、私と一緒に来なさい」
「ありがとう!! 殿下って本当に優しいからわたし大好きっ」
「なっ……」
なんの恥ずかしげもなく“好き”と言葉にされて顔が赤くなった。後ろに控えるモデリーンとは違ってモニラ嬢は本当に自分に素直でストレートに気持ちをぶつけて来る。こんな風に気持ちをそのままぶつけて来るのは恐らくモニラ嬢くらいなものだろう。
「ずっと逢いたかったんですよ、殿下。なのにいつもお姉様が邪魔をするか……」
「……」
「でも学園でなら毎日会えますね! モニラ、楽しみですっ」
「モニラ嬢……」
ルークの横で嬉しそうにそう話す彼女を見て困惑した。学園内とはいえ、婚約者以外の女性と親密にするのは良からぬ噂の根源となる。学園内には婚約者のモデリーンも居るのだ。
「わたしっ、お姉様に邪魔されてもめげませんから。毎日殿下に逢いに行きますから待ってて下さいね」
「いや、あの、モニラ嬢……」
ルークがモニラに断りを入れようと口を開いた時、背後から冷ややかな声が聞こえて来た。
「兄上……」
ルークの戻りが遅いのを懸念して探しに来たのか、弟である第二王子ルーファスが立っていた。ツカツカとこちらに近付き、怒りのこもった瞳でルークを見た。
「貴方はまた彼女を裏切るおつもりですか」
「違うんだルーファス、これは本当に偶然で……」
胸倉をつかまれんばかりの勢いでルーファスからの低く静かな怒声を受ける。ルーファスは大きな声で怒鳴る事はない、むしろ冷ややかで冷気の漂う様な静かさが逆に恐ろしさを感じる。
「えっと、け、喧嘩はダメですよ? 仲良くしましょ……」
「ラントス公爵令嬢は黙って。邪魔になるだけだ、早く講堂へ行け」
「ぴゃっ!?」
怒りの矛先を向けられたモニラは飛び上がって、慌ててルーファスの来た方へと走って行った。
「ルーファス、本当に俺はモニラ嬢の事は……」
「何も無いと? モデリーンに黙って文のやり取りをしている事を僕が知らないとでもお思いで?」
「……!!」
「僕は言いましたよね? もう彼女を傷付ける事は止めてくれ、と」
「あぁ、分かっている。だから今回はちゃんと初めから彼女を愛しているじゃないか!」
「それなら何故今こうなっている? 貴方と婚約してから彼女は幸せそうにしていないのは何故なんですか」
「そ、れ……はっ……」
ルークは言葉に詰まった。自分はこれまで一生懸命に努力して来た筈だ。彼女が傷付かない様に出会いから愛を示し、これまでしなかった舞踏会でのエスコートも贈り物も欠かさずしている。
「モデリーンが死んだあの日から真実を知った貴方が、嘆き苦しみ、僕に力を貸して欲しいと懇願したから。だから僕は力を貸したんだ。モデリーンが幸せになれるのなら……と」
1
お気に入りに追加
1,707
あなたにおすすめの小説
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】硬派な殿下は婚約者が気になって仕方がない
らんか
恋愛
私は今、王宮の庭園で一人、お茶を頂いている。
婚約者であるイアン・ギルティル第二王子殿下とお茶会をする予定となっているのだが……。
「また、いらっしゃらないのですね……」
毎回すっぽかされて、一人でお茶を飲んでから帰るのが当たり前の状態になっていた。
第二王子と婚約してからの3年間、相手にされない婚約者として、すっかり周知されていた。
イアン殿下は、武芸に秀でており、頭脳明晰で、魔法技術も高い。そのうえ、眉目秀麗ときたもんだ。
方や私はというと、なんの取り柄もない貧乏伯爵家の娘。
こんな婚約、誰も納得しないでしょうね……。
そんな事を考えながら歩いていたら、目の前に大きな柱がある事に気付いた時には、思い切り顔面からぶつかり、私はそのまま気絶し……
意識を取り戻した私に、白衣をきた年配の外国人男性が話しかけてくる。
「ああ、気付かれましたか? ファクソン伯爵令嬢」
ファクソン伯爵令嬢?
誰?
私は日本人よね?
「あ、死んだんだった」
前世で事故で死んだ記憶が、この頭の痛みと共に思い出すだなんて……。
これが所謂、転生ってやつなのね。
ならば、もう振り向いてもくれない人なんていらない。
私は第2の人生を謳歌するわ!
そう決めた途端、今まで無視していた婚約者がいろいろと近づいてくるのは何故!?
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~
猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。
現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。
現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、
嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、
足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。
愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。
できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、
ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。
この公爵の溺愛は止まりません。
最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる