ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
8 / 48
第一章 ルークの婚約者編

殿下の初訪問

しおりを挟む
 今日はルーク殿下が我が邸へ訪問された。朝から出迎えの準備でメイド達に着飾られ、少し緊張した面持ちで到着を待っていた。不安要素のモニラも朝から浮足立っていて、出迎え準備をしている間はわたしの部屋へとちょこちょこと出入りしていた。もうすぐ殿下の到着時間という頃になり更にソワソワし出したモニラは、殿下が来られてからは今の所顔を出しには来ていない。

「元気そうだね、良かった」
「はい、ルーク殿下もお元気そうでなによりです」

 挨拶を交わし私室のソファーセットに向かい合って座る。あぁ、やはりこうしてお姿を改めて見ると胸がドキドキとしてしまう。元々わたしは殿下との婚約が決まり、殿下と何度もお会いしている内にそのお人柄や立ち振る舞いも含めてあっという間に彼に惹かれてしまったのだった。殿下の為なら、と王太子妃教育も必死に頑張ってこなした。そんな過去から始まったわたしの恋は最初の内は特に問題もなかったのだ。そう、モニラが駄々をこねだす迄は。

「今日はね、これを君に渡そうと思って持って来たんだ」

 そう言って小さな箱をテーブルの上に置いた。見覚えのあるその箱にわたしは息を呑んだ。

「開けてみて」
「は、はい」

 促されてそっと箱を手に取る。その中身を知っているわたしは自分の手が震えそうになっていた。殿下の視線を感じながらようやく箱を開くと、中には小さな銀製のデザインリングがアクセサリー台座にはめ込まれていた。

「殿下……」

 不安げに殿下の方を見るとゆっくりと立ち上がり、向かいのソファーからこちら側へとやって来た。そしてわたしの傍に跪いてわたしの顔を見上げた。

「これは王族が自分の伴侶に贈る指輪だよ。この指輪に変わらぬ愛を誓って伴侶となる相手の指にはめて貰うと、その二人は幸せになれるって古くからの言い伝えがあるんだ」

 そう言って箱から指輪を取り、わたしの前にかざす。

「婚約したばかりで重いと言われるかもしれないけど、私を信じて欲しくて持ってきた」
「ですが殿下、これは婚姻の時に頂く物では……?」

 本来なら結婚式の時に殿下から頂く指輪だ。実は以前のわたしも貰ったには貰ったが、わたしが貰ったのはイミテーションの指輪だった。わたしには愛は無いからと殿下に言われ、本物はわたし達の結婚式よりも前に既にモニラが指にはめていた。

「相手を愛してさえいれば婚姻前でも、いつ渡しても構わないんだ。これは私が作った物だしね」

 王族は自分が愛する相手を見つけた時にこの指輪を魔法で作る事が出来る。逆を言えば愛する相手が居ない場合は作る事が出来ない。そんな話を以前、殿下から聞いた事があった。

「こ、こんな大切な物を頂く訳にはまいりませんっ」
「どうして? 私の気持ちが信じられない?」
「い、いえ……それはっ……」

 指輪が作れたと言う事は、殿はわたしの事を本当に想って下さっているという事なのだろう。だけど、それはきっと気の迷いに違いない。モニラと出会って仲良くなってしまえばきっと心変わりされるに決まっている。今迄がずっとそうだったのだから……。

「モデリーン」

 名前を呼ばれ黄金色の瞳で熱く見つめられた。

「っ……」

 頬も耳も顔の全てが熱くなっていくのが分かる。ずっと愛していた人に真っ直ぐに見つめられて、こんな風に彼からの愛を感じる事が来るなんてあり得ないと思っていた。それが例え一時の気の迷いだとしても身体全身が喜びで震えそうになる。

「指にはめさせて? ね、モデリーン」

 膝の上に乗せていたわたしの左手を殿下は自分の方へと引き寄せ、指先にちゅっと口付けを落とした。伏せた長いまつ毛がこれまた美しくて見惚れてしまう。

 ――なっ、なんなの!? なんでまだ十歳だというのにこんなに色気がある訳!?

「▽〇※■×~っ!!??」

 顔から湯気を噴き出して真っ赤になったまま何もまともな言葉を発せないわたし。それを了承と取った殿下は、わたしの薬指にスルッと指輪をはめてみせた。ブカブカだった指輪は淡い光を放ちながら縮んで、まだ小さくて細いわたしの指にピッタリとおさまった。

「うん、よく似合ってる」

 満足そうに微笑みかけてくる殿下をわたしは眩しくて直視出来ずにいた。胸のドキドキも止まらないが、殿下の事が好きすぎて泣きそうになる。このまま時間が止まってしまえば良いのに。そうしたら悲しい未来はやって来ないのに。

「あ……りが、とう……ござい、ます」

 殿下への想いが溢れてしまい、とうとう涙が堪えきれなくなってしまう。愛されなくてもずっと好きだった。イミテーションの指輪が憎らしくて……でも殿下から貰った指輪だったから、それでも大切にしていた。ずっと欲しかった憧れのがはめられている左手をぎゅっと抱きしめた。

「こんなわたくしの為に本当にありがとう御座います」

 ポロポロと涙を零すわたしを殿下は優しい手でポンポンと頭を撫でてくれた。そしてポケットからハンカチを出して、わたしの涙をそっと拭ってくれる。

 ――こんな幸せな時間、わたしは知らない。

「大切に致します……」
「うん」

 わたしの隣りへと腰掛けた殿下と見つめ合い、互いに微笑み合う。どうしよう、幸せすぎる。

 ――コンコン!

「おねーさまぁ、入って宜しいかしら?」

 不意に部屋の扉がノックと同時に開かれ、モニラがひょいと顔を覗かせた。可愛らしいワンピースを着たモニラがこちらの返事を待たずに部屋の中へと入って来た。驚いてギョッとするハウンドが慌てて対応する。

「モニラお嬢様、勝手に入られては困ります。殿下がおられるのですよ」
「だから来たんじゃない、あっ、殿下~! お久しぶりです、妹のモニラですぅ」

 周りが止めるのも構わず勝手に殿下へと声を掛けるモニラ。

「で、殿下。妹が失礼な真似をして申し訳ありません、すぐに下がらせますので」

 わたしもモニラを止める為にソファーから立ち上がった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

処理中です...