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本編
デートに行こう
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約束の通り、ロブ殿下はお昼よりも少し早目の時間に邸へと迎えに来てくれた。事前に庶民風な服装を……との指示だったので、プリメラが来ている様な質素なワンピースを着た。定食屋で働いている時よりも更に質素な服装だ。
「アリーは何を着ても可愛いね」
わたしの姿を見たロブ殿下は目を細めながら微笑む。
「そういうロブ殿下の方こそ庶民服なのに、そんなに素敵に着こなしてらっしゃるなんて凄すぎます」
ロブ殿下は普段のお忍びでは旅の傭兵風な服装をしておられるのだが、今日は至ってシンプルなシャツにズボンといったいでたちだ。なのに背中に花でも背負っているかの様に華やかな雰囲気だ。帽子を目深に被っておられるので多少なりともキラキラさは隠されているが、どこからどう見てもイケメンなのは変わらない。
「お褒め頂きありがとう。アリー」
「相変わらずな顔面凶器ですわ」
わたしの言葉にロブ殿下は楽しそうに頬を緩ませる。そして、いつもの様にエスコートされながら馬車へと乗り込む。仕事に行く時と同じ様に、わたし達の向かい側にはベッキーとブラッドが並んで座っている。
「そういえば……ロブ殿下がお忍びの時も、わたしと同じ様に影の護衛がついておられるんですか?」
「うん、そうだよ。まぁ、そうじゃなくてもブラッドが居るし俺もそれなりに強いからあまり出番はないんだけど、決まりだからね」
「全く気配とか感じられないし、凄いんですね暗部の方々って」
「それが彼らの仕事だからね。けど、隣国オルプルート王国の暗部はもっと凄いと聞くから……まだまだ鍛練が必要だろうな」
我が国の東側にあるオルプルート王国は広大な領地を持つ大国だ。同盟国として友好的な関係にあるので、リップル王女の祖国コンフォーネ王国と同様行き来する者も多い。わたしもクリス殿下の婚約者時代に何回かオルプルート王国へは公務で行った事があった。
真剣な表情で国の事を考えておられるロブ殿下は、やはり王太子様なんだな……と改めて思った。ロブ殿下が国王となられたら、きっと素晴らしい王となられるだろう。
「おっと、つい真面目な話になってしまったな。仕事の話はこれでおしまいだ」
ふっ、と柔らかな笑みを浮かべてわたしの髪を撫でる。
「今日はデートをしようと思ってるんだ。なかなか纏まった時間が取れなかったからね」
「……嬉しいです」
「隣町の海鮮市場は行った事あるかい?」
「ステグム市場ですか? 無いです」
「そこで魚の解体ショーをやっているらしいんだ。試食もあるらしいよ」
「行ってみたいです!」
「ふふ、そう言うと思った。あ、でもまずは軽く昼食としようか」
王都の街外れにある小さなカフェの前に馬車が停まる。ベッキーとブラッド、わたしとロブ殿下……の組み合わせで別々のテーブルへと座った。
「ここはパスタが美味しいんだ」
手慣れた手付きでメニューを広げ、パスタの欄を指差す。
「このナポリタンが絶品でよく来るんだよ」
「じゃあ、わたしもそれを食べてみたいです」
注文を聞きに来た店員さんに、ロブ殿下がナポリタンと紅茶を二つずつ注文した。ベッキー達の方を見ると、あちらはサンドウィッチを注文している様だった。暫く他愛もない話をしていると、熱々の鉄板に乗せられたナポリタンが運ばれて来た。その光景に前世の喫茶店を思い出す。
――――まさしく、レトロな喫茶店のナポリタンだわ。
どこか懐かしさを感じながら、熱々のナポリタンを堪能する。小さなテーブルで、こうやって仲良く食事をする……それだけでも幸せな気持ちになる。目の前に居るこの人が王子様だなんて誰も思わないだろうな……。王太子の顔をしていない普段のロブ殿下は非常に気さくで爽やかな青年だ。わたしはそんな素のロブ殿下の事も、昔から大好きだったのよね。
そういえば、ロブ殿下はわたしの何処を好きになってくれたのだろうか。……ずっと好きだったとおっしゃって下さったけど、一体いつから想って下さってたのかしら。いつか聞いてみても良いのかな……。
「アリーは何を着ても可愛いね」
わたしの姿を見たロブ殿下は目を細めながら微笑む。
「そういうロブ殿下の方こそ庶民服なのに、そんなに素敵に着こなしてらっしゃるなんて凄すぎます」
ロブ殿下は普段のお忍びでは旅の傭兵風な服装をしておられるのだが、今日は至ってシンプルなシャツにズボンといったいでたちだ。なのに背中に花でも背負っているかの様に華やかな雰囲気だ。帽子を目深に被っておられるので多少なりともキラキラさは隠されているが、どこからどう見てもイケメンなのは変わらない。
「お褒め頂きありがとう。アリー」
「相変わらずな顔面凶器ですわ」
わたしの言葉にロブ殿下は楽しそうに頬を緩ませる。そして、いつもの様にエスコートされながら馬車へと乗り込む。仕事に行く時と同じ様に、わたし達の向かい側にはベッキーとブラッドが並んで座っている。
「そういえば……ロブ殿下がお忍びの時も、わたしと同じ様に影の護衛がついておられるんですか?」
「うん、そうだよ。まぁ、そうじゃなくてもブラッドが居るし俺もそれなりに強いからあまり出番はないんだけど、決まりだからね」
「全く気配とか感じられないし、凄いんですね暗部の方々って」
「それが彼らの仕事だからね。けど、隣国オルプルート王国の暗部はもっと凄いと聞くから……まだまだ鍛練が必要だろうな」
我が国の東側にあるオルプルート王国は広大な領地を持つ大国だ。同盟国として友好的な関係にあるので、リップル王女の祖国コンフォーネ王国と同様行き来する者も多い。わたしもクリス殿下の婚約者時代に何回かオルプルート王国へは公務で行った事があった。
真剣な表情で国の事を考えておられるロブ殿下は、やはり王太子様なんだな……と改めて思った。ロブ殿下が国王となられたら、きっと素晴らしい王となられるだろう。
「おっと、つい真面目な話になってしまったな。仕事の話はこれでおしまいだ」
ふっ、と柔らかな笑みを浮かべてわたしの髪を撫でる。
「今日はデートをしようと思ってるんだ。なかなか纏まった時間が取れなかったからね」
「……嬉しいです」
「隣町の海鮮市場は行った事あるかい?」
「ステグム市場ですか? 無いです」
「そこで魚の解体ショーをやっているらしいんだ。試食もあるらしいよ」
「行ってみたいです!」
「ふふ、そう言うと思った。あ、でもまずは軽く昼食としようか」
王都の街外れにある小さなカフェの前に馬車が停まる。ベッキーとブラッド、わたしとロブ殿下……の組み合わせで別々のテーブルへと座った。
「ここはパスタが美味しいんだ」
手慣れた手付きでメニューを広げ、パスタの欄を指差す。
「このナポリタンが絶品でよく来るんだよ」
「じゃあ、わたしもそれを食べてみたいです」
注文を聞きに来た店員さんに、ロブ殿下がナポリタンと紅茶を二つずつ注文した。ベッキー達の方を見ると、あちらはサンドウィッチを注文している様だった。暫く他愛もない話をしていると、熱々の鉄板に乗せられたナポリタンが運ばれて来た。その光景に前世の喫茶店を思い出す。
――――まさしく、レトロな喫茶店のナポリタンだわ。
どこか懐かしさを感じながら、熱々のナポリタンを堪能する。小さなテーブルで、こうやって仲良く食事をする……それだけでも幸せな気持ちになる。目の前に居るこの人が王子様だなんて誰も思わないだろうな……。王太子の顔をしていない普段のロブ殿下は非常に気さくで爽やかな青年だ。わたしはそんな素のロブ殿下の事も、昔から大好きだったのよね。
そういえば、ロブ殿下はわたしの何処を好きになってくれたのだろうか。……ずっと好きだったとおっしゃって下さったけど、一体いつから想って下さってたのかしら。いつか聞いてみても良いのかな……。
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