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本編
さて、どうしましょう
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あれからすぐに我がネリネ侯爵家の邸へ、王家から正式にクリス殿下との婚約解消の書類が届けられた。婚約破棄ではなく、王家側の都合による婚約解消だ。これなら我が侯爵家へのダメージは殆ど無いに等しい。とはいえ、もうすぐ卒業を控えて十八歳を迎えた侯爵家の令嬢がいきなり婚約者不在となったのだ。これは少々外聞が悪い。
わたしとクリス殿下の婚約解消は、物語みたいに派手な断罪劇もなくそれはもうアッサリと解消されたけど……わたし自身が何も感じていないという事でもない。約十年以上の間、王子妃になる為に厳しい妃教育を受け、ちょっと頭の弱いクリス殿下を必死で支え続け、淑女の見本となる様に頑張って来た日々があったからか……正直気が抜けてしまった。
悲しいとか、悔しいとか、そんな感情は無いのだけど……なんだろう。ここ数日間は何をしてても、心ここにあらずというか。ため息と共に空を見つめる日々を過ごしてきた。
「お嬢様は頑張り過ぎておられたのですよ、少しゆっくりなさるのも良いのでは?」
と侍女のベッキーからは言われ、お父様もお母様も「暫くは婚約の事は考えなくて良いから」と慰められ? 婿養子を貰ってこの侯爵家を継ぐ予定のお姉さまからも「今まで我慢してきた分、好きな事して過ごしなさい」と優しく微笑まれて……なんだか腫れもの扱いだけど、皆とても優しい。
確かに今は新たな婚約を誰かと結ぶ気にはなれない。それにわたしと同じ年頃の貴族令息たちは、もう既に誰か婚約者が居るのが当たり前だろう。かなり格下の男爵家とか辺りなら、まだ相手の居ない方も居るかもしれないが……素敵と思える様な男性はもう残ってはいないだろう。
わたしに残された道と考えると少し歳の離れた方の後妻に入るか、或いは他国に嫁ぐ……というのが妥当なところかもしれない。どちらにしても、このままこの邸に居座る訳にはいかないだろう。ここはお姉さま達が近々継がれる筈だ。
「あとは……王宮で働くとか?」
王宮の侍女とかなら結婚しなくても済む。誰かとの婚約も考えなくて良い。
「……それか、貴族籍から抜けて市井で暮らすとか?」
今は貴族として生きているが、元々前世は普通の日本人だ。実家からは独立し、自分で働いて稼いだお金で独り暮らしもしていた。それが普通だったし、それを苦とは思ってなかった。職場の仲間とも仲が良くて、それなりに楽しい人生を送っていた。
「うん、それも悪くないかもね」
私室にある貴重品入れを開ける。前世でいうと金庫みたいなものだ。ここがゲームの世界かもしれないと疑っていた事もあって、もし断罪やら国外追放やらされた時の為に密かにお小遣いを貯めていた。まぁ、普段の買い物は貴族なので基本的にはツケで購入する事が多いのだけど、それでも現金を持っていないのも不便なので毎月幾らかの現金をお小遣いとして父から頂いていた。
袋に入れた金貨や銀貨は、結構な金額があるとは思う。だけど、まずは職を見つけないとあっという間に貯めていたお金も底が尽きてしまうだろう。という事は、これから暮らすかもしれない市井の様子を見にちょっと出掛けてみようかな。
ベッキーに馬車の用意をさせて、わたしは街へと向かう事にした。
わたしとクリス殿下の婚約解消は、物語みたいに派手な断罪劇もなくそれはもうアッサリと解消されたけど……わたし自身が何も感じていないという事でもない。約十年以上の間、王子妃になる為に厳しい妃教育を受け、ちょっと頭の弱いクリス殿下を必死で支え続け、淑女の見本となる様に頑張って来た日々があったからか……正直気が抜けてしまった。
悲しいとか、悔しいとか、そんな感情は無いのだけど……なんだろう。ここ数日間は何をしてても、心ここにあらずというか。ため息と共に空を見つめる日々を過ごしてきた。
「お嬢様は頑張り過ぎておられたのですよ、少しゆっくりなさるのも良いのでは?」
と侍女のベッキーからは言われ、お父様もお母様も「暫くは婚約の事は考えなくて良いから」と慰められ? 婿養子を貰ってこの侯爵家を継ぐ予定のお姉さまからも「今まで我慢してきた分、好きな事して過ごしなさい」と優しく微笑まれて……なんだか腫れもの扱いだけど、皆とても優しい。
確かに今は新たな婚約を誰かと結ぶ気にはなれない。それにわたしと同じ年頃の貴族令息たちは、もう既に誰か婚約者が居るのが当たり前だろう。かなり格下の男爵家とか辺りなら、まだ相手の居ない方も居るかもしれないが……素敵と思える様な男性はもう残ってはいないだろう。
わたしに残された道と考えると少し歳の離れた方の後妻に入るか、或いは他国に嫁ぐ……というのが妥当なところかもしれない。どちらにしても、このままこの邸に居座る訳にはいかないだろう。ここはお姉さま達が近々継がれる筈だ。
「あとは……王宮で働くとか?」
王宮の侍女とかなら結婚しなくても済む。誰かとの婚約も考えなくて良い。
「……それか、貴族籍から抜けて市井で暮らすとか?」
今は貴族として生きているが、元々前世は普通の日本人だ。実家からは独立し、自分で働いて稼いだお金で独り暮らしもしていた。それが普通だったし、それを苦とは思ってなかった。職場の仲間とも仲が良くて、それなりに楽しい人生を送っていた。
「うん、それも悪くないかもね」
私室にある貴重品入れを開ける。前世でいうと金庫みたいなものだ。ここがゲームの世界かもしれないと疑っていた事もあって、もし断罪やら国外追放やらされた時の為に密かにお小遣いを貯めていた。まぁ、普段の買い物は貴族なので基本的にはツケで購入する事が多いのだけど、それでも現金を持っていないのも不便なので毎月幾らかの現金をお小遣いとして父から頂いていた。
袋に入れた金貨や銀貨は、結構な金額があるとは思う。だけど、まずは職を見つけないとあっという間に貯めていたお金も底が尽きてしまうだろう。という事は、これから暮らすかもしれない市井の様子を見にちょっと出掛けてみようかな。
ベッキーに馬車の用意をさせて、わたしは街へと向かう事にした。
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