【近々再開予定】ピンク頭と呼ばないで―攻略対象者がお花畑で萌えない為スルーして良いですか―

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
16 / 24
第一章

聖女覚醒しました

しおりを挟む
 いよいよ属性判定の日になった。今日だけ特別で、新入生は全クラス合同での授業だ。講堂へと集まった生徒たちは各クラス毎に整列して並んではいるものの、皆そわそわとしている。その視線を集めるのは、魔法学の担当教師であるマイヤーコブ先生の傍にある大きな水晶球。

 この水晶球を使ってそれぞれの魔法属性を調べる事になる。そしてこの儀式を終える事によって、今まで使えなかった魔力が解放されて魔法を使えるようになるのだ。いくら魔力を持っていても、その力を解放しなければどんなに呪文を唱えようとも魔法は発動しない。

「これから順番に水晶球の前に出て来て貰う。判定が終わったら、その属性のバッジを渡すので制服に付けるように」

 ゲームの中でもあったこの光景にちょっとドキドキする。あぁ、あたしゲームの世界に居るんだなぁ……と実感する瞬間だ。ヒロインであるあたしは、後に聖女認定を受ける事になるので聖属性持ちという事は知っているけど、やっぱりこのイベントは緊張しちゃうなぁ。

「なんか緊張するな……」

 あたしの横でポツリとブルーニクスがそう呟く。

「魔道具とかバリバリに作ってるのに緊張するの?」
「それとこれとは別だよ。まだ俺自身は魔法使える訳じゃないし、これでやっと自分で魔力を込める事が出来るからな」

 ブルーニクスは魔道具を作っているけど、それは他の人が魔力を込めた魔石を用いて作っているに過ぎなかった。これからは自分でも魔石に魔力を込められるし、込める魔力の量も自分で色々と調節も出来るんだそうだ。

「色々と難しいのね、魔道具作りって」
「当たり前だろ。簡単に出来るんなら誰も店で買わないよ」
「確かにそうね」

 ブルーニクスの魔力の属性ってなんだろう? 彼は攻略対象者ではないし、ゲームの中では彼についての記述はひとつもなかった。顔はそこそこイケてるのよね。攻略対象者の誰とも上手く行かなかったら、あたしをお嫁に貰ってくれたりしないかなぁ……。

「え、なに? 俺の顔見ながらよからぬ事考えてないスか、お嬢」
「いっ!? ヤダな~そんな訳ないじゃない」

 そんな怪しい顔してたのかしら、それとも勘が鋭いだけ? 昔からブルーニクスはあたしの異変を察知するのが上手い。転生直後も前世での性格が融合されたあたしを見て何故かお腹を抱えて笑っていた。「お嬢はそれくらいな方がいい!」と褒めていたのか褒めていないのか、よく分からない言葉を貰ったなぁ。

「あ、俺の番だ。行って来る」
「頑張って」

 ブルーニクスを送り出す。緊張してるのが背中からも伝わってくる。先生の指示に従って、ブルーニクスが水晶球に手をかざすと……水晶球の中にぐおんっ! と水しぶきが舞った。おおっ、水属性なのね。

「わっ……ぷっ」

 それも結構魔力が強いみたいでブルーニクスの顔めがけて水晶球からバシャン! と大きな水しぶきが掛かった。周りの生徒たちも思わず水を避ける。ブルーニクスは頭から水をかぶってびしょびしょだ。生徒たちから笑いが起こる。ブルーニクスも一緒に笑っている。

 マイヤーコブ先生が腕を弧を描くように動かした途端、濡れていた髪も服も床に出来た水たまりも全て一瞬できれいに元通りになった。先生の魔法に皆が感嘆の声を上げる。さすが先生だ、魔法の扱いがとても優雅で美しい。

「ブルーニクス・カルベロスは水属性ですね。力が強いようなので制御に気を付けてください」
「はいっ」

 魔法学副担の先生から属性バッジを受け取り、嬉しそうにこちらへと戻ってきた。仲良しのクラスメイトたちに背中をバシバシ叩かれている。

「次、パフィット・カルベロス。前へ」
「はい!」

 自分の名前が呼ばれたのでドキリとして水晶球の前へと進む。大丈夫、ゲームでは聖なる光が天井から降り注ぐだけだった。深呼吸をして腕を水晶球の方へと延ばす。

 ――チカリ。

 水晶球が一瞬小さく光った――と思ったのもつかの間。まばゆい程の光がキラキラと天井から降り注ぎ、辺り一面虹色に輝き出した。そしてあちこちから「ん?」「あれっ……?」と戸惑ったような声が聞こえ始める。

「昨日怪我した傷が消えた!」
「風邪ひいて熱っぽかったのに急に熱が下がった」
「生まれつきの喘息が……もしかして治ってる!?」

 と、どうやら勝手に発動したらしい治癒魔法らしき効果を感じた生徒たちが各々驚きの声を上げる。

「深爪したのに痛くなくなってる!」
「あれ……心臓が重苦しくない? うわー、走れるよっ! 嘘みたいだ、僕走れるよっ!」
「ぼ、坊ちゃま!? そんな風に走られては……て、おや? 長年患っていた腰痛が消えましたぞ。坊ちゃまー爺も走れますぞー」
「おっ(ごそごそ)皆に知られてはいけない痔が……治ってるではないか」
「あれ……記憶喪失だったのが、全部思い出したぞ。おお、そなたは愛しい我が婚約者殿ではないか! 忘れていてごめんっ」
「思い出して下さったのですね! 嬉しいですっ」

 なんかどうでも良いものやら、聞いちゃいけないものやら、感動の再会? やら……その効果はあらゆる所へと波及しているようだった。……あの心の臓を患っておられた病弱令息さまは、特別に爺やを伴われての学園生活でしたけど元気になられたようで良かった。

 皆が色々驚いている中、横に居たマイヤーコブ先生も驚きを隠せないまま微笑まれた。

「カルベロス嬢は珍しい聖属性をお持ちのようですね」
「そ、そのようですね……」
「ありがとう御座います、わたしの憑き物も除霊されたようです」
「はひっ!? そ、ソウデスカ……それは良かったです」

 マイヤーコブ先生、そんなの背負っておられたんですか!? 皆の方を振り返ると、今まで遠巻きに接していた生徒たちがわっと周りに集まって来た。おおっ、ようやくヒロインパワー発動って感じですね。さっきので“何かを”治して貰ったらしい方々からは口々にお礼を言われてなんだか照れてしまう。勝手に発動しちゃっただけだからね、あたし何もしてないと同じだからね。まぁ、それでも皆の助けになれたのなら聖女も悪くないかもしれない。これだけはヒロインに生まれて来て良かったかも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

処理中です...