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第二章
第十九話 ヒロイン①
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思わぬ場所でヒロインと出逢ってしまったわたしは、心の中で号泣しながらも平然とした振りをする。わたしはヒロインを知っているが、向こうはわたしの事なんて知る筈がない。
「えっと、急に声掛けてごめんなさい。少しお時間宜しいですか?」
「え、ええ……なんでしょうか?」
偶然よね? ここで出逢ったのは偶然だよね? 何かのゲーム補正とかじゃないよね。
「私、貴族になったばっかりで。こんな高級な便箋とか買った事ないんですけど~どれを選べば良いのかサッパリで。良かったらアドバイス頂けないかと思って」
「は、はぁ……」
屈託のないニコニコとした笑顔を向けるヒロインに、戸惑いながらも流行りの便箋を幾つかお教えした。すると、その便箋の中から二種類を選択されて嬉しそうに「ありがとう御座いました! 早速購入して来ます」とお礼を述べられ、店の奥へと消えて行かれた。
いつの間にか男爵家に養子入りされたのね、わたしにはまだその情報は伝わってきていないけど……念の為、殿下には報告しておこうかしら。改めて便箋の棚に向き合うと、殿下宛てに使う便箋を追加で選んでスワンに会計をお願いした。
わたしは先に店を出て、外で待機していたカーマインと合流する。本当は羽ペンとか他にも色々と見て回りたかったけど、何だか気が削がれてしまった。
「ゼフィー!」
耳にタクト様のイケメンボイスが聞こえて来て、声のした方へ視線を向けると制服姿のタクト様が馬車を降りて、こちらへ駆けて来るのが見えた。えっ、えっ、ヒロインの次はタクト様!?
「良かった、まだここに居たんだね」
どうやらカーマインがタクト様にわたしが出掛ける事を知らせていたらしい。嬉しいけど、この状況はマズい気がする。まだヒロインは店の中に居るけど、いつ出てくるか分からない。
「お久しぶりです、タクト様」
「会えて嬉しいよ、なかなか時間が取れなくて申し訳ない」
「いいえ、お忙しい中こうやって会いに来て下さるのですから。それだけで嬉しいです」
「今日は早く終わったんだ。カフェにでもどうかな? と思って来たんだけど……」
「はい、是非ご一緒させて下さい」
丁度、店の中からスワンが出てきた。安堵したのもつかの間、その後ろからはヒロインが侍女を連れて出て来てしまった。うっ……タイミング最悪。早く、この場から離れなくては! なのに、いち早くヒロインがわたしの姿を見つけてパァアアアアアと笑顔を見せた。
「あ! さっきはありがとう御座いました~助かりましたぁ」
「え……いえ、別に」
なんで話し掛けてくるの! タクト様に会わせたくないのに! わたしの心の声なんか知らないヒロインは、嬉しそうにこちらに寄って来る。その途中、わたしの傍に居るタクト様の姿を見て固まった。
「……え、タク……ト様? うそぉ~入学前に会えるなんて、ラッキー」
ボソッと小さな声でヒロインが呟くのを、わたしの耳は聞き逃さなかった。そして駆け寄りながら「あっ!」とわざとらしく躓いて、タクト様の方へと倒れ込む。条件反射でタクト様はそのヒロインを抱き止めた。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとう御座いますぅ~助けて頂いて」
タクト様の腕の中におさまったまま、うっとりとした表情で見上げるヒロイン。その二人の姿にわたしは既視感を感じた。――――これ、タクト様との出逢いイベントだわ。
実際はヒロインが入学してから、街に買い物に出掛けた時に起こるタクト様との出逢いイベントだ。それを時期を無視して無理矢理起こしたんだわ。そんな事は知らないタクト様は、何故かなかなか離れようとしないヒロインに戸惑いながら、わたしの方をチラチラと見て焦っておられる。
ヒロインは故意だろうけど、仕方なく抱き合う形になってしまった二人をわたしは複雑な思いで見ていた。
「えっと、急に声掛けてごめんなさい。少しお時間宜しいですか?」
「え、ええ……なんでしょうか?」
偶然よね? ここで出逢ったのは偶然だよね? 何かのゲーム補正とかじゃないよね。
「私、貴族になったばっかりで。こんな高級な便箋とか買った事ないんですけど~どれを選べば良いのかサッパリで。良かったらアドバイス頂けないかと思って」
「は、はぁ……」
屈託のないニコニコとした笑顔を向けるヒロインに、戸惑いながらも流行りの便箋を幾つかお教えした。すると、その便箋の中から二種類を選択されて嬉しそうに「ありがとう御座いました! 早速購入して来ます」とお礼を述べられ、店の奥へと消えて行かれた。
いつの間にか男爵家に養子入りされたのね、わたしにはまだその情報は伝わってきていないけど……念の為、殿下には報告しておこうかしら。改めて便箋の棚に向き合うと、殿下宛てに使う便箋を追加で選んでスワンに会計をお願いした。
わたしは先に店を出て、外で待機していたカーマインと合流する。本当は羽ペンとか他にも色々と見て回りたかったけど、何だか気が削がれてしまった。
「ゼフィー!」
耳にタクト様のイケメンボイスが聞こえて来て、声のした方へ視線を向けると制服姿のタクト様が馬車を降りて、こちらへ駆けて来るのが見えた。えっ、えっ、ヒロインの次はタクト様!?
「良かった、まだここに居たんだね」
どうやらカーマインがタクト様にわたしが出掛ける事を知らせていたらしい。嬉しいけど、この状況はマズい気がする。まだヒロインは店の中に居るけど、いつ出てくるか分からない。
「お久しぶりです、タクト様」
「会えて嬉しいよ、なかなか時間が取れなくて申し訳ない」
「いいえ、お忙しい中こうやって会いに来て下さるのですから。それだけで嬉しいです」
「今日は早く終わったんだ。カフェにでもどうかな? と思って来たんだけど……」
「はい、是非ご一緒させて下さい」
丁度、店の中からスワンが出てきた。安堵したのもつかの間、その後ろからはヒロインが侍女を連れて出て来てしまった。うっ……タイミング最悪。早く、この場から離れなくては! なのに、いち早くヒロインがわたしの姿を見つけてパァアアアアアと笑顔を見せた。
「あ! さっきはありがとう御座いました~助かりましたぁ」
「え……いえ、別に」
なんで話し掛けてくるの! タクト様に会わせたくないのに! わたしの心の声なんか知らないヒロインは、嬉しそうにこちらに寄って来る。その途中、わたしの傍に居るタクト様の姿を見て固まった。
「……え、タク……ト様? うそぉ~入学前に会えるなんて、ラッキー」
ボソッと小さな声でヒロインが呟くのを、わたしの耳は聞き逃さなかった。そして駆け寄りながら「あっ!」とわざとらしく躓いて、タクト様の方へと倒れ込む。条件反射でタクト様はそのヒロインを抱き止めた。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとう御座いますぅ~助けて頂いて」
タクト様の腕の中におさまったまま、うっとりとした表情で見上げるヒロイン。その二人の姿にわたしは既視感を感じた。――――これ、タクト様との出逢いイベントだわ。
実際はヒロインが入学してから、街に買い物に出掛けた時に起こるタクト様との出逢いイベントだ。それを時期を無視して無理矢理起こしたんだわ。そんな事は知らないタクト様は、何故かなかなか離れようとしないヒロインに戸惑いながら、わたしの方をチラチラと見て焦っておられる。
ヒロインは故意だろうけど、仕方なく抱き合う形になってしまった二人をわたしは複雑な思いで見ていた。
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